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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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エリカ編その17

 約束の時間より少し早く和也が指定の場所まで赴くと、既にエレナが待っていた。

その手には、黒い布に包まれた筒状の物を持っている。


「すまない。

待たせてしまったか」


和也が詫びると、それには応えず、エレナは持っていた物を差し出した。


「これは魔獣除けの液体で、ほんの少し地面や木に垂らせば2~3日は魔獣を遠ざけることのできるものです。

あなたの匂いをたどって魔獣がこの国に近づいて来ないように、こちらにお帰りの際は必ず、一定間隔でこの液体を少量撒いてください。

必ず、忘れずにお願い致します」


そう言って和也に布から取り出したガラスのビンのような物を手渡す。

1リットルくらいはありそうな液体を収納スペースに放り込み、和也は封印の施された扉へと向かう。

許可を取っておくと言っていた通り、内側からの封印は解除されているようだ。

外へ出ようとすると、エレナから声がかかった。


「あなたに1つ、特別な依頼があります。

これは非常に重要な依頼で、機密性も高いため、極限られた人物にしかお願い致しません。

前回のあなたの働きが評価され、この依頼を受ける資格が与えられました。

お聞きになりますか?」


「その依頼は断ることができるのか?」


振り向きざまに和也は問う。


「お聞きになる前であれば可能です。

聞かれた後は断れませんが」


何やら面倒なことになりそうだが、少しでもエリカのためになるなら良いかと、和也は話を聴くことにした。


「話を聴こう」


そう言った瞬間、気のせいかエレナの浮かべている笑みに深みが増したように感じられた。


「あなたはこれから樹人系の高位魔獣を討伐に行かれるわけですが、もしその途中で深緑の鱗を持つ小竜に出会ったら、決して殺さずに生け捕りにして欲しいのです。

我が国と交易のある、さる国の王族の方からのご依頼で、成功の暁には金貨20万枚相当の報酬が約束されています。

もし捕獲されましたら、なるべく人目につかぬよう、速やかにこちらにお渡しください」


「マリー将軍の所ではなく、王宮にか?」


「私にお渡しください。

この件に関しては私が担当なので」


「生け捕りといったが、君に小竜が抑えられるのか?」


「専用の薬で眠らせるので大丈夫です。

それに深緑竜は餌さえ与えておけば割りと大人しいので」


「分かった。

捕らえることができたらそうしよう」


そう言って、和也は魔の森へと足を踏み出す。

ろくにエレナの顔も見なかったので、その眼差しが決して笑顔に相応しいものではないことにさえ、気が付かなかった和也であった。


 魔の森を歩き始めた和也は、早速隠密の魔法を自身に掛ける。

無駄な手間と殺生を避けるためである。

昨夜の出来事から、この世界が自分に素晴らしい贈り物をしてくれたことに深く感謝している和也は、ここでは必要以上に殺生や搾取をしないように決めていた。

特に、この魔の森は魔素が最も濃い場所の1つであり、自分を祝福してくれる感覚が強い場所でもある。

なるべく傷つけたくなかった。

和也はさらに神の瞳を用いて目当ての魔獣を探す。

すると、ここから約50㎞の所に1体の魔獣を見つけることが出来た。

現地まで瞬間移動で跳んでもいいが、折角なのでこの世界に来た時とは違い、森の中を楽しむことにして歩き出す。

20㎞程進んだ所に小さな湖があり、清く澄んだ水の上を精霊達が魔素の光と戯れていた。

薄く差し込む陽光に照らされて神秘的にさえ見える光景を眺めていると、こちらに気付いた精霊達が寄って来る。

自分が創造神だと判るのか、嬉しそうに纏わり付いてくる。

いつになく心が和んだ和也は、1本の和笛を創り出し、嘗てお気に入りの星で聞いた曲をアレンジした、緩やかな旋律を奏で始めた。

フルートに似た形状のそれは和也の今の気持ちそのままに、遥か遠くを見つめる者の寂しげな心がゆっくりと、ゆっくりと温められてゆく情景を静かに奏で、この世界への感謝と慈しみの気持ちを体現し、やがてそっと消えていく過程を見事に表現していた。

いつの間にか、周囲の精霊達も、彼女ら独自の音声で和也の曲に彩りを与え、その光景を見る者がいれば、まるでそれを森の木々や湖までもが耳をそばだてて聴いているような気持ちにさえなったであろう。

15分くらいであろうか、曲としては長い時間が終わりを告げ、和也が目を開きながら笛を下ろすと、森に漂う色とりどりの魔素が、何かを記憶するように明滅しながら周囲に拡散していくところであった。

いつまでも今の気分に浸っていたいところではあるが、少し日が傾いてきたので歩みを再開する。

目的の魔獣に出会う頃には森に夕日が射していた。


 和也は改めてその魔獣を見てみる。

確かに全長10m位あり、見上げる程の高さにある枝には、ある星の林檎に似た果実が実っている。

木の表面は薄い金色の輝きを放ち、いかにも魔力が高そうだ。

だが、それだけで、別にその魔獣から悪意を感じるわけではない。

人を襲うようにも見えない。

依頼だからと無害な生物をただ倒すのは、今の和也の気分にそぐわなかった。

しかし、それだとギルドの職人のように困る者もでるのだろう。

実は貴重な霊薬の材料になるとも聞いた。

魔獣を前にして、どうしたものかと考えていると、自分を見つめていた魔獣がゆっくりと動き出した。

なんとなく、付いて来いと言われているような気がして、その後をゆっくり付いて行く。

今日は王宮に帰れそうもないなと思い、エリカに念話で、『今日は帰れない』と伝えておく。

エリカからの返事で、『分かりました。では明日、今日の分も含めて感謝の気持ちを倍にしてお渡し致しますね』と言われて少し戦いたのは秘密である。


 どのくらい歩いたであろうか?

森に夜の帳がおりる頃、少し開けた場所に着いた。

周囲を取り囲む魔素の濃度が尋常ではない。

常人なら1日も居れば身体に支障をきたすだろう。

その一角で、樹人の魔獣は動きを止める。

よく見ると、その傍らに幾つかの枯れ木のような物が並んで横たわっていた。

そこから動こうとしない魔獣にこちらから近づいて行くと、枯れ木に見えたそれらは樹人系魔獣の躯であった。

もう死んでからかなり経つようだが、周囲の魔素の濃度が濃いせいか、朽ちもせず、綺麗な状態で残っている。

そして、その周りを、土から顔を出した若芽が見守るように囲んでいた。

どうやら、落ちた実が長い時を経て新たな樹人として成長するようだ。

和也が、樹人がここに自分を連れてきた理由を考えていると、その樹人は1本の枝を伸ばし、仲間だった者達の躯を指し示した。

まるで持って行けと言っているように見える。

和也が身振りで確認すると樹人は微かに頷いた。

和也は少し考えて、そこにある躯の内、比較的新しいものを3体分持ち帰ることにした。

まだ10体以上あるが、ここはいわば樹人達の墓場であり、彼らの再生の場でもあるのだ。

必要以上に持ち帰ることはできなかった。

居並ぶ躯に一礼して、収納スペースに詰める。

3体詰め終えたところで再び一礼すると、和也の行為を静かに見守っていた樹人がその身体を震わせた。

その枝から熟した実が幾つも落ちてくる。

躯には実がないので、自分のをくれるようだ。

それらを丁寧に拾いながら、ここまでしてくれたこの樹人に、何かしてやれることはないだろうかと考える和也であった。

結局、その場では思い付かず、樹人に丁寧に頭を下げて、この場所に、樹人達の意に反する者が出入りできないように結界を張り、静かにその場を後にした。


 星の光の綺麗な夜道を王宮へと向かって歩きながら、物思いに耽る和也に、1体の小竜が近づいて来たのはそんな時であった。


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