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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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エリカ編その21

 和也がセレーニア王国の裏門付近に戻って来た時には、登る朝日が魔の森の木々の梢を照らし、そよ風に揺れる葉とあいまって、まるで光の妖精が戯れているような、そんな時刻になっていた。

魔獣さえいなければ、魔の森は様々な植物の宝庫であり、美しい沼や湖を有する自然豊かな楽園のように見える。

夜間に歩けば、闇の中を満天の星がまるで見守るように輝き、木々の間から差し込む月の光は清楚で、闇の精霊に遠慮しながら足元を照らしてくれる。

普通の人間なら見ることができない魔素も、和也の目にははっきりと、その色とりどりの光を緩やかに明滅させながら、まるで語りかけるかのように和也の行く道を案内してくれるさまが見える。

帰路の間の相棒となった小竜は、好物の実を堪能した後は、和也の腕の中で時折、身体を甘えるようにすり寄せてくる以外は、おとなしくしている。

エリカという存在を得て、色彩のなかった和也の心に光が生じ、世界の有様をより鮮明に見れるようになった和也には、1人で入れば生きて帰ることが困難な魔の森でさえ、美しい庭園のようにしか感じられなかった。

そのせいか、いつしか時の経つのを忘れ、気が付いたら裏門の付近まで来てしまっていた。

最初は律儀に一定間隔で散布していた薬も、途中からかなりいいかげんになっていた。

エレナには黙っておこうと内心で思った和也であるが、今はもっと頭を悩ませる問題があった。

小竜を連れたまま、裏門の付近まで来てしまったのである。

本来ならもっと手前で別れるつもりでいたが、人はおろか動物とでさえ、長い時間を共に過ごすことがなかった和也にとって、小竜の抱き心地は新鮮で、魔の森の景色に見惚れていたせいもあって、つい、気付くのが遅れてしまった。

エレナからの依頼を無視することにした和也にとっては、この小竜を王宮に連れて帰るわけにもいかず、腕の中で気持ち良さそうに寝ている小竜を何度か起こそうとしたが、薄く片目を開けるだけでまたすぐに寝入ってしまう。

かといって、例え数時間といえども共に過ごした相手を、黙って置き去りにするのもどうかと思えた。

暫く考えた末、小竜が起きるまで不可視の魔法をかけて、自分の部屋まで連れて行くことにした。

目覚めたら、こっそりと障壁の外に出してあげればいい。

実を言うと、少し名残惜しかった和也は、自分の考えに満足して王宮へと足を踏み出した。



 和也が 自分の部屋に入ってすぐ、エリカが念話で話かけてきた。

和也がエリカの居場所を瞬時に把握できるのと同様に、その眷族となったエリカには、和也が意図的に気配を遮断しない限り、その存在を常に感じとることが可能になっている。

今はまだ場所的なものを感じるのみだが、今後何度も和也に抱かれ、その能力を向上させていけば、視界的なものまで理解することが可能になる。


『お帰りなさい。

もう少し早く帰って来てくだされば、会いに行く時間が取れたのですが、今日は朝から急遽、謁見の仕事が入ってしまって、これからエルクレール帝国の使者の方に会わねばなりません。

それが終わったらしばらく時間が取れますので、ご一緒にお食事でもいかがですか?』


『遅くなってすまない。

魔の森の景色を堪能していたらつい時間が経ってしまった。

討伐依頼の件では後で話したいことがある。

それと、食事をするのは構わないが、1つ問題がある。

できれば自分の部屋で食べたいが、そちらの都合はどうだろうか?』


『問題ですか?

それはあなたの側に何かの気配がするのに関係があるみたいですね。

分かりました。

仕事が済み次第、食べ物持参でそちらへ参ります』


エリカとて、和也の眷族となった以上、生命の維持のために物を食べる必要も、空腹を感じることもないが、長年の習慣がそうさせるのだろう。

食事は最高の楽しみの1つでもあるし、和也としても止めるつもりはない。

エリカが来るまで、折角だから小竜と一緒に一眠りしようとベットに入る和也であった。



 「今何と申した?」


女王は、火急の報告があると言って、エルクレール帝国の使者との謁見前に自分を呼び出した兵士に聞き返した。


「封印の間に何者かが忍び込み、術式の一部を破壊いたしました」


「どうやって入り込んだのじゃ?

扉の封印が解かれたのか?」


「いえ、扉自体に目立った傷がないことから、鍵を使用したと思われます。

念のため確認いたしましたが、偽物とすり替えられておりました」


「あそこの鍵は厳重に保管されているはず。

ならば、内部の犯行というわけじゃな。

それも極身近の。

急に姿が見えなくなった者はおらぬか?」


「今、他の兵士達に調べさせております」


「とりあえずは術式を修復し、障壁を張り直さねばならん。

至急、宮廷魔術士達を招集し、障壁を修復させよ。

障壁を破壊したということは何者かが我が国を狙っている可能性が高い。

マリー将軍に軍の出撃準備を急がせよ。

何時でも出動できるようにさせておけ。

民の動揺を防ぐため、障壁の件は他言無用とする」


女王が矢継ぎ早に兵士に指示をだす中、エルクレール帝国の使者との謁見が迫ったエリカが入ってくる。


「お母様、どうかなされたのですか?」


「何者かが障壁の術式を破壊しおった」


「障壁を?」


今までのエリカであれば、その知らせに少なからず衝撃を受けたであろう。

だが、今は自身が人ではない上に、和也という、この上ない存在が身近にいる。

狼狽える必要は何もない。

エリカの様子にほとんど変化が見られぬことに女王は意外に思ったが、エルクレール帝国の使者を待たせるわけにはいかぬので、深く考えず謁見の準備に入った。



 「今何と申した?」


エルクレール帝国の使者からの唐突な宣戦布告に、女王は先程の兵士にした問いを繰り返した。


「我が帝国は、セレーニア王国に対し宣戦を布告致します」


「理由は何じゃ?」


「我が国の面子を潰されたことに対する報復です」


「面子を潰されたと申したが、一体どのようなことを我が国がしたというのか?」


「度重なる皇太子殿下のご求婚にもかかわらず、同じエルフ族ならともかく、他の人間族をエリカ様の婚約相手に選ばれたことです」


「今何と申した?」


女王は、自分も初めて聞く内容に大きな衝撃を受けつつ、何度目かの同じ問いを発した。

慌てて自分の隣に座っているエリカを見やる。

エリカは、ばつが悪そうな、少し申し訳なさそうな表情を母である女王に見せたが、一切の否定をしなかった。

女王の問いに再度同じ言葉を繰り返そうとしたエルクレール帝国の使者を制して、エリカがその使者に質問をする。


「わたくしの婚約に関しては、まだどなたにもお知らせ致しておりません。

一体どなたからお聞きになられたのですか?」


「申し訳ありませんが、それに関してはお答え致しかねます」


「そうですか。

ではもう1つ。

開戦日時は何時(いつ)ですか?」


「明朝の日の出と共に開戦致します」


「承知致しました。

他に伝えることがなければ退出なさって結構ですよ」


「・・・帰していただけるのですか?」


この時代、宣戦布告を伝える使者はそのほとんどが相手国の逆鱗に触れ、殺されているので、この使者も既に家族との別れを済ませている。


「勿論です。

あなたに非があるわけではありませんから」


未だエリカの婚約という衝撃から覚めやらぬ女王に代わって、エリカが答える。


「有難うございます。

ご厚情に心から感謝致します」


深く頭を下げながらそう言うと、使者はすぐに退出した。


 「・・・エリカ、わらわに何か申すことはないかの?」


使者が去ってのち、少しばかり疲れた様子で尋ねてくる女王に対し、エリカはどう説明しようか頭を悩ませていた。



 どのくらい眠ったであろうか?

王宮内が騒がしいことに気が付いた和也は、傍らに小竜が寝ていることを確かめると、エリカに念話を送ろうとして、仄かな紅茶の香りと共に、部屋のテーブルに食事が用意されているのに気が付いた。

そして、テーブルの一方の椅子に腰掛けながら、エリカが紅茶を楽しみつつ、自分を眺めているのにも気が付く。


「すまない。

少しのつもりが大分寝てしまったようだ。

君の時間は大丈夫だろうか?」


「はい。

思わぬことが起こりまして、今日1日は自由に時間が使えます。

それと、わたくしのことはエリカと呼び捨てになさるか、『おまえ』とお呼びください。

君という言い方は、何か他人行儀な感じがして嫌ですわ。

その代わり、わたくしも和也様のことを、『あなた』と呼ばせていただきますから」


「何があった?」


エリカの可愛い要求に少し照れながら、努めて平静に和也が尋ねる。


「王宮の封印の間に何者かが忍び込み、障壁の術式の一部を破壊いたしました。

犯人は、・・たぶんエレナでしょう。

少し前から姿を消しております。

また、エルクレール帝国が宣戦を布告してきました。

明日の日の出と共に開戦になります。

理由は、わたくしが皇太子以外の人間族と婚約したからだそうです」


「聞きたいことが増えたが、そんな忙しい時に王女であるき、・・エリカがよく時間が取れたな」


『君』と言いそうになり、慌てて言い直す。


「お母様が最後の日くらいは好きな人と過ごしなさいと言ってくださいました。

どうやらエレナが私達の関係に気付いていたらしく、エルクレール側に洩らしたようです。

悲しいことですが、あちらの間者と繋がりがあったようで、障壁の破壊もその一環でしょう。

エルクレールの使者を通じて私達の関係をお知りになったお母様に、わたくしがあなたの妻になったことを正直にお話ししましたら、あの者であればと、お許しを頂きました。

そして、戦う相手がエルクレールでは、勝てるかどうか分からないので、せめて少しでも共に過ごす時間をと、無理をして私のための時間を作ってくださいました」


そう話すエリカの表情には、母である女王への深い愛情と、自分達を裏切ったエレナに対する悲しみが浮かんでいた。

でもそれはすぐに消え、期待に満ちた表情で和也を見据える。


「お願いしても・・・よろしいのですよね?」


『何を』と尋ね返す必要などない。

やることは1つだからだ。


「任せておけ」


その一言を満面の笑みで聴いたエリカは、先程から気になっていた、もう1つのことについて尋ねた。


「ところで、その小竜はどうなされたのですか?」


「行く前に、エレナに捕らえてくるように依頼されたものだが、その気はないので途中まで道連れになってもらっただけのはずが、魔の森の景色に見惚れているうちに裏門付近まで来てしまってな。

起こしても起きないので、置き去りにするわけにもいかず、仕方なく連れてきた。

不可視の魔法をかけてあるから、自分達にしか見えないし、目を覚ましたらこっそり逃がそうと思っている」


「・・エレナは本当にわたくし達のことを恨んでいるのですね」


「こいつがどうかしたのか?」


「この小竜は、魔の森の主である深緑竜の子供だと思われます。

わたくし達は決して竜に手を出しません。

絶対に勝てないですから。

この国に住む者なら誰でも知っていることです。

それを敢えて捕らえるように言ったのであれば、この国を滅ぼそうと考えているとしか思えません。

過去に何度か、ダークエルフが魔獣達を操り、この国に攻撃を仕掛けてきました。

その時には必ず最後に深緑竜が現れ、魔獣達を操ったダークエルフを殺しています。

その際、当然、我が国もその影響を受けて大きな被害がでています。

もともと、障壁はそれを最小限に防ぐために張られたものです。

完全に防ぐことはできませんが、怒りが静まるまでなら、何とかなりますから。

・・まさかとは思いますが、エレナから何か液体のような物を渡されませんでしたか?」


「出掛けに渡されたな。

魔獣が自分の匂いを辿ってこの国に近づかないよう一定間隔で撒くようにと。

途中からかなりいいかげんになってしまったが」


エリカが小さなため息を吐く。


「一体何が彼女をそこまで追い詰めたのでしょう?

あなたに渡したという液体は、たぶんダークエルフに伝わるという秘薬だと思われます。

高位魔獣を操りやすくするために使うものだと聞いたことがあります。

だとすれば、多数の高位魔獣や深緑竜も襲ってくる。

正門からはエルクレール帝国が、裏門からは深緑竜と高位魔獣の群れが。

魔法師団の半数以上が障壁術式の修復で魔力を使い果たしている今、あなたがいなければ間違いなく我が国は滅んでいたでしょう」


エリカは、エレナが自分にそこまでの執着心があるとは考えていなかった。

なので、今回の件を今までと同様に、エルフに対するダークエルフの恨みから引き起こしたと思っている。

幼い頃から、周囲の羨望の視線を一手に引き受けてきたエリカには、半ば無意識に、他人の自分に対する感情を考えないようにする癖があった。

長々と語り終え、ティーカップを口に運ぼうとして、それがすでに空になっていることに気が付いたエリカが、はっとして冷めてしまった料理に眼をやる。


「すみません。

つい話し込んでしまって。

お食事にしましょう。

その後は一緒にお風呂に入りましょう。

あなたへのペンダントのお礼もまだしておりませんし、折角のお母様のお心遣いを無駄にしてはいけませんわ」


そう言って、無理して明るく振舞いながら、料理を魔法で温めるエリカを苦笑を交えて眺めつつ、和也は、行為の最中に小竜が目を覚まさないことを祈るのだった。



 その夜のエリカとの行為は、何時になく激しいものとなった。

今まで、和也に抱かれている時は、あまり自己主張をしなかったエリカが、自分から貪欲に和也を求めてきた。

頭では大丈夫だと分かってはいても、色々と不安も大きかったのだろう。

それを打ち消すかのように、いつもの清楚で落ち着いた雰囲気のエリカは鳴りを潜め、獲物を狙う獰猛な肉食獣のごときエリカが、終始和也を圧倒していた。

初夜でエリカに対してやらかしてしまった和也は、以後自分の理性にタガを設け、己の性欲に歯止めをかけているからなおさらである。

数え切れない程の絶頂を迎えて、エリカが気を失って和也に倒れこんできた頃には、開戦の引き金をひく役割を担った朝日が、もうそこまでやって来ていた。



 余談だが、行為の最中はお互いに余裕がなさ過ぎて、小竜が時折、薄目を開けて自分達を見ていることに最後まで気が付かなかった。

そのことを後悔する羽目になるのは、もっとずっと先のことである。


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