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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き


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エリカ編その14

 その朝、和也は今までで最もすがすがしい朝を迎えた。

有り余る余暇の過ごし方として睡眠を取り入れて以来、こんなによく眠れたことは初めてだった。

エリカの甘く優しい匂いに包まれて、心まで充足している気がする。

起きるのが勿体無くて、そのまま目を閉じていると、自分の腕の中で身じろぎするエリカに気付いた。

その幸せを噛み締めていると、やがて、唇を優しく塞がれた。

どうやら起きたようだ。

朝にしてはいささか濃厚すぎる口づけの後、ゆっくりと身を起こしたエリカは、傍らに置いてあった衣装を身に付け、係りの者が来る前にと、自らの部屋に戻って行った。

和也は、そんなエリカをベッドの上で見送りながら、今日の予定を考えていた。


 どのくらい時間が経ったのだろうか、エレナが来ないことに意外さを覚えつつ、貰った報酬で市場の物でも買おうと部屋を出て、王宮の外まで来ると、向こうからエレナが何やら思いつめたような顔をして歩いてきた。

こちらに気が付くと、一瞬ビクッと身体を震わせ、その後もの凄い殺気を放ってきた。

意図的にそうしているわけではなさそうだが、溢れ出る殺気を抑えられないようだ。

そこまで彼女を怒らせた覚えのない和也は、とりあえず立ち止まって、相手の出方を待つことにした。

すると、エレナがゆっくりと近づいて来て、無理やり作ったような笑顔で尋ねてきた。


「和也様、本日はどのようなご予定でしょうか?」


「市場で何かを買って、その後、魔の森で残りの魔獣を討伐するつもりだ」


「城壁の障壁を開く王家の許可はもうお取りですか?」


和也が自分の力で障壁をすり抜けてきたことを知らないエレナはそう尋ねてくる。


「いや、これからだが」


「でしたら、それは私が取っておきましょう。

準備が出来ましたら出口までお越しください。

他にお渡しする物もございますので」


「分かった。

昼頃に向かうつもりだ」


「では、失礼致します」


エレナは用件のみ伝えると、準備が忙しいのか足早に去って行った。

和也は釈然としないものの、それ以上考えることを止めて市場へと向かう。

昨日と同じような賑わいをみせる通りを歩きながら、今日は買うお金があるのでいろいろとゆっくり見て回る。

パン屋の前で品揃えを見ていると、店主の女性が声をかけてきた。


「初めてお見かけする方ですね。

どのパンも焼いたばかりです。

お一ついかがですか?」


未だ不躾な視線を送ってくる者もいる中で、この女性の眼差しは柔らかく、穏やかだ。

少し話してみたくなった。


「どれも旨そうなパンだが、皆パン単体のものばかりだな。

具のあるものはないのか?」


「具ですか?」


「自分の知っている国では、忙しい者達がパンだけで栄養が摂れるように様々な具をパンにはさんで食べていた。

その他にも、甘い物が好きな子供達が喜ぶように、砂糖や蜂蜜などをかけて焼いたり、出来上がったパンに塗ってあるものもあった。

例えば、このパン、白くて柔らかそうだが、これに真ん中から切れ目を入れて、そこに肉や野菜などをはさんで売れば、工房で働く職人達が、作業の傍ら片手で食べることも出来る。

手を汚したくない仕事の者には、パン生地に色んな物を一緒に練り込んで焼けばいい。

勿論、パン本来の味や風味を楽しむ者達にとっては、こういうパンだけの物も大事だが」


いつになく饒舌になった和也が、時間を取らせた詫びも兼ね、いくつか購入しようとすると、話を聴いて何かを考えていた女性が徐に口を開いた。


「確かに、今までそういう発想をしなかったことが不思議なくらいです。

とても勉強になりました。

お礼にそちらはお持ちください。

お金は結構です」


「有難う。

では1つだけ貰って、後は買うことにする。

丹精こめて仕事をされた物には、それなりの敬意を払いたい」


そう言って、金貨を1枚渡すと、その女性はとても感激し、かつ恐縮しながら、『すみません、今はお釣りがありません。銅貨か銀貨をお持ちではないですか?』と尋ねてきた。

少し考えて、収納スペースに入れれば良いかと、釣銭の足りない分を全てパンで貰うことにする。

その女性はそれを聞いてさらに驚いたが、今度は申し訳なさそうに、『大変有難いお申し出ではありますが、今あるパンを全てお売りしても金貨1枚分にはなりません。少しお待ちくださいますか?別の場所でお金をくずして参ります』と言ってきた。

自分の思いつきでかえって迷惑をかけていると感じた和也は、その女性に新たな提案をする。


「ではこうしよう。

足りない分は今度来た時に貰うことにする。

今はここにあるだけでいい」


女性店主はその言葉を聞いて、とうとう自らの疑問に耐え切れず、和也に質問をぶつけてきた。


「あなたはなぜ、今日初めて来たばかりの店をそこまで信用できるのですか?

うちのパンをまだ食べてもいないのに」


和也はゆっくりと、言葉を選びながら答える。


「自分が金銭に疎い可能性があることは、パン1つ2つに金貨を渡すことで君には想像がついたはずだ。

つり銭の足りない分はパンで貰うと自分が言った時も、その無知に付け込んで、パンを高く売ることもできただろう。

自分がただの旅人なのは見れば分かるだろうから、それこそ2度と来ないこともあり得る。

少しくらい高く売っても数が数だけに自分には分からなかっただろう。

だが、君はそれをしなかった。

エルフとして気高くあろうとする以前に、自らの仕事に誇りを持ち、丹精こめた己の商品を、つまらないことで汚したくないからだと自分は思う。

そして、そんな職人が作ったパンが美味しくないはずがないとも。

そう考えたからだ」


この時代、この世界において、店先に並んでいる商品に予め値段が表示してあることは珍しく、そのほとんどは店主とのやりとりで価格が決まることが多かった。

当然、気に入らない客には値段をつり上げたり、金を持ってそうな客には価格を上乗せするような店もあり、なじみの店以外で高い買い物をするのはある種の冒険であった。

文明の発達した惑星においては当たり前のようなことでも、その星々によってかなり差があるということを、和也は様々な星の観察で学んでいた。

和也の長い説明を、黙って聞いていた女性店主は、だんだんと顔の表情を崩し、仕舞いにはその瞳に涙をためて言葉を紡いだ。


「有難うございます。

そう言っていただけて本当に嬉しいです。

ご存知のように、我々エルフは職人組合が作り出す美術品や工芸品が特に有名で、職人といえば、それに携わる人達を指します。

私のようにパンなどの食べ物を作る人はとても職人扱いしてはもらえず、どんなに情熱を注いだ物でも所詮は食べ物と軽く見られてきました。

時々、お客さんの中にも、パンにそんな値段を取るななどと言う方もいて、正直少し疲れていました。

だからこそ、あなたが私の作ったパンを、丹精こめたものとして尊重してくれたことが何より嬉しかった。

本当に有難うございます」


「この国は比較的豊かな国だから想像もつかないかもしれないが、パン1つが人の命を救うこともある。温かな食べ物は心の冷えた者に安らぎを与え、美味しい食べ物は人の心を豊かにする。

どんな職業であれ、己の心血を注いで人のためにする仕事に、貴賎などありはしないのだ」


和也の言葉を聞いて、口に手を当て、嗚咽をこらえるのが精一杯の女性店主に、『君の作ったパンが、皆に感謝される時がきっとやって来る。足りない分はいずれ必ず貰い受けるから』、そう告げて、店頭のパンを全て収納スペースにしまい込む。

そのまま去ろうとする和也に、その女性店主から途切れ途切れに声がかけられる。


「あなたという方に出会って、消えかけていた私の心の灯火に、再び火が灯りました。

また是非いらしてください。

何度でもお越しいただけるよう、日々研鑽を積んで参ります」


 和也は次に職人街に足を運んだ。

エルフ族の収益の中心地らしく活気に満ちている。

武器や防具を作っている者、家具や装飾品を作成している者が皆、熱心に働いている。

ここでは直接購入できないようなので、商人組合の方へ足を伸ばそうとすると、話し声が聞こえてきた。


「昨日、久々に大量の魔獣関連の素材が納入されたようだが、残念ながら樹人系魔獣の物はなかったようだ。

この分だと、暫くは高級家具の作成はできないな。

商人組合に注文を受けないように言っておこう」


これから自分が討伐に行く対象について、肩を落としながら話す職人に、出来れば問題のないことを伝えてやりたかった。


 商人組合の地域に差し掛かり、エリカへの贈り物を探そうと、一番格式の高そうな店に入ろうとしたところ、入り口に立つ接客担当らしきエルフの男性から声をかけられた。


「お客様、誠に恐れ入りますが、当店は一見のお客様はお断り致しております。

申し訳ございません」


「それは失礼した」


和也が、ばつが悪そうに、慇懃無礼にそう話す店員に詫びて、足早に立ち去ろうとした時、それを見ていたエルフの女性が声をかけてきた。


「もしよろしければ、私のお店をご覧になってみませんか?

お探し物は何でしょう?」


まるで、恥をかいた自分を慰めてくれるかのような優しい声色で話してくる。

その心遣いを無駄にせず、和也は自分の捜し求める品を伝えた。

大事な人へのプレゼント。

美しい黄金色の髪に映える、ペンダントを探していると。

それを聴くと、その女性は暖かな微笑みを浮かべながら、和也の手を引いて、自分の店へと案内してくれた。

そして、こちらの予算を尋ね、1つのペンダントを奥から出してきた。

プラチナシルバーの輝きを放ち、その両翼を広げて今にも空に羽ばたこうとしている姿の、白鳥の形をしたペンダントを。

和也の目は、それに釘付けになった。


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