エリカ編その9
女王とエリカは、信じられない思いでマリー将軍の報告を聞いていた。
エリカが同席しているのは和也がらみの報告だと事前に聞いていたからだ。
王宮の謁見の間で、マリー将軍が、これまで放置されていた討伐依頼を和也が6件も達成したことを報告したまではよかった。
驚愕しつつも、長年の懸念が減り、安堵しているところに、マリー将軍がさらなる追い討ちをかけたのだ。
「なお、今回の件における報酬総額は金貨1万2000枚になり・・」
「暫し待て」
金額を聞き咎めた女王から横槍が入る。
「なぜそうような金額になる。
いつもの4倍近いではないか」
「素材処理班の担当者が申すには、あらゆる素材の状態が完璧に近く、特に、1番重視される毛皮は、ほぼ無傷の状態だとか。
これらを使用して作成する防具などの売値を考えれば、むしろ安いとのことでした」
「無傷?」
「はい。
どのような攻撃手段かは存じませんが、相当な威力で、しかも一撃でなければ無理かと。
残念ながら、我々には実行不可能です」
「我が軍の精鋭が20人でも倒せなんだ魔獣を一撃?」
呆然としている女王は、マリー将軍からまたしてもとんでもないことを聞かされる。
「報酬の件に戻りますが、本来なら金貨1万2000枚のところ、和也様は金貨100枚でよいと仰っています。
残りは王家に寄付されるそうです」
「は?」
普段なら、怜悧な美貌を崩すことなく、優雅さを失わない女王の口から、間の抜けた声が漏れた。
金貨1万2000枚とは、この国の国家予算の約10分の1に相当する。
人口が少ないながらもそこまで歳入があるのは、ひとえに、職人組合が作り出す、美術品や家具、魔法具の売り上げによるところが大きい。
だがそれも、貴重な魔獣の素材があればこそ可能であり、通常の素材ならせいぜいその10分の1程度にしかならない。
故に、治安維持と素材確保を兼ねた魔獣討伐は国の大事な仕事であり、義務なのだ。
だが近年は、魔獣が巨大化、凶暴化し、思うように討伐が進んでいないのも事実であった。
その状況をたった1人で覆し、しかも、人一人なら400年程度は遊んで暮らせる額の報酬をほとんどいらないというのだから無理もない。
謁見の間には他に、宰相をはじめ侍従長、近衛騎士団長、魔法師団長と数名の警備兵がいたが、皆一様に唖然としていた。
「どうやら御剣殿には欲というものが存在しないようじゃな。
折角の申し出、有難くお受けしよう。
侍従長、急ぎ晩餐の用意を。
時間がない故、王家の者のみの個人的なものとする」
暫くして、自分を取り戻した女王はそう告げると、マリー将軍を下がらせ、エリカと共に謁見の間を後にした。
エリカも一連の話を驚きをもって聞いてはいたが、彼女の場合、次第に喜びの方が強くなり、最後の方には頬が緩みそうになるのを堪えるのに苦労したほどだ。
自分の夫になる人が、素晴らしい能力を持っていることを誇らしく思い、自分達の結婚を認めさせるべく奮闘していることを嬉しく感じていたが、そんな余裕のあるエリカだからこそ、マリー将軍が和也様を名前で呼んだこと、和也様のことを話す時の表情が微妙に嬉しそうなことに気付いてしまった。
後で二人きりになった時、和也様に確かめなくてはと密かに誓うエリカであった。




