エリカ編その10
和也が王宮に戻ると、王宮全体の自分に対する風当たりが弱くなっていることに気付いた。
居住区を警備している近衛兵にも睨まれなかった。
部屋に入るとすぐ、エレナから声がかかる。
「和也様、入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「失礼致します。
こちらがマリー将軍からお預かりした討伐報酬でございます。
それから、本日のご夕食は女王陛下主催の、王家の方のみご出席の晩餐会になります。
準備が整いましたらお呼びに参ります」
エレナだけはいつも通りだった。
「1つ尋ねたいが、風呂に入ることはできるか?」
「可能でございますが、今の時間帯は王家の方がご使用中ですので、晩餐後になります」
「分かった」
「では、失礼致します」
用件だけ言うと、エレナはすぐに退室した。
明日のことを色々考えていると、再度エレナが呼びに来る。
「準備が整いました。
ご案内致します」
エレナに連れられ出向いた先は、こじんまりとした、過度な装飾はないが、とても趣のある、静かな空間だった。
威勢を放つ必要のない、身内で、ただそこに流れる時間を楽しむだけの、私的な場所である。
既に皆が揃っていて、女王から声をかけられた。
「今宵の晩餐は、王家への心遣いに対する礼じゃ。
まずは座るがよい」
和也が席につくと、ワインが注がれ、女王から食事の挨拶がある。
「本日は、我が国に御剣殿を迎えることのできた、素晴らしい日じゃ。
互いの友好をより深めることを願って、乾杯」
「「乾杯」」
寿命の長いエルフならではの、100年もののワインをはじめ、出てきた料理は皆素晴らしい味であったが、1品だけ、和也だけに追加されたメニューがあった。
何かの肉のステーキである。
後でエリカに尋ねてみると、エリカ自身は嫌いではないそうだが、エルフ族はあまり肉を食べないそうだ。
食事の最中に交わされる会話に適度に加わりながら、和也は女王を観察する。
年齢が判り辛いエルフではあるが、それほど高齢ではないだろう。
言葉遣いのせいで誤解しがちになるが、むしろ、若い部類かもしれない。
まだ女性としての艶が滲み出ている。
これなら十分、子を成すことができるだろう。
続いてその夫である宰相も観てみる。
寡黙ではあるが、なかなかの切れ者らしい。
時々こちらを見る眼には、知性と理性の輝きがある。
家族を見る眼差しには、それに加えて深い愛情が感じられる。
和也は満足しながら観察を終える。
エリカの家族が、エリカにとって居心地の良いものであろうことが分かり、また、これから家族が増えても大丈夫だと確信できたからだ。
目を閉じ、その眼に魔力を込めて再び女王を見据える。
子供のできにくいエルフではあるが、その確率をせめて人間並にするよう祝福しながら。
自分達の目的のためでもあるが、この家族には幸せでいて欲しいから。
そんな願いを込めて。
だが、一仕事して、デザートワインを堪能していた和也は気付かなかった。
自分を見つめるエリカの瞳に剣呑な光が宿っていることに。
給仕として参加していたエレナの顔が、暗い影を纏っていたことに。




