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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き
153/181

『ざまあ系』への、かくも遠き道、その8

 「いらっしゃいませ。

・・彼女も元気そうで何よりです」


「邪魔をする。

商売を始めるに当たり、新たに奴隷を購入しようと思ってな」


奴隷商の館を訪れた和也達は、応対に当たった使用人に応接室まで通され、少し遅れてやって来た店主と、先ずは挨拶を交わす。


「有難うございます。

ミザリーを大切に扱って下さった貴方には、本当に感謝致しております。

今回のご希望は、どのようなものでございましょうか?

当店では、犯罪奴隷の取扱いは一切ございませんので、安心してお求めいただけます」


「一人は学のある者が欲しい。

高等教育を受けた者か、何かの専門職に就いていた者、或いは魔術師が良い。

もう一人は労働系の者。

メイド経験者なら申し分ない。

どちらも口が堅く、身持ちの良い事が条件だ」


「・・ご予算はお幾らくらいでしょうか?」


「一人当たり金貨50枚は出せる」


「・・メイドとしてお求めの商品には、それで十分お勧めの娘をお売りできます。

ただ、もう一人の方、高学歴の者は、先日仕入れたばかりの飛び切りのお勧めがいるのですが、何分仕入れ値が高く、こちらの利益を乗せると、金貨90枚ほどになってしまいます」


「意外に()るものなのだな。

人の人生の残りを買う訳だから、安くないのは当然だが、自分には、その相場というものがよく分らん。

もしかして、ミザリーを購入した時も、実はあれでは足りなかったのではないか?」


店主がミザリーの顔をちらっと見て、苦笑する。

本人を目の前にしては、少し言い辛かったようだ。


「彼女の場合は、初めから利益度外視でしたから。

親友の娘であり、その最後の手紙でも頼まれた、商品というより大事な客人でしたから。

本来なら、その仕入れ値がどうであれ、彼女クラスなら金貨400枚は欲しいところです。

ですが、彼女の幸せを考えれば、仮令損をしてでも、納得の行く相手にお売りしたかった。

彼女との約束で、金貨50枚以下ではお売りできませんでしたが、私としては、貴方になら幾らでも良かった。

久し振りに拝見した、澄んだ美しい瞳と、気高い矜持をお聴きして、何より、全身から放たれるその自信に納得できましたから」


「・・貴方に利益を与えた気になっていた、自分が恥ずかしい。

金額は問わない。

その二人を見せて欲しい」


「畏まりました」


店主が一旦退出すると、ミザリーが苦笑いする。


「私も恥ずかしい。

『借りたお金以下では売らないで』なんて、彼の利益の事を全く考えてなかった。

・・本当に世間知らずだったわ」


「自分など、椅子に踏ん反り返っていて(比喩)それだから、目も当てられない」


和也も釣られて苦笑する。

暫くすると、店主が女性二人を伴って戻って来た。

その一人に見覚えがある。

向こうも、和也達を見て息を呑んだ。


「お待たせ致しました。

ご要望の、魔術師とメイドの二人でございます。

こちらが魔術師、そしてこちらがメイド経験者です。

ご説明致します。

先ず魔術師の女性、名をミレーと申します。

年齢は20歳、基礎魔法(浄化やライト)の他に、火と水の中級魔法を使えます。

制約の守りは『貞操』。

彼女に性行為をさせるには、婚姻が条件になります。

そしてこちらが、元メイドのレミー。

年齢は17歳、家事全般をこなせる上、初等教育を受けております。

制約の守りは同じく『貞操』。

メイドだからと気軽に手を出せば、待っているのは妻に加えるか、解放するかの二択です。

もっとも、お客様には無用な心配でございますが・・」


『ジャッジメント』


和也は、女性二人の過去を調べる。

ミレーの方は、どうやらあの後直ぐに売られたらしい。

彼女だけ無傷で降参したから、大損をしたあの商人の八つ当たりに遭ったようだ。

元々彼女は、自分達のようにあの商人から指定戦を持ち掛けられて、無残に負けたパーティーの一員だった。

高い代替金に目のくらんだ田舎出身のパーティーが、彼女が止めるのも聴かずに了承し、負けた際に彼女を差し出した。

機転が利く彼女は、商人が何を望んでいるかを素早く見抜き、制約の守りに貞操を課す事で、その身を守ってきた。

今回真っ先に売られたのも、もう一人の魔術師と違い、そういった奉仕を一切しなかったからでもある。

レミーは、奴隷になるまでは、ある下級貴族の家で働いていた。

その家の子供達と共に、屋敷で学ばせても貰い、主人にも大事にされていたが、やがて家業が傾き、借金で首が回らなくなったその貴族を助けるために、自ら奴隷に落ちた。

母娘二代で働かせて貰い、大事にされた恩に報いるためであったが、彼女の買い取り金(金貨25枚)では借金に全く足りず、結局その貴族は、そのお金を持って夜逃げした。


「二人共、自分に何か、制約以外の要望はあるか?

己を売ったパーティーに復讐したい。

自身を売って作った折角のお金を、活かす事なく持ち逃げした相手から、それを取り戻したい。

・・何でも良いぞ?」


それを聴いた二人の表情が、平淡から畏怖へと変化する。

最初に口を開いたのはミレー。


「貴方は一体、どういうお方なのですか?」


「ある時は天上から、またある時は物陰から、おはようからおやすみまで、人々の暮らしを優しく見守る存在、それが自分だ」


意識的にきりっとした表情を作ったが、あまり受けなかった。


「・・大体分りました」


「そ、そうか」


「私にさせる事は何でしょうか?」


レミーが尋ねてくる。


「主に家事、余裕があれば自家菜園の管理。

それくらいだな」


「・・それだけですか?

お風呂で身体を洗わせたり、膝枕の上で耳かきをさせたり、色々な衣装を着させて楽しんだりとかはしないんですか?」


「・・逆に聴くが、今までそれをやっていたのか?」


「いえ、した事はありません。

私の妄想です。

若い女性を欲しがるなら、エッチな事はできなくても、そうした変化球で攻めてくるのかなと・・」


「君は中々賢いな」


「褒められた!」


「安心しろ。

そういった事は本来、メイドの仕事ではない。

自分は君に、一切それを要求しない」


「・・・」


「二人共購入する」


店主に向けて、そう口にする。


「有難うございます。

・・全部で金貨130枚になります」


一礼して、テーブルの上にトレイを載せる店主。

和也はその上に、金貨460枚を載せる。


「お客様?」


「先日のミザリーの件で、こちらの認識不足から生じたそちらの損失、金貨330枚を上乗せしてある」


「いえそれは・・。

こちらが納得してそうした事でございますから・・」


「別に貴方の誇りを傷つける積りはない。

彼女を買い叩いたみたいで、自分が自分を許せないだけなのだ。

だから、どうか受け取って欲しい」


「・・有難うございます。

彼女をそこまで大切に思って下さること、心から感謝致します。

謹んで受け取らせていただきます」


もう一度和也に深々とお辞儀をして、重たいトレイを丁寧に運んでいく店主。

その間この場で待つように言われた女性二人は、揃って和也に親愛の目を向ける。


「貴方に買われて良かったです」


ミレーがそう言うと、レミーも口を開く。


「私、形のないものに、そんなに沢山のお金を払う人、初めて見ました。

物好きなのは自分くらいだと思っていましたが、そうじゃないんですね」


そう言って、嬉しそうに笑う。

和也は改めて二人をよく見る。

ミレーは160㎝弱の背丈に、標準的な胸の大きさと、スラリとした身体を持つ、青みがかった髪をした、中々に綺麗な女性だ。

レミーの方は、150㎝くらいの小柄な身体に、豊かな胸と、くびれた腰を持つ、愛嬌のある黒髪の女性。

この店の方針なのか、服装は、彼女達が買われた際のものを、そのまま着ているように見える。


「お待たせ致しました。

早速手続きに入りたいと思います」


店主が戻って来て、皆にそう言ってくる。

書類に署名が済むと、店主が女性達に声をかける。


「それでは二人共、壁に向かって立ち、上着をたくし上げて下さい」


前回同様に、店主が彼女達の奴隷紋に己の魔力を通す。


「お客様、もしかしてまた・・?」


椅子に座って動かない和也に、店主が嬉しそうな表情をする。

頷く和也。


「喜んで下さい。

貴女達のご主人様は、貴女方を奴隷から解放して下さるそうです」


「え?」


「嘘!?」


二人が驚きで服をたくし上げたまま、和也の方を向いてくる。

その彼女達に身振りで服を正すように示した和也は、徐に口を開く。


「もう少しで君達は自由の身になる。

仮令自分から逃げても、自分は訴える積りはないし、何処へ行こうと咎める者はいなくなる。

だが、自分としてはできれば君達と、主従契約を結びたい。

きちんと給料を支払うので、自分の為に仕事をして欲しい。

・・どうだろうか?」


二人が互いの顔を見合わせる。

そして同時に声に出した。


「「喜んで!!」」


「また『ざまあ系』の実践ができなかったわね」


ミザリーが嬉しそうに微笑む。

その後暫くして、店主に丁寧に頭を下げられながら、和也達四人は新たに購入した屋敷へと向かうのであった。




 「・・ご主人様は転移が使えたのですね」


途中から路地裏に入り、四人纏めてここまで転移してきた和也を、ミレーが呆然とした顔で見る。

レミーの方は、まだ何が起きたか理解できないでいる。


「私が学んだ書物では、複数での転移は無理だと書かれてありましたが、実は可能だったのですか」


未だ衝撃から立ち直れない彼女らを伴い、屋敷の中に入る。


「新築のようですが、まだ何もないですね」


広いだけで、がらんとした屋敷内を見て、レミーが呟く。


「君達が住む事になる屋敷だから、君達の意見を聴いて、物を揃えようと思ったのだ」


「?

ご主人様はお住まいにならないのですか?」


「自分とミザリーは別な場所で暮らす事になる。

時々様子を見に来るが、基本的には暫く二人でここに住んで貰う」


「ここに二人だけでですか?

・・それはまた、随分贅沢ですね」


「この屋敷は、ミレーの仕事場も兼ねている。

商品の一時的な置場にもなるから、意外に場所を取るだろう。

2階は全て、自由に使って良い。

好きな場所に己の部屋を作ると良い」


「私の仕事場ですか?

一体何をすれば宜しいのですか?」


「付いて来てくれ」


和也は皆を、地下室に案内する。


「こんな場所があったんだ?」


ミザリーが興味深げに室内を見回す。


「ミレー、ここは君の研究室になる。

君にはここで、自分が依頼する薬の研究をして貰う」


「薬の研究・・ですか?

私、そんな事した事ありませんが」


「大丈夫だ。

こちらも一からやらせる積りはない。

教科書となる書物を2冊、先ずは読んで貰い、その後に実験のやり方や、実際の薬の作り方などの映像を見て貰う。

実験器具や培養細胞、その保存装置などは全てこちらが用意する。

成果を急がせる事はしない。

じっくりと気長に取り組んで、納得の行く結果を出してくれればそれで良い」


「・・あの、質問しても良いですか?」


「何だ?」


「どうしてそんな事を?

・・ご主人様の魔法なら、大抵の事ができるような気がしますが・・」


「この世界は未熟で、未だその発展途上にある。

日々何処かで人々が病に苦しみ、儚い命を散らしていく。

人がその最後に、どんな思いで、何を心残りにしていくかは定かでないが、愛する者が苦しみ、窶れて死期に近づく様を見る辛さは、どの世界でも、どんな人種でも同じだと思う。

自分が人を助けて回れば、それが一番確実な事は理解している。

だがそれでは、いつまで経っても人は成長せず、心に真の豊かさが生まれない。

苦しみ、嘆き、悲しんで、人はその分何かを得、それが糧となって、愛や夢、優しさが芽生える。

だから自分は、安易に人に手を差し伸べる事は控えるが、それでも、できる範囲で何かをしてやりたい。

この国には、胸を患う患者が多い。

そんな患者の、藁にも縋るような思いを踏み躙る、悪しき者さえ存在する中で、自分は君に賭ける。

君が道を拓き、それに後進が続いて、やがて彼ら(彼女ら)が救われる未来が来ると信じる。

・・お願いできないだろうか?」


何時の間にか静かになってしまった地下室で、和也の声だけが室内に響く。

内に在る真摯な想いを、拙い言葉として紡いだ彼に、三人の手が寄り添う。


「・・有難う。

母も今の言葉を聴いて、きっと安らかに眠れると思う」


「世界は広いですね。

貴方のような人が居るんですね」


「私、幸せです。

そんな大きな夢に、仮令極一部でも、参加できるのですから」


理解を得られた喜び。

自分を信じてくれる事で生まれる力。

以前は前主人によって、惨たらしい光景が繰り広げられたこの場所で、今、世界を癒す第一歩が歩まれる。


「頑張ります」


ミレーの力強い言葉に、口元に笑みを浮かべて頷く和也。

1階に戻ると、陽が少し傾いてきている。

再び市街に転移し、何れも新品で、ベッドを3つ(ミザリーの意見で、1つだけサイズが異なる)と、彼女達の部屋分のカーテン、それに六人掛けのテーブルと椅子のセット、大きな本棚、クローゼットと鏡台を2つずつ買う。

どれも二人の好きな物を選ばせると、意外と早く済む。

どちらもシンプルで、実用性の高いものが好みらしい。

購入した物を、無造作に収納スペースに放り込む和也を、ミレーとレミーが目を丸くして眺めていた。

最後に生活雑貨の店で当面必要な物を揃えると、皆で夕食を食べに、いつもの店に行く。

初めて夕食の時間帯に訪れた和也を、店員の少女(店主の娘)は満面の笑みで迎えたが、その後ろに居た三人の女性の姿を見ると、心なしか片方の眉がピクピクしていた。

夕食なので、三人に飲めるか確認した上、ワインを注文し、各自好きな物を注文させる。

きしめん擬は昼限定らしく、少し残念そうな顔をした和也に、店員の少女が小声で耳打ちしてくる。


「常連さんだけの裏メニューですけど、スープパスタがありますよ?」


それを頼むと、和風出汁の効いた透明なスープの中に、伊勢うどんに似た、極太のパスタが入っているものが出される。

茹でた数種の野菜と肉をかき分けてそれを口に含むと、呆気ない程に、口の中で溶けていく。

思わず少女に向かって、右手の親指を立てる。

どうやらこちらが喜んでいる事が伝わったらしく、嬉しそうに微笑んでくれる。

何故か今度は、それを見たミザリーの片眉が、微妙に揺れ動いていた。


 食事を終え、屋敷に帰って来る。

各部屋に家具を設置し、ミレーとレミーが私物を片付けている間に、重大な事を思い出した和也は、急いで1階に降りて行く。

トイレを自分好みに変え(己は使わないのに)、風呂場の浴槽とこの星の地殻を弄って、温泉が湧き出る形式に変える。

台所と洗濯場に、真水と、ぬるま湯の出る、2つの蛇口を設け、わざわざ井戸まで汲みに行く手間を省く(上水道は、都市部の中心地帯にしか、まだ備わっていない)。

仕事をやり終えた和也が、ミザリーを連れてテントに帰る際、防犯上の問題にも対処すべく、屋敷の敷地に結界を張る。

邪な考えを持つ者や、犯罪者、害ある獣は決して入れない結界。

見送りに出た二人に、朝食用の食べ物を渡すと、『明日また来る』と言って転移する。

テントに帰ってから訓練に励んだ二人は、揃って風呂に入り、マッサージ後に、寝るまで魔法の練習をする。

両手を繋ぎ合わせた向こうで、ミザリーの肌がほんのり桜色に上気し(彼女は最早、テント内では常に下着姿のまま)、和也が流す魔力に、瞳を閉じたまま、身を小刻みに震わせている。

テントの外では、時折鳥や獣の鳴き声がするくらいだが、遥か彼方では、一人の若い女性がその様を見ていた。

仕事中なのか、その指は忙しなくパソコンのキーボードを叩いているが、脳内に映る映像に対し、時々不満げに、指でトントンと机を叩く仕草が見られる。


「社長、何か気になる件でもありました?」


一緒に仕事をしている皐月がそう尋ねてくるが、有紗は笑って誤魔化す。

一方の和也は、その時呑気に眠る所だった(念話と違い、妻との間の遠視では、お互いがチャンネルを開いている必要はない)。


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