表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/181

紫桜編その2

 「暇だな」


これまで途方もない時間を1人で過ごしてきた和也であるが、己の居城で人々を観察していた時とは異なり、ここには人の営みがある。

すぐ近くに生命の息吹が感じられる場所がある。

2週間など、瞬き1つ分程の感覚もないが、セレーニアで人と出会い、ふれあう喜びを覚えた身には、すぐそこに人々が暮らしているのに、何もしないで牢でじっとしているのが思いのほか辛かった。

散歩くらいならいいだろう。

そう考えて、牢の外に出る和也。

昨晩と異なり、今は真昼だ。

誰かが牢に自分を見に来た時は瞬間移動で戻ることにして、自身に隠密魔法を掛けて歩き出した。



 夜の闇を月明かりが照らすだけの静かな田園風景もいいが、日の光が穏やかに降り注ぐ昼間ののどかな景色もいい。

稲はあらかた刈り取られ、次の田植えに向けてその身を休ませている田んぼ。

夏には赤や緑の瑞々しい実を付けていたであろう畑には、地味ではあるが、その回復に必要な作物が植えられている。

小さくはないが、決して大きくもない田畑を、大事に管理している。

点在する家々も、築何十年も経っているものばかりだが、どれもしっかり手入れが行き届いている。

和也は、こういう長く使われ、大事に手入れされてきた物が醸しだす、味わい深さが好きだ。

真新しいものが持つ光沢もいいが、何代も人に受け継がれ、磨かれてきた物が持つ艶が好きだ。

そこには人々の歴史を感じる。

手に取るだけで、人の想いが伝わる。

自然が作り出す造形も、人々が暮らす町並みも、本当の美しさを表すには長い年月を必要とする。

短い生を生き急ぐ人とは異なる、神ならではの視点なのかもしれないが。


 昨晩、黒装束の者達が訓練していた場所に来る。

あの時は、姫と呼ばれる者の屋敷の方から来たのでわからなかったが、この広場は、正門から延びる広い道の先にある。

今は、投擲用の的が隅にあるだけで、誰もいない。

どうやら、昼間は農作業に従事し、夜間にだけ訓練しているようだ。

夜には気付かなかったが、広場の後ろに道がある。

そこを辿っていくと、自分の背丈よりかなり高い大きな門に阻まれた。

門の内側には、門の外を観賞するために作られたような、背の高い、立派な建物が建っている。

この門には、鍵がかかっていない。

押し開けて中に入ろうとした和也は、そこに漂う妖気と怨嗟の思念に、思わず眉をしかめた。

門の先には、先程と同じくらいの広さの空間があった。

その先に、さらにもう1つ門がある以外は何もない場所。

ただ、その周囲は結界が張られた鉄柵で囲まれ、前後にある門以外からは出られないようになっている。

そして、地面には、長い間に染み付いたと思われる血溜まりの跡が、所々、どす黒い染みとなって残っていた。

火山へと続く森との境にある最後の門には、結界魔法の他に、強力な封印魔法がかけてある。

外側からの侵入を防ぐと共に、内側からも開かないようにしてあった。

踵を返し、牢への道を戻りながら、集落の数の割には、昼にもかかわらず、あまり人に出くわさなかったことに気付く。

畑仕事をしている女性や子供が何人かいたが、働き盛りの男達には会わなかった。

次は屋敷のある場所とは反対側、島の西側の方を見に行こう。

そう考える和也の頭の中に、牢に近づいてくる女性の姿が映る。

とっさに瞬間移動して、何気ないふりを装って岩にもたれかかり、その女性がやって来るのを待つ。


「何か話す気になりましたか?」


声をかけてきたのは、意外にも、姫と呼ばれる女性だった。

昼食と思われる、おにぎりののった皿を差し出しながら、そう尋ねてくる。


「姫が直々に捕虜の食事を持って来るなんて、聞いたことないな」


少しおどけるような口調でそう言うと、少女はむっとして、つっけんどんな口調で言った。


「彼女もあれで何かと忙しいのです。

今の時期、この村で一番暇な者は、たぶん、わたくしですから」


「・・すまない。

気を悪くしたのなら謝る。

自分はあまり会話が達者ではないので、時々、言うべき言葉の選択肢を誤るようだ。

以前、とある星の本を沢山読んで勉強したのだが、まだまだらしい」


わざわざ食事を持参してくれた者に対して、言うべき言葉ではなかったと、反省し、頭を下げる和也。

少女がじっと和也を見る。


「あなた、他の方とは違いますね。

昨日も思いましたが、独特の雰囲気を持っていらっしゃる。

強がるでもない、卑下するわけでもない、相手が誰であろうと、極自然に、ありのままを見て、その全てを受け入れる。

そんな感じが致しますわ。

・・わたくしと同じような歳に見えるのに、一体どんな人生を歩んでこられたのでしょうね?

少し、気になりますわ」


そう言って、表情を柔らかくした少女は、そのまま帰って行った。

差し出されたおにぎりは、形が少し、朝より歪に見えた。



 島の西側では、共同の露天風呂を見つけた。

火山があるからもしかしてと探してみたが、案の定、男女別の大きなものがあった。

ただ、風呂といっても、それは岩場に湧いた温泉の周りを板で囲って仕切りを設けただけの簡素なものでしかないが、その分、源泉かけ流しである。

近くを流れる小川の水を引いて、温度の調節をしているようだ。

今の時間はまだ誰も入っていない。

温泉とはいえ、ここでは娯楽施設ではなく、あくまで生活の場なのだ。

自分のように、入る必要もないのに浸かって、風情を楽しむようなゆとりまではないのだろう。


 雨量の多い地域らしく、水は豊かだ。

島には大小3つの川が流れ、その内の2つが集落まで続いている。

雨は森の木々を潤し、花々を慈しみ、動物達の餌となる牧草を育てる。

のどかな日差しを浴びた島の風景だけを見ていると、入り口の門に刻んである、あの言葉が嘘のように思えてくる。

川岸の砂利道から、赤や黄色に色づいた葉が散っては流れて行く様を眺めて、人の生き様を考える。

きつい日差しに耐えて得た、鮮やかな装いを、ろくに見せる間もないままに、散ってゆく葉。

自分が好きな桜も、その美しい姿を晒せるのはほんの僅かでしかない。

他の種族と違い、100年足らずの時間を生き急ぐ人間。

今の時代では、多くの者は、その半分程度の時間すら生きることが難しい。

限りある、短い時間だからこそ、人は懸命に生きようとするのか。

必死になって、己の生きた証を残そうと励むのか。

その短い命を盾にして、他人を守ろうとする優しさは、どこから生まれてくるのか。

長く人の暮らしを観察してきた自分にも、未だこれといった確証の持てる答えは出ない。

よくわからないままに、自分の見込んだ者に眷族への資格を与えて、己の寂しさを紛らわそうとしている。

わからないからおもしろい。

そういうこともある。

では自分は、その答えが出てしまったら、人に飽きてしまうのだろうか。

人とのふれあいを、あれ程長く渇望してきた自分には、そんな未来があるとは思えないが・・・。



 夜の帳は星々の輝きをより引き立てる。

夕食を持ってきてくれた女性が、朝に自分が持ってきたものと異なる皿があるのを見て、何かを呟いていたが、あまり気にしなかった。

澄んだ空気と、人工的な明かりの少ない夜空が見せる、その星空のすばらしさに、風呂があるなら入りたいと考えていたせいもある。

夜遅く、暇を持て余した和也は、とうとう我慢できなくなり、牢を抜け出し、屋敷の土塀の裏口から敷地の中に入る。

それらしい建物を探すと、すぐに見つかった。

貴人用のものだけあって、周囲をしっかりした建物で囲い、屋根はあるが、隙間を作ることで夜空を楽しめるようになっている。

夜間に訓練している者達でさえ、眠りについているであろう真夜中。

念のため、中に人がいないのを透視で確かめてから、静かに入り口の戸を開く。

露天風呂までの間に、脱衣所らしき小さな空間があり、両脇に脱いだ衣服を置くための棚がある。

手早く脱いだ衣服を、明かり1つない小部屋の棚の隅に置き、風呂への開き戸を開ける。


「ほう」


思った通り、趣のある露天風呂だった。

風呂の大きさ自体はそれほどでもない。

大人が4人も入ればきついかもしれない。

だが、そんなことはどうでもいい。

肌触りの良い一枚岩を刳り貫いた、大きな平たい石を湯船に用い、敷地の右端には小振りの桜が、左の端にはもみじが植えてあり、その周囲を、それぞれを引き立たせる草花が飾る。

正面には、月や星を邪魔するものが何もなく、照明は小さな灯篭が1つあるだけなので、満天の星空を思う存分楽しめる。

源泉かけ流しの湯が流れ出る音を背景に、時折聞こえてくる虫達の鳴き声、自分が創った宇宙を違う角度から眺める喜びに、うかつにも、人が近づいて来るのに気付かなかった。

こんな深夜に、風呂に入りに来る者はいないだろうという慢心もあったかもしれない。

いきなり扉を開けられて、振り向く和也。

そこには、叫びそうになる口元を両手で押さえたために、手に持っていた手ぬぐいを落とし、美しい裸身を惜しげもなく晒した少女が立っていた。


「・・すまん。

ちよっと風呂を借りている」


落ち着きを取り戻し、しゃがみこんで裸身を隠した少女に、申し訳なさそうに、そう告げる和也。


「言うことはそれだけですか?」


氷のごとく冷たい眼差しが和也を射抜く。


「本当に申し訳ない。

あまりに退屈なので、風呂に浸かりながら、夜空を眺めたかったのだ」


湯船のふちに手を掛け、深く頭を下げる。


「どうやって牢から出てきたのです?

あそこの鍵は、封印魔法ではなく、鉄の錠前のはず。

魔法は効かないようですが、まさか転移魔法が使えるのですか?」


相変わらず、鋭い目をしてそう尋ねてくる。


「それも使えなくはないが、普通に鍵を開けて出てきただけだ」


「そんな。

・・・あなたがあれ程余裕があったのは、そういう理由ですか。

・・あなた、一体何者です?」


「迷惑をかけていながらこんなことを言うのは申し訳ないが、ノーコメントで頼む」


「くっ」


悔しげな表情を見せた少女は、徐に立ち上がり、こちらに歩いてきた。


側に置いてある湯桶で何度か身体を流し、湯に入ってくる。


「・・自分が言うのもなんだが、普通は出て行くところではないのか?」


驚いた和也が恐る恐るそう告げる。


「ここはわたくしの露天風呂です。

裸で外に立っていて、身体も冷えてしまいましたし。

・・何か文句でもあるのですか?」


「いや、君が気にしないならそれでかまわないが」


「もう既に全部見られてしまいましたし、あなたの眼には、情欲の色がありませんから。

暗いとはいえ、脱衣所の服に気付かなかったわたくしにも非があります。

・・もっとも、あなたでなかったら容赦しませんでしたが。

・・初めて男性に肌を見られたのです。

その責任は重いですよ?」


怒りを和らげ、確認するように微笑んでくる少女。


「先程も、叫ぼうとして慌てて口を押さえていたが、なぜだ?」


「あそこでわたくしが叫んでいたら、あなた、たぶん殺されてますよ?

源さんもあやめさんも、わたくしのことに関しては容赦ないですから。

・・初めから悪い人には見えませんでしたし、そのことは、今こうしてわたくしと一緒に湯に浸かりながら、指一本触れてこないことでもわかります。

自分で言うのもなんですが、この島以外の男の人がわたくしを見る時は、必ずと言っていい程、眼が濁っています」


改めて少女の姿を見る。

普段、和服の下に隠されたその身体は、本当に美しい。

形の美しさ、左右均等の絶妙なバランス、性的な感情を抜きにしても、ずっと眺めていたい。

エリカを見慣れている自分がそう思う程なのだ。

普通の人間がこの姿を見れば、理性など吹き飛んでしまうかもしれない。

和服を着れば、さぞ窮屈であろう、とても大きな胸。

雪のように白く、染み1つない絹のような肌の、そのふくらみの頂きには、桜の花びらのように可憐な突起がある。

無駄な肉の一切がない、それでいて女性らしい弾力に富んだ肌は、包み込まれる者に至福の時間を与えるであろう。

見事な曲線を描く腰のラインと、うっすらと切れ込む縦長のへそ。

引き締まった、桃のような尻と、長いしなやかな足の先に色づく、桜色の爪。

肩より長い漆黒の髪をアップにしたその姿が、それら全てのパーツに色香を添える。

女性に対して、そういう意味だけの視線を向けるのは、非常に失礼ではあるが、並の男なら抗えないのも無理はないと、少し同情する和也であった。


「あなたの素姓をとやかくお聞きすることはもう止めます。

ですが、これだけは答えてください。

・・あなたは本国と関係がある人ですか?」


「いや、関係ない。

本国とやらが、セレーニアやエルクレールを指すのでなければだが」


少女が和也をじっと見つめる。

その眼差しに、真正面から応える和也。

暫しの時間、見つめ合う2人。

やがて、うっすらと頬を染めた少女が、顔を僅かに逸らして告げる。


「わたくしの名は紫桜しざくら

花月かげつ紫桜。

明日、牢から出して差し上げます」


「いいのか?」


「ええ。

入れていても意味などないことが分かりましたし、あなたを信じることに致しましたから」


「有難う」


「それから、1つお願いがあります」


「何だ?」


「これからもこの時間に、わたくしと一緒に、お風呂に入ってください」


「・・・」


「勘違いしないでくださいね。

・・昼間だと、周りに人が多くて、なかなか2人きりで話す時間が取れないというだけですから。

・・あなたとは、いろいろとお話してみたいと思っただけですから」


「・・ここで待っていればいいのか?」


「はい」


嬉しそうに微笑む紫桜。


「だが、寝る時間は大丈夫なのか?」


「わたくし、夜型なのです。

いつもは、お昼近くまで寝ていますから」


そう告げて、ちょっぴり舌を出す彼女は、歳相応に、可憐であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ