エリカ編その11
晩餐後、部屋でくつろぐ和也に、扉の向こう側からエレナが声をかけてきた。
「浴場の準備が整いました。
以後、明日の朝まで何時でもご使用可能ですが、私は今日はこれで失礼させて頂きます」
「分かった。
有難う」
実は和也は風呂好きであった。
創造神故に新陳代謝とは無縁の身体ではあるが、観察先で見て以来、檜の露天風呂がとても気に入り、自らの居城にも取り入れて楽しんでいた程である。
口から摂取した物は全て体内で消滅してしまうので、排泄物は出ないが、汗や唾液や涙、精液は出そうと思えば可能だ。
風呂に入る際は、流れる汗の感覚も気持ちが良いので、このところずっと、出るようにしたままだ。
不思議なもので、そうすると以前よりずっと人の気持ちが理解できるようになり、自分の表情も多少豊かになったような気がする。
様式美として作り出したタオルを片手に、浴場のある場所へと急いだ。
王宮の浴槽は、檜ではなかったが、大理石を敷き詰めて、中央には植物が植えられた小島のようなものがあり、まるで庭園の中にいるような感覚を持たせる風情あるものだった。
所々に置かれた石像から常に湯が流れ落ち、源泉かけ流しのようなイメージを持たせている。
文明の程度を考えれば、王族ならではの贅沢な湯の使い方だ。
広々とした浴場で、1人、湯に浸かりながら、これまでで最も充実した1日を振り返っていると、誰かが入ってくる気配を感じた。
自分専用の風呂ではないので仕方ないと思いながらも、多少の無粋さを感じて視線を送ると、そこには全裸のエリカが、白い肌を羞恥で紅に染めて立っていた。
和也の思考が止まった。
何も考えられず、ただ、眺めるだけしかできない。
かなりの大きさなのに、全く垂れずにその形を止めている美しい胸、その先端の桜色の突起は可憐で、湯に浸かれば溶けてしまいそうな儚さがある。
わずかにへこんだ切れ長の臍、何時までも撫でていたくなるような芸術的なカーブを描く腰の曲線、その下の黄金色の陰り。
細すぎず、かつ無駄な肉の一切ない、しなやかな両脚。
美しいとは思っていたが、生まれたままの姿のエリカは、自分がこれまでに観てきたどの生き物より美しかった。
何時までも動こうとしない和也に、エリカはゆっくり近づいて来る。
静かに湯を浴び、和也の隣に座ると、その肩に頭をもたせ掛けて耳元で囁いた。
「何も言ってくださらないのですか?」
その声に自分を取り戻した和也は、内心の動揺を抑えながら言う。
「いきなりどうした?
嫁入り前の女性がするには大胆過ぎると思うが」
「わたくしはもうあなたの妻です。
少なくともわたくし自身はそう思っています。
あなたは違うのですか?」
心を落ち着けるための質問に質問で返され、何も言えなくなる和也。
そんな和也にエリカは独り言のように呟く。
「マリー将軍と何かあったのですか?
先程の晩餐会では、母を品定めするようにご覧になってましたが、もしかして気がお有りなのですか?」
エリカのさらなる意外な問いかけは、ますます和也を追い詰めていく。
何かを答えなくてはと、焦りばかりが先に立つが、全裸で寄り添うエリカの肌の柔らかさ、なまめかしさに、心が乱れて思うような言葉が出てこない。
何時までも和也からの返答がないことに、エリカは何かを決心するように瞳を閉じ、やがて再び見開いた時には、そこに決意の光が灯っていた。
「今夜、あなたのお部屋にお伺い致します」
そう言って、静かに立ち去っていくエリカの後ろ姿を、肝心な時には何も言えなかった和也は、尻のラインも素晴らしいなどと考えながら見惚れていた。
愛した男のために、自らの裸身を初めて晒す乙女の行為に、一体どれ程の勇気がいるのかに気が付くのは、もう少し先のことであった。




