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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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紫桜編その3

 「おめえ、どうやって姫様に取り入ったんだ?」


昼過ぎに牢にやって来た源は、不思議そうにそう尋ねてくる。


「出てもいいとよ。

空き家が1つあるから、これからはそこに住みな。

姫様は、おまえを屋敷の離れにでも住まわせるおつもりだったが、そんなことはこの俺とあいつが許さねえ。

いつ姫様に襲いかかるかわからねえからな」


鍵を開け、自分を促す源。


「家まで案内してやるから、付いて来な」


「タバコはないのか?」


「はあ?」


「自分が知っている場面では、牢から出してもらった者は、その建物の前で、迎えに来た者から貰ったタバコをうまそうに吸っていることが多かった。

様式美なのかと思っていたが、違うのか?」


「なわけねえだろう。

ガキがナマ言ってんじゃねえよ。

あれば俺だって吸いてえよ」


「タバコは身体に良くないぞ」


「喧嘩売ってんのか、てめえ」


「何をそんなに怒っている?

適度な会話をして、お互いの友好関係を築こうとしている自分の配慮がわからないとは」


「・・我慢しろ~。

我慢するんだ。

姫様から、手出しをするなと言われてるじゃないか」


下を向き、握り締めた拳を震わせながら、そう呟く源。


「なかなかうまくいかないものだな」


いつかとある星のテレビで見た、漫才のボケとツッコミを演じて場を和まそうとした和也は、自分には向いてないことを自覚するのだった。

その後、どうにか怒りを収めた源に連れられて、空き家の前に来る。


「なあ、本国の奴じゃないんだよな?」


「違う」


「じゃあどうやってこの島まで来たんだ?

1番近い隣の島まで50kmはあるぞ。

まさか泳いできたとでも言うつもりか?」


「転移魔法だ」


「マジか?

こんな距離を?

・・それって他の奴も一緒に移動できるのか?」


「そんなことを聞いてどうする?」


「俺達にもしものことがあったら、姫様だけでも連れて逃げてくれねえか?」


「結界魔法は大丈夫なのか?」


「あれはこの島の周囲を覆ってはいるが、おまえには効かなかった。

なら、おまえが抱えていれば大丈夫かもしれない」


「”普通”の転移魔法は自分1人しか転移させることができない。

膨大な魔力量が必要になるからな。

無理をすれば、途中のどこかに落ちることもある」


「そうか。

まあ、そう都合よくいかねえわな」


「おまえ達に何かある予定なのか?」


「・・いや、ねえよ。

あっちゃならねえ。

・・その家は好きに使いな。

あと、捕虜じゃねえんだから、これからは自分の飯くらいどうにかしろよ?

暫くは、面倒みてやるけどよ」


そう言って、去っていく源。

あてがわれた家を見る。

2~3年くらい放置されているようだが、まだ十分住める。

浄化の魔法をかけてから、中に入って行った。



 午前1時を過ぎた頃、昨日と同じ時間に露天風呂に入りに行く。

程無く、紫桜が入ってきた。


「ちゃんといてくれたのね」


嬉しそうに近づいて来る彼女は、相変わらず無防備だ。

小さな手ぬぐいを持ってはいるが、取り立てて自分の身体を隠そうともしない。

湯を浴び、湯船に入ってきた彼女は、自分の正面に座り、話かけてくる。


「今日は御免なさいね。

本当は、離れの部屋を使ってもらおうとしたのだけれど、あやめさん達がどうしても許してくれなくて。

あなたなら大丈夫って、何度も頼んだのだけれど」


「気にするな。

あそこも手を加えれば、十分住める。

源という男から、今後は食料も自分で何とかしろと言われたので、森に入ってもいいか?」


「駄目!!

絶対駄目!!!」


いきなり、強く拒否された。


「散歩しながら近くまで行ったが、森への入り口に門があり、結界と封印が施してあった。

何か理由があるのか?」


「見えたの?

あの魔法が?

・・それより、じゃあ、あそこも見たのね?

闘技場も」


「あの血で汚れた広場のことか?」


「ええ。

・・・ここに滞在する以上、話しておかないと駄目ね。

ちょっと長くなるけど、しっかり聞いてね」


湯から上がり、湯船の縁に腰掛けた彼女が語りだす。


「この島はね、元は罪人の流刑地なの。

死罪にならない程度の罪を犯した者達を、本国から遠ざけるためのね。

それが、2代前の天帝から少し変えられて、今では罪を犯した者達の家族が送られて来る」


「家族?

その者達も何らかの罪を犯しているのか?」


「いいえ、何もしてないわ。

ただ、罪人の家族というだけ」


「ではなぜ島流しに遭う?」


「天帝曰く、罪を犯した者の血が、その家族にも流れているから。

遠からず、罪を犯す可能性を持った”穢れし者”だからだそうよ。

・・おかしいでしょう?

彼らはまだ何もしていないのよ?

それなのに、ただその可能性が他より強いという”こじつけ”だけでここに送られてくる」


「ここにいた、本来の罪人達はどうした?」


「もう1つ、本国としては数えない小さな島が別にあって、そこで鉱山労働を強いられてるわ。

有毒ガスがひどくて、普通なら人は立ち入れない場所だけれど、貴重な金が採れるの」


静かな空間に、掛け流しの湯が流れる音だけが響く。


「この島は、その3分の2が火山とその麓の森で占められていて、森の資源を有効活用しなければ、多くの人を養うのは難しい。

だから最初のうちは、森に入って木を切り、獲物を狩って暮らしていたわ。

でも、ちょうど今頃の秋の終わり、夜空に赤い満月が懸かった夜に、ある事件が起きた。

・・あの火山には、魔獣が棲んでいたの。

とても大きくて、口から火を吐き、爪に毒を持った火狐が。

・・それに村を襲われて、村人の多くがその餌になった。

その時期が彼らの繁殖期らしく、冬が来る前に、沢山の獲物を狩る必要があったのね。

幸い、赤い満月は年に1度しか懸からない。

襲われる日はわかったけれど、その当時の村人達には、彼らと戦う術はなかった。

舟で海に逃げようにも、結界魔法が張られていて、島から出られない。

どんどんその数を減らしていったわ」


肌寒くなったのか、湯に浸かりなおす紫桜。


「そんな時、たまたまこの島の近くを通った、私の祖父の乗る船が、大嵐に遭って、祖父は一時的にこの島に逗留したの。

そして、生き残った村人から、事情を聴いた祖父は、天帝に直訴したわ。

罪人ならまだしも、罪を犯していないその家族まで、そのような目に遭うのはあまりに憐れだと。

・・でも、天帝は言ったらしいわ。

『犯罪分子が減って、ちょうど良いではないか』って。

・・もともと、祖父と天帝は、罪を犯していないその家族まで流刑に処すことについて対立していたから、余計に聞き入れてもらえなかったのね」


「君の祖父は何者なんだ?」


「天帝の従姉弟よ。

武術に優れ、人望もあったけど、男だから女しか継げない天帝にはなれなかった。

・・祖父はね、よく言ってたわ。

自分達だって食べるのが大変なのに、逗留中に出してくれたおにぎりの味が忘れられないって。

海苔も巻いてない、何の具も入ってない、塩味さえついてなかったおにぎりだけど、村人の心のこもったその味が忘れられないって。

・・だからなのね。

祖父は、周囲の反対を押し切ってこの島に移り住んだ。

自分を慕って付いて来てくれた僅かな部下と共に、毎年、火狐と戦いながら、村人に武術を教え、生き延びるための手段を与えたの」


「あの門には、外側から入れない結界だけではなく、内側からも出られないように封印がしてあった。

年に1度の襲撃で済むなら、こちらから森に入れなくする必要まではないのではないか?

それに、結界が張れるなら、そもそも魔獣と戦う必要はないだろう?」


「そうね。

向こうから襲ってくるのは赤い満月の日だけだけど、森の奥深くに分け入れば、当然、火狐に出会う可能性もあるし、そこで追われて逃げてくれば、徒に彼らの侵入を許すことにも繋がる。

外側の結界は、この島の周囲の結界を張った人達と同じ、大勢の本国の魔法士達が、後になってから張ったものなの。

随分強力だから、個人でおいそれと張れるものではないし、その開閉には本国の特殊な魔道具を必要とする。

ある理由があって、この島には、祖父の代でもろくに魔法を使える者がいなかったし、今でも満足に魔法を使えるのは、わたくしくらいなの。

そんな訳で、戦うしかなかったのよ。

当時も、そして・・今もね。

・・ここから本国に納める税は、何で支払っているかわかる?」


「税が課せられているのか?」


「祖父が住み着く以前の、ただの流刑地だった頃は、もちろん無税だったわ。

でも、祖父がここに住み着いて、お金を作るために、ある物を本国に売ったのがきっかけとなり、重い税が課されるようになった」


「まさか、魔獣の素材か?」


「そう。

・・火狐の毛皮は、とても綺麗な艶があり、武具を作る素材としてはもちろんのこと、服などの装飾品としても非常に高い価値があるの。

本国は、それに目をつけた。

次の年から、島の人口に比例した数を要求してきたわ」


「どれくらいなんだ?」


「村人30人当たり1体。

1人でも増えればその分容赦なく取り立てられる。

90人なら3体、91人なら4体になる。

そして、酷いのはここから。

もし、人数分の税を納められなかったら、どうなると思う?

その時戦闘に参加していなかった村人の中から、足りない分の人数が鉱山送りになるの。

91人で3体しか納められなければ1人が、99人で3体なら9人が。

老人や小さな子供、病人など、獰猛な魔獣と戦うことのできない者達は、他の皆が戦うのを見ていることくらいしかできない。

そして、戦っている者が全滅したり、それ以上戦う力を失うと、参加できない彼らの中から誰かが鉱山送りになる。

・・1度鉱山に送られたら、2度と戻っては来れないわ。

もっても5年、病気の人や子供なんかは1年も経たずに死んでいくと言われている」


紫桜が立ち上がって和也の隣に座り直し、その身体を寄せてくる。


「祖父が健在の頃は、なんとか人数分を納めてこれた。

生活に必要な物資の一部も本国から買わなくてはならないから、実際はそれより1~2体多く倒さないとならなかったけれど、武に秀でた祖父とその部下の方々が必死になって倒してくれていたおかげで、誰も鉱山に行かなくて済んでいた。

でも、火狐の爪には遅効性の毒があり、それに何度も傷つけられていると、数年、数十年後には体の自由が利かなくなってきて、やがて死に至る。

普通のヒールでは治せない毒みたい。

みんな死んでしまったわ。

祖父も。

部下の方々も」


紫桜の右手が和也の左手を握り、指をからめてくる。


「わたくしの父も、29歳の若さでこの村に来る時、島に移り住むことを拒んだ母と別れ、当時4つだったわたくしを連れて、祖父と共に戦い、祖父亡き後はその跡を継いで頑張ってきたけれど、年々数を増やしていく火狐相手に、戦って死んだの。

わたくしがまだ13の時だった。

・・その後は、身寄りのいなくなったわたくしを、祖父の部下の息子の源さんと、同じく部下の娘のあやめさんが中心になり、育ててくれた。

他にも2人、部下だった方のお子さんがわたくしを守ってくれている」


彼女がからめた指に力が入る。


「門の話に戻るわね。

父が死に、火狐と戦える人数が減ってくれば、当然、定められた税の分だけ倒せずに、鉱山に送られる人が出てくる。

向こうに行けば、決して帰って来れないし、鉱山送りになる人は、この村の領主であるわたくしが選ぶ決まりなの。

・・・だから、病気で戦えない人や、年老いた村人の中から、森に入って行く人が出始めた。

・・わたくしに、選ばせる苦しみを与えないために、いつ魔獣に襲われるかもしれない森に敢えて入って、課税対象の人数からはずれる人達が」


何かを必死に我慢するかのように、力一杯紫桜に握り締められる和也の指。


「わたくしには、それが耐えられなかった。

わたくしのことを思いやってくれた行動だからこそ、余計に辛かった。

・・だから、外側の結界とは別に、内側からも封印魔法をかけて、森に入れないようにしたの。

外側の結界は、島の周囲を覆うものと違って、あくまで外からの進入を防ぐ役目しかないから、内側からなら外に出られるのよ。

一旦外に出たら、もう中には入って来れないのに、どういう理由で本国がそうしたのかは・・考えたくはないけど・・ね。

それから、本国を騙すために、村の地下に秘密の住居を造り始めた。

・・昼間に村を歩いた時、あまり男性を見かけなかったでしょう?

彼らは昼間、地下で穴掘りをしているわ。

とりあえず、200人が暮らせるための空間を掘り進めてる。

そして、赤い満月が懸かる前日、本国からやって来る役人に見つからないように、戦えない人はそこに隠れてもらって、税の負担を軽くすると共に、結果的に、村人を守ってきたの」


「自分に本国の人間かどうかを執拗に尋ねてきたのは、自分をスパイだと考えていたからなのだな?」


「スパイ?」


「密偵のことだ」


「そう。

ここ2年、急に村の人口が減ったことを不審に思った本国が、探りを入れに来たのかと思ったの」


「毎年、罪人の家族が送られて来るのだろう?

それでは老人や病人を隠したところで、あまり減らないのではないか?」


「・・この島に流されて、2年以上経つ元気な人は、強制的に戦闘に参加させてるから、そこで火狐に連れ去られ、餌になる人も多いわ。

生き延びるための手段を教えようと、こちらがいくら心を砕いても、危機感を持てずにろくな努力もしない人のことまでは、面倒を見切れないもの。

火狐との戦いでは、源さんやあやめさんなど、長く魔獣と戦ってきた人達が最前列に陣取り、より強い人達が、自分より弱い人達を守るように戦っている。

それでも、全く戦う意志を持てない人達まで、守りきることはできない」


「村の入り口にある門に刻まれた文字は誰が?」


「祖父よ。

ここに送られて来る人達に、少しでも自覚を持ってもらいたかったらしいわ」


紫桜が、和也の肩に頭をもたせ掛けてくる。


「御免なさい。

暗い話になってしまったわね。

でもね、ここ2年は、地下に戦えない人達を隠すことで、なんとか税を納め、残った分で生活品を本国から買う余裕もあるの。

送られて来る罪人の家族の数も安定してるし。

もう少し経てば、村のみんなも安心して子供が産めるようになるかもしれない。

今は人口が少しでも増えないように、みんな我慢してるの。

源さんとあやめさん、夫婦なのよ?

彼らもずっと、子供ができないように気をつけてる。

・・あなたがいつまでここにいてくれるのか分からないけれど、この村を、嫌いにならないでくれたら嬉しいわ」


満天の星空を見上げながら、もう少しだけ、2人きりの湯を楽しむ和也と紫桜であった。


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