エリカ編その2
暫くして、エレナが揃えてきた依頼は7件、いずれも魔の森に住む高位の魔獣の討伐とその素材の回収だった。
話を聞くと、この国には冒険者ギルドはなく、必要に応じて国の精鋭部隊が討伐に行くか、隣国の冒険者ギルドに依頼を出すそうだ。
冒険者ギルドがないのは、エルフ族以外の人種が長期滞在すると治安の悪化を招く恐れがあるからだそうだ。
神殿もなく、あるのはエルフ族の商人組合と職人組合、国立療養所のみ。
もともとエルフ族は、頻繁に他国と関わりを持とうという意識に欠け、必要がなければ何事も自国のみで処理しようとする傾向がある。
他の人種に比べ、遥かに長寿で、その容姿にも魔力にも優れた点の多いエルフ族は自尊心が強く、他の種族を見下すことこそしないが、敢えて関わりを持つ必要性を感じないのだ。
とりあえず、渡された資料に目を通すと、そのほとんどが良く知っている魔獣ばかりだった。
ここに来る途中、隠密魔法を使う前に襲ってきたものばかりだから当然だった。
ただ、1つだけ見覚えのないものがある。
資料によると、全長10mくらいの木の魔物で、非常に珍しく、その枝や幹が、エルフ族の使う弓や高級家具の素材になり、その実は貴重な霊薬を作る際に欠かせないものらしい。
ただ、滅多に出会うことがなく、仮に出会えたとしても、その討伐には軍の精鋭が30人程度必要になるらしい。
エレナによると、国の依頼を全て持ってきたので、その実現可能性の有無までは考慮していないという。
あまり当てにされていないのだろう。
もう1つの用件であるエリカへの伝言は、担当に伝えたので返事待ちだそうだ。
エリカの方は時間がかかるようなので、今できることをやるべくエレナに確認する。
「依頼の完了はどこに報告すればいい?」
「王宮を出た左側に衛兵の兵舎があります。
そこで用件を言えば担当の方に取り次いでいただけます」
「分かった」
さっそく報告に行こうとした和也をエレナが呼び止める。
「これから魔の森に向かわれるのですか?
途中で夜になりますが、夜だとさらに強い魔獣も出てきます。
それに魔の森への通路は今は開けることができません」
「森に行くのではない。
報告に行くのだ」
「は?
今何と仰いました?
報告に行くと仰いましたか?」
「そう言ったが」
「失礼ですが、何もお持ちではないようですが?
それに、そのリストの魔獣はとても1人で倒せるようなものではありません。
最低でも6~7名の最上位ランク者でパーティを組んで、やっと討伐できる類のものです。
ご冗談が過ぎますよ」
「別に冗談を言っているつもりはない」
いちいち説明するのが面倒だと思った和也は、エレナをおいて兵舎へと急いだ。
「討伐依頼の達成報告に来たのだが、担当者に取り次いでもらえるか?」
兵舎に着くなり、門番と思しき人物に声をかける。
いきなり見知らぬ人間族の男が来たと思ったら、自分達衛兵が達成できず、暫くそのままになっていた討伐依頼を成し遂げたという。
見たところ1人のようだが、他のメンバーはどうしたのだろうか?
まさか自分だけ逃げ帰って来たとでもいうのであろうか?
エルフ族ならまず着ることのない黒一色の服に身を包んだ若い男を凝視しながら、門番の男はこの件の担当であるマリー将軍が今何処にいるかを思い出していた。