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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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エリカ編その20

 和也が王宮への帰路についている頃、エレナは、王宮の自室で、自分の立てた計画の最後の検証をしていた。

和也にダークエルフ秘伝の薬を持たせ、それを散布させることで魔獣達をこの国までおびき寄せ、自分が操って城壁を攻撃させる。

兵士達がそこへ集中したところで、反対側の正門から、エルクレール帝国の軍隊に攻撃してもらう。

以前、エルクレール帝国の皇太子が親善名目でこの国を訪れた際、魔導船でやって来る皇太子のために、この国を覆う魔法障壁を解除して、魔導船を直接、王国内に着陸させたが、今回は表立っての名目がない以上、それは不可能だ。

だとすれば、帝国の攻撃が届くように、魔法障壁をどうにかしなくてはならない。

帝国の魔導船が装備している魔導砲は、1度撃つと、その場所の魔素の濃度にもよるが、次に撃てるまでに約24時間程かかる。

その分、数で補えればいいが、いかに帝国の科学力が進歩しているとはいえ、魔導船の動力源である風の魔素結晶がほとんど手に入らない現状では、魔導船を量産することはできず、帝国も3隻を有するのみであった。

そんな状況を打開すべく、エレナは和也にありもしない依頼をでっちあげ、深緑竜の子供を捕獲してくるように頼んだのだ。

この国に住む者なら、竜に手を出してはいけないことは誰でも知っている。

だが、よそから来た和也なら、おそらく深緑竜の恐ろしさを知らないだろうし、高位魔獣を1人で倒せるくらいだから、小竜なら、手出しをするだろうとエレナは踏んでいた。

怒り狂った深緑竜にブレスで攻撃されれば、この国の障壁とて長くはもたない。

小竜を殺さずにと頼んだのは、障壁が破壊されれば逃がして、被害を最小限にくい止めるためだ。

過去にこの国が襲われた時も、首謀者であるダークエルフを殺した後は、必要以上に攻撃しなかったと古い文献にもある。

和也に秘薬を散布させたのも、自分の代わりに深緑竜に殺させるためだ。


 エレナは、ちょうどエリカ付きのメイドをはずされた頃、気分転換に訪れた森の中で、父の知り合いであるという、ダークエルフと会ったことがある。

自分がハーフエルフなのは見れば判るから、もしかしてと、むこうから声をかけてきたのだ。

生まれてすぐ、親に捨てられたエレナは、自分の親についてそれまで何も知らなかったが、父親がダークエルフであること、エルフである母と子をなし、母ともども暮らそうとして自らの里を追われたこと、その母を、母の父親であるエルフに殺されたこと、そして、復讐に燃え、怒りに我を忘れた父が禁断の秘薬に手を出し、自分も深緑竜に殺されたことをその時に聞いたのである。

その際、里を追われてからしばらく住んでいたという場所を教えられ、そこを訪ねてみると、廃墟と化した、みすぼらしい建物らしき物の床下に隠し扉があり、そこで、秘薬の製造法が書かれた羊皮紙と材料の一部、そして父と母を描いた油絵と自分宛の手紙を見つけたのである。

その絵は、保存状態が良かったのか、かなり古ぼけてはいるが、両親の顔が何となくわかる。

それまで、自分は両親から嫌われて捨てられたと思っていた。

だが、絵の中に居る両親は、幸せそうに笑っているように見える。

心に芽生えたかすかな希望を胸に、手紙を開いた。


『我が愛しき娘よ。

おまえがこの手紙を読んでいる頃には、私はもうこの世にはいないだろう。

おそらく、深緑竜に殺されているだろう。

それがわかっていて、生まれたばかりのおまえを置いてまで、エルフに対して復讐しようとする私を、おまえは愚かだと笑うだろうか?

それとも憎むだろうか?

何と思われても弁解の余地はないが、これだけは伝えておきたくて、この手紙を残すことにした。

 私達夫婦は、たとえ他の人達から受け入れられなくても、2人でいられるだけで本当に幸せだった。

おまえが生まれてからは、さらに幸福であった。

日々の食事にさえ事欠くこともあったが、お互いを思いやり、慈しみ合って、笑顔の絶えない暮らしであった。

私は、おまえ達さえ居れば他に何もいらなかった。

ダークエルフとして、日陰の中でしか生きて来れなかった私に、陽の当たる場所から、その場所を捨ててまで、私に微笑みと温もりを与えてくれた妻が、何より大切な存在だった。

いずれは妻の親にも認めてもらおうと、懸命に薬学を学び、人の役に立つ仕事に就いて、妻とおまえに少しでも楽をさせてやりたかった。

あの日、あの光景を目にするまでは・・・。

 その日、いつものように魔の森で魔獣を避けながら薬草を採取した私は、さっそく調合しようと家に急いだ。

たまたま珍しい薬草を見かけ、調べてみたいこともあったからだ。家の近くまで来た時、妻の父親と思しきエルフと、その護衛らしきエルフが3人、セレーニア王国の方に走っていくのが見えた。

ひどく慌てているみたいで、何かとても胸騒ぎがした私は、家の中へと駆け込んだ。

・・・そこで目にしたものを、私は決して忘れない。

忘れることが・・・できない。

おまえをかばうようにして、背中に大きな傷を負い、既に息絶えていた妻の姿を。

大量の血を流しながらも、おまえを守れて満足とでもいいたげな、妻の安らかな死顔を。

駆け寄って、妻を抱きしめた私の腕の中で、愛し合った時にはいつも、温かなぬくもりを感じさせてくれた妻の身体が、刻々と熱を失っていく恐怖を。

・・・どのくらいそうしていただろう。

おまえが空腹で泣き声をあげなければ、きっとそこから動くことすらできなかったに違いない。

妻を抱えてやっとその場を離れようとした時には、私から、エルフに対するどす黒い憎悪以外の感情が、すっかり抜け落ちていた。

私達が何をした?

お互いに、ただ恋をして、人目につかぬようひっそりと生きていただけではないか?

私がダークエルフだから?

生まれや親を選べない子供に一体何の非がある?

親が罪人なら子供も何もしなくても罪人なのか?

それなら、こんな世界など滅んでしまえばいい。

そんな世界に未練などない。

妻のいない、今の世界になど。

 それからの私は、ただ世界に、エルフに復讐するためだけに生きてきた。

そんな中で、あの日私が見つけた珍しい薬草が、魔獣を操るダークエルフ秘伝の薬のカギになることを知った私に、迷いなどなかった。

例え自分が深緑竜に殺されようと、1人でも多くのエルフを道連れにしてやる。

そう考えてこの薬を完成させた。

薬ができた今でも、その気持ちに変わりはない。

ただ時が経つにつれ、おまえのことだけは助けてやりたいと思うようになった。

妻が死んだ時には、おまえをかばったせいでと恨みもしたし、妻のこと以外、何も考えたくはなかったが、ただ作業のように食事を与えている私に、おまえはいつも笑ってくれた。

おまえを見ると、妻との幸せな日々を思い出し、泣きたくなる私の顔を、そのあどけない指先でなでてくれた。

おまえは、私と妻が愛し合ったという証、妻の愛情の結晶。

ここでおまえを見捨てたら、エルフどもと同じになる。

そう考えた私は、偶然見かけた、魔獣討伐を終えて、セレーニア王国へと帰還しようとする兵士達のテント先に、おまえを置いてきたところだ。

身元を示す物は何も持たせなかったが、おまえの名、妻と同じ名前にした、その名が付いた肌着だけは持たせた。

おまえと生きる道を捨て、ただ復讐のみを果たそうとする、薄情な私のことは忘れてもいい。

ただ、願わくば妻と同じその名前、美しく軽やかな旋律を奏でるエレナという名前だけは、どうか受け継いで欲しい。

妻がこの世界にいたという証なのだから。

 最後まで自分勝手な私を許せというつもりはないし、許してもらえるとも思わない。

けれど、私は、妻は、おまえを愛していた。

おまえは望まれてこの世に生を受けたのだ。

ただそれだけが言いたかった。

ハーフエルフであるおまえは、もしかしたら私達以上につらい目に遭うかもしれない。

私達のように、お互いを支えあう存在がいなければ、心がもたないかもしれない。

そんなおまえに、私がかけてやれる唯一の言葉を最後に記す。

 生まれてくれて有難う。

おまえが生まれた時、私達は本当に幸せだった』


 エレナは、最後の一行を読み終えた時の気持ちを、その時はうまく表現できずにいた。

今まで、どちらからも忌み嫌われる存在として自分は捨てられたと思っていただけに、父が残してくれた言葉は涙が出るくらいうれしかった。

しかしその一方で、苦労するとわかっていたにもかかわらず、自分を捨てたことが許せずにいた。

他の全てをなげうってまで、エルフに復讐しようとする気持ちを理解できずにいた。

だが、今ならよくわかる。

エリカ以外どうでもよくなっている今の自分には、父の気持ちが非常によく理解できた。

この計画が成功すれば多くの人が死ぬだろう。

その大半は自分とは無関係の、何の罪もない人達だ。

でもそれでいい。

エリカとこれからも一緒にいられるなら、そのくらいの犠牲は厭わない。

そう考えたエレナは、計画の最終段階に入る。

この国を覆う魔法障壁を支えている結界石の術式を解除するのだ。

年に一度、魔術士の精鋭が数十人がかりで魔力を補填する結界石は、王宮の地下、厳重に封印された結界の間にある。

普段なら、幼い頃から王宮で暮らし、ここの者達にならそれなりの信用があるエレナでさえも近づくことはできないが、今だけは別だ。

裏門、魔の森に通じる隠し扉を開ける許可を和也の代わりに取ったのはこのためだ。

結界の間を開くための鍵は、隠し扉の鍵と同じ場所に保管されている。

隠し扉の鍵を借りうける際、結界の間の鍵を偽物とすり替えておいたのだ。

この鍵はかなり特殊で、鍵を鍵穴に差し込むだけで、そこに掛けられてある封印も解除できる代物だ。

それだけに、本来ならもっと厳重に管理されるはずなのだが、ここ1000年、魔獣が多少大型化した以外はたいした危機もなく、平和な時が流れていることに加え、つい先日、この国に多大な貢献をした和也のためという名目が、そのチェックを大分甘いものにしていた。

結界の間の中にさえ入ってしまえば、あとは4つある結界石のいずれか1つを破壊するだけでいい。

4つの石を結ぶようにして掛けられている魔法障壁の印を保てなくするだけでよかった。

1度術式を解いてしまうと、再度かけ直すのに魔術士の精鋭が数十人がかりで1時間近くを要し、かかわった魔術士は3日は大きな魔法を使えない程に魔力を消耗する。

そうすれば、エルクレール帝国の攻撃になす術はない。

エレナは、自分の立てた計画の成功を露ほども疑うことはなかった。


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