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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き
119/181

アリア編、その28

 「お待ちしてました。

・・これを」


ギルドに顔を見せた和也を待ち構えていたように、馴染みの受付嬢が手招きしてくる。

寄って行くと、笑顔の絶えない彼女には珍しく、少し緊張しながらメモを渡される。

『一刻も早く、わたくしの下に顔を見せなさい』

名前は書かれていないが、見覚えのある花押が描かれている。


「どなたかお分かりですね?」


受付嬢に確認される。


「ああ」


「オリビア様といい、貴方は随分と凄い人脈をお持ちなのですね。

アリア効果なのでしょうか。

彼女、大事にしてあげてくださいね?」


「勿論だ」


それだけ言うと、和也は直ぐにヴィクトリアの下に向かうのだった。



 「自分に何か用か?」


王宮にある彼女の部屋に行くと、きちんと服を着た彼女が真面目な顔で書類仕事をしている。

ここの所、夜しか訪れていなかったせいか、風呂上がりの彼女ばかりだったので、何だか新鮮に思える。


「貴方、オレア侯爵の孫娘と仲良いの?」


いきなり現れた和也に驚く(ふう)でもなく、書類から目を上げて、そう尋ねてくる。


「顔見知り程度だと思うが」


質問の意図が分からず、とりあえずそう答える。


「先日、侯爵が孫の1人を連れて、父に挨拶に来たの。

どうやら晴れて後継ぎが決まった事を伝えに来たみたいね。

あそこは、ミレニー以外はろくな奴がいなかったけど、慣習や何かで女性が家督を継ぐのが難しかった。

だけど、当主の課した試練を無事果たしたとかで、やっと彼女に継がせる事ができて、侯爵、とても喜んでいたわ。

因みに、残りの3人の孫達は、試練を果たせず戦死ですって。

その父親も、領地の最果ての村で静かに余生を送るそうよ」


自分の眼を見つめ、淡々とそう告げてくるが、何故そんな事を言ってくるのか未だに理解できない。


「わざわざ人を呼び出して、伝えたい事はそれなのか?」


少し呆れてそう言った和也に、ヴィクトリアは溜息をつく。

そして、徐に椅子から立ち上がると、ゆっくりとこちらに近づいて来て、その両腕を和也の首に巻き付ける。

至近距離から和也の眼を覗き込み、言葉を紡ぐ。


「ミレニーはね、わたくしの友達なの。

父への挨拶の後、彼女と2人で話をしたら、何故か黒服の少年の話が出てきてね、・・色々、お世話になったそうよ。

結婚を迫って断られたと笑ってたわ」


「そんな事もあったな」


楽しそうに微笑むヴィクトリアに、それだけを口にする。


「他にも面白い事言ってたわよ?

あなた、ヘリ―家に梃入れしてるそうね。

ろくに税収もなかった寒村を、金貨が飛び交うような場所にしたって。

良く調べさせたら、その家出身のメイドにご執心らしいとか」


「彼女は有能で、忠義に厚く、信頼に足る人物だ。

だから重用した。

確かに容姿も綺麗だが、それ以上に心が美しいのだ」


「男女の関係ではないと?」


「・・・」


先日、彼女とあんな事があった身としては、『ない』とは言い切れない。


「ねえ、以前約束したわよね?

わたくしのお願いを1つだけ聴いてくれるって。

・・・結婚して」


「ジョアンナとか?」


「フフフッ、面白い冗談。

2度と聴きたくないけどね」


言葉とは裏腹に、物凄い目で睨まれる。


「・・本当は、もう少し経ってから言うつもりだったのに。

あなたの周りに群がる女が多過ぎて、先に言質だけでも取っておく事にしたわ。

当然、承諾してくれるわよね?」


「断る」


「!!!」


唇で殴るようにキスされる。

散々貪られ、息苦しくなって離された口から、再度尋ねられる。


「結婚して」


「嫌だ」


「!!!

・・何でよ?

約束したじゃない。

誰にも迷惑かけないでしょう!?」


「自分の妻になるという事は、後々人々に多大な影響力を持つ事に繋がる。

それに、君は自分の事が好きな訳ではないだろう?

自分はな、打算や損得で身を任せる女性を好まない。

・・前にも言ったはずだが」


「・・貴方、馬鹿なの?

それとも、以前わたくしがやった事の仕返しのつもり?」


和也の首に巻き付けた両腕の力を弱め、震えながら下を向いた彼女は、やがて物凄い声で怒鳴った。


「わたくしが、好きでもない男に、身体を見せる訳ないでしょう!?

夫に迎えるつもりがない男に、キスなんか絶対にしないわよ!」


余程腹に据えかねているのか、全身から魔力が溢れ出しそうになっている。

コンコン。

誰かが部屋のドアを叩く音がする。


「ヴィクトリア、何かあったのか?

物凄い怒鳴り声が聞こえたが・・」


彼女の身内らしい人物から、ドア越しに声がかかる。


「・・何でもないわ。

ちょっと仕事でいらいらしただけ。

御免なさい」


「それならいいが・・。

あまり根を詰めるなよ?」


男がドアから離れて行く足音がする。

それで少し気分が落ち着いたのか、声量を通常に戻した彼女が告げてくる。


「・・わたくしは、貴方の事が好きよ。

愛してる。

以前貴方を拒絶したのだって、別に嫌いだったからじゃない。

ただ少し時間が欲しかっただけなの。

その証拠に、ここで会うようになってから、1度たりとも貴方を拒絶した事ないでしょう?

あの本(『貴族女性の婚姻』)だって、貴方の為に読んだのよ?

・・わたくしが気が強くて意地っ張りなのは、これまでの付き合いから分かるでしょう?

中々素直に好きと言えないのよ。

貴方の言う打算は、確かにあるわ。

全くないと言ったら嘘になる。

でもそれはほんの僅かでしかないの。

貴方と結婚したいのは、他の誰より貴方が好きだから。

・・それだけは、信じてくれると嬉しいわ」


俯いた彼女が流す涙の雫が、分厚い絨毯の上に落ちて跳ね返る。

和也は彼女の告白を、何とも言えない表情で聴いていた。

友達感覚での付き合いだとばかり思っていたが、彼女がそこまで自分を好いていたとは。


『ジャッジメント』


失礼かとも考えたが、彼女の好意が予想外に大きくて、少し確かめたくなった。

自分と出会った時からの、彼女の心の動き、行いを、ざっと見て行く。


『あら、随分と若くていい男ね。

もっとごつごつした、むさ苦しい奴だとばかり思っていたのに』


『何こいつ。

王族を馬鹿にしてるのかしら。

一体わたくしをどんな女だと思ってるの?』


『どうしよう。

まさかお金や地位より、わたくしの身体を欲しがるなんて・・。

良い人なのは分かったし、容姿も好みではあるけど、まだ会ったばかりだし、もう少し、時間が欲しい。

でも、それでは妹達が・・』


『有難う。

本当に有難う。

早く会ってお礼が言いたい。

・・でも、どんな顔で会えばいいの?

わたくしの事、怒っていないといいけれど』


『恥ずかしい。

もう、何て時に現れるのよ!

わたくしの身体、何処も変じゃないわよね?

自分でも胸が大き過ぎるとは思うけど、・・気に入ってくれるかしら』


『貧しい子供達に本と教育を・・か。

オルレイアでは奪ったお金を全て市民達に返して・・ね。

本当に利益度外視なのね。

助けてくれた事も、純粋にわたくしの為だと自惚れてもいい?』


『え、何これ?

愛し合うって、こんな事までするの?

この本ちょっと過激過ぎない?

浮気されないため?

・・わたくしにできるかしら?』


『今度は孤児院で頑張る夫婦の為・・か。

なのにあんな約束を取り付けたわたくしは、狡い女なのかしら。

だって少し自信が無くなってきたのだもの。

わたくしの事、受け入れてくれるよね?

・・初めてのキスは、夢中だったけど、きっと一生忘れない』


『見られた。

よりによって、あんなページを。

咄嗟にキスで誤魔化したけど、きっと気付いたわよね?

・・そうよ、わたくしは貴方が好きなの。

4人いる奥さんはともかく、他の女に負けるつもりはないわ』


ここで、和也は見るのを止めた。

彼女の心を少しでも疑った己を深く恥じる。


「申し訳ない。

自分が愚かだったせいで、君に恥をかかせてしまった」


俯いていたヴィクトリアの顎に手を添え、上向かせる。

その拍子に、彼女の双眸に溜まっていた涙の雫が、頬を伝って流れ落ちる。

色彩の異なる両の眼が、縋るように和也を見る。

和也は彼女の唇に、ゆっくりと己のそれを重ねていった。



 「本当にすまなかった」


暫しの時を経て、落ち着いた彼女に再度詫びを入れる和也。


「・・もういいわ。

最後はちゃんと応えてくれたし」


「ただ、自分はまだ君に告げていない事がある。

それを抜きにして、君を娶ることはできない。

・・君に、多大な迷惑を被らせるかもしれないから」


真面目な表情でそう告げる和也を、調子を取り戻したヴィクトリアがからかう。


「なあに、何処かに莫大な借金でもあるの?

それとも、奥さんの1人1人に許可を取らないといけないとかかしら?」


「今日はこの後、何か大事な用があるか?」


「え?

・・別にないけど、もしかして、結構真面目なお話?」


「そうだな。

聴き終えた後、君の状態が心配なくらいには」


「・・ちょっと待っていてくれる?

今日は帰らないと、メイドに伝えておくわ」


そう告げて何処かに消えた彼女が戻ると、和也はヴィクトリアを、エリカ達の居る自分の家へと連れて行った。



 「お帰りなさい」


庭で鍛錬をしていたアリアが、転移してきた和也達に声をかける。


「お客さん?」


黒いバトルスーツ姿の自分を興味深げに眺めているヴィクトリアを見て、そう付け足す。


「ああ、彼女を知らないのか?」


「初めてお会いするわ。

ここへ連れてきたという事は、もしかして、新しい奥さんかな?」


冗談のように笑って言う彼女に、和也は淡々と告げる。


「よく分かったな。

・・もっとも、まだ大事な選択をさせていないが・・」


「ええ!

半分冗談だったのに・・」


アリアは改めてヴィクトリアを見る。

背が高く、胸も大きい。

そして、自分に欠けていると感じる気品がある。


「初めまして。

私、アリア。

和也さんの5番目の妻になる予定です」


ヴィクトリアの目の前に移動し、にこやかにそう挨拶する。


「初めまして。

ビストー王国第一王女、ヴィクトリアよ。

貴女の噂はよく聞いてるわ。

国一番の美人だって。

因みに、わたくしはその次だそうよ?」


ヴィクトリアも笑顔でそう告げる。


「ああ、そんな事言ってる人多いですね。

でも、どうでもいい人から言われても、正直、あまり嬉しくないです。

そう言って欲しいのは、たった1人だけだから」


「フフッ、そうよね」


「ええ、そうです。

これからは同じ仲間として、仲良くしてくれると嬉しいです」


「こちらこそ、同じ国の出身同士、仲良くやりましょう」


互いに握手する2人。

以前の言動から、ヴィクトリアには、アリアに対して含むところがあるのではと心配していた和也だが、どうやらそれは杞憂であったらしい。


「じゃあ、皆でお風呂に入りましょう」


アリアが唐突にそう言ってくる。


「何故そうなる?」


「だって、先ずは汗を流したいし、大事なお話をするなら、お風呂はお勧めですよ?」


「それを着ていれば、汗などかかないだろうが」


「気分の問題なの。

精一杯身体を動かした後は、ゆっくりお湯に浸かる。

貴方だって、お風呂、嫌いじゃないでしょう?」


「・・・」


「あ、もしかして、ヴィクトリアさん、まだなのかな?

だったら恥ずかしいですよね?」


アリアが彼女の方を向いて、そう尋ねる。


「いいえ、もう既に見られているし、何の問題もないわ」


「ふ~ん、この人、ちょっと煮え切らない所があるけど、変な所でついてるからね。

・・じゃあ、行こうか」


彼女の表情から何かを悟ったアリアは、少しほっとしたように、ヴィクトリアを案内する。

主役の1人であるはずの、和也の意思は、彼女達に考慮される事はなかった。



 魔力で服を瞬時に剥ぎ、直ぐ湯船へと向かった和也やアリアと異なり、ヴィクトリアは丁寧に服を脱ぎ、畳んでいく。

湯船で身体を伸ばした和也の頭に、エリカからの念話が届く。


『あなた、お風呂ですか?』


『ああ。

丁度良い。

大事な客が来ているから、お前も来い』


『あら、珍しいですね。

あなたがここにお連れになるなんて』


『新しく妻になるかもしれん相手だ』


『まあ、・・直ぐに向かいますね』


ヴィクトリアが、最後の1枚を脱ぎ終えた時、脱衣所にエリカが入って来る。


「え?」


エリカを初めて見て、それしか口にできずに固まる彼女。

その美しさに、まるで有り得ないものでも見たかのように、呆然と立ち尽くす。


「初めまして。

貴方が新しいお仲間の方ですね?

わたくし、エリカと申します」


そう告げると、やはり魔力で瞬時に全裸になった彼女は、ゆったりとした足取りで、浴室へと入って行く。

その扉を閉める音で我に返ったヴィクトリアは、自身も慌てて中に入る。

エリカを真似て、湯桶でかけ湯をし、大きな湯船の、和也と対面になる位置に腰を下ろす。

和也の両隣は、それぞれエリカとアリアが占めているからだ。


「先程は失礼致しました。

わたくし、ビストー王国第一王女、ヴィクトリアと申します」


エリカに向けて、湯の中で丁寧にお辞儀をする彼女。

一目見て、直ぐに和也の妻の1人だと察したようだ。


「ご丁寧に有難うございます。

ですが、もっと気楽になさってくださいな。

ここはお風呂、一切の柵を脱ぎ捨て、寛ぐ場所なのですから」


たおやかに微笑み、リングから出した手ぬぐいを、何も持っていない彼女に渡す。


「すみません」


受け取った手ぬぐいで、顔に浮かんだ汗を軽く拭いたヴィクトリアは、和也に向け、徐に口を開いた。


「大切な話とやらを聴かせてもらえる?」


姿勢を楽にした際、頭上で急いで束ねた長い銀髪から、ほんの一房、髪が零れる。


「自分の妻になりたいと言う者には、予めその素性を伝え、そこで改めて選択してもらっている。

・・自分は人ではない。

全ての世界を創造した神だ」


それだけ言って、ヴィクトリアの反応を見る。

聴いた瞬間、僅かに目を見開いた彼女だが、和也の両隣に侍る2人が平然としているので、そのまま次の言葉を待つ。


「自分の仲間、妻になるという事は、その者も人でなくなる事を意味する。

自分と共に永遠の時を彷徨い、仲良くなった者達と幾度となく別れを繰り返し、その孤独や悲しみを乗り越えなくてはならない。

たとえその力があっても、無暗に人の世界に干渉しない、強い自制心が必要になる。

・・そんな立場になってでも、君は自分の側に居たいと願うだろうか?」


ヴィクトリアが言うべき言葉をまとめている、その僅かな時間を埋めるように、湯船の底から湧き出し、常時少しずつ溢れ出る温泉が、御影石の床を静かに磨いていく。


「それが、貴方の側に居られる事と、釣り合うとはとても思えないわ。

だってそうでしょう?

大切な人達との別れは、何も寿命だけじゃない。

戦や病、他にも様々な理由で突然にやって来る。

その苦しみや悲しみを乗り越え、或いはそれを死ぬまで抱えて行く事は、限りある命の人にだってあるのよ?

無暗に力を使わない事だってそう。

大きな力ほど、その行使にはより大きな自制を伴う。

王族として、それは日々痛いほど感じている事よ。

程度の差は勿論あるのでしょうけれど、それくらいで貴方の妻になれるというなら、わたくしは喜んでなる。

だからお願い、お願いします。

わたくしを、貴方の妻に加えて」


淡々と、穏やかにそう告げる彼女からは、何の気負いも感じられない。

己の気持ちに無理をせず、その紡がれる言葉の信憑性を高めている。


「少し体験させてやろう」


和也は、自らの経験の内から、そのほんの1億年分を彼女の脳内に送り込む。

当然、その脳は一時的に保護してある。


「くっ、・・ううっ」


両拳を固く握り、少し身体を震わせながら、懸命に苦痛と闘う彼女。

その瞳から涙が溢れた所で、エリカが彼女を抱き締め、和也に向けて言葉を発する。


「もう良いではありませんか。

あなたは少し、心配し過ぎなのです。

こんな事をして試さなくても、あなたの妻達は、誰一人としてあなたから離れてゆきません」


エリカの言葉で力を止めた和也によって、激しい疲労から解放され、大きく息をするヴィクトリア。


「あなたは最近贅沢ですよ?

この世界に降りて来た時の事を考えてみてください。

誰かと言葉を交わしたくて、1人でいいから自分を愛して欲しくて、降りてこられたのでしょう?

それを何ですか!

あなたを愛して、ずっと側に居てくれるとまで言ってくれる方に、こんな仕打ちをするなんて」


エリカが口を僅かに尖らせて、不満を訴えてくる。


「いや、だって、後になってから、やっぱり無理とか言われて、さよならされたら悲しいだろう?

だから・・」


「そんな事は有り得ないと言っております」


「何故そう言える?」


「わたくしの勘です!」


「・・・」


「何ですか?

何か文句でもお有りなのですか?」


「・・いえ、無いです」


有ると言ったら、暫く口を利いてあげませんとばかりの彼女の態度に、それ以上の反論ができない和也。

自分だって本当は、ヴィクトリアが傍に居るなら嬉しい。

ただ、中々ネガティブな思考が抜けきらないだけなのだ。


「すまなかったな、ヴィクトリア。

これはそのお詫びと約束の印だ」


和也が湯から右手を出し、その掌にリングを生じさせ、そしてそれを、彼女の左の薬指にはめる。


「今は何の模様もないが、時が来ればリングの素材と模様が変化する。

これからの果てなき時間、よろしくな」


エリカが彼の態度に納得して、その抱擁を解いたヴィクトリアに向け、怖ず怖ずと笑いかける。


「・・有難う」


目から涙を一筋流した彼女は、とても嬉しそうに、それしか言わなかった。



 その後、暫くゆったりとした時を過ごして風呂から出る。

女性陣は和也を1人湯船に残し、3人で互いの背を流しながら、おしゃべりに興じていた。

エリカがアリアに何か耳打ちしていたが、元気を取り戻したヴィクトリアの方を見ていて、和也はそれに気付かない。

この家のキッチン設備に驚くヴィクトリアを囲んで、皆で食事を取りながら、更に談笑する。

会話の9割は女性陣だ。

途中でアリアが少し席を外す。

ヴィクトリアに己の事を聴かれていた最中の和也は、それを気に留めない。

やがて食事が済むと、エリカが今日はヴィクトリアと2人だけで寝たいと言い出した。

そしてアリアが、和也の耳元で囁く。


「エリカさんの絵、完成したの。

貴方にあげるから、願い事を聴いてくれる?」


「そうか!

何がいいんだ?」


「えっと・・」


言い淀む彼女に代わって、エリカが念話で告げてくる。


『あなた、順番はちゃんと守ってあげてくださいね。

いつまでもアリアさんを放っておいては駄目ですよ?』


アリアの顔を見る和也に、彼女は告げる。


「お部屋の掃除はちゃんとしてあるから・・」


自分の袖を抓んでそう告げる彼女に、和也は苦笑して呟いた。


「それは約束した願い事とは別だ。

今まで待たせて悪かった」


下を向いて照れるアリアを連れて、彼女の部屋に行く和也。

それを見送った2人は、連れだってエリカの部屋に行く。


「あの2人、まだだったのですか?」


「ええ。

旦那様は、一旦始めると逞しいのですが、普段は少しヘタレなのです」


「ヘタレ?」


「フフフッ、異世界用語で『軟弱者』くらいの意味でしょうか。

とにかく、可愛らしいくらい、純情なのです」


「・・彼がですか?」


「ええ。

きっと貴女も、彼に抱かれたら分かります。

でも今日は、それはアリアさんにお譲りして、わたくしと沢山お話致しましょうね。

内緒ですけど、この星は、旦那様がわたくしにプレゼントしてくれた星ですから、色々教えてください」


「え!?

それ本当ですか?」


国どころか星を丸ごと?

つまりビストー王国も?


「はい。

ですがご安心ください。

わたくしは、何も干渉するつもりはありません。

ただ日々を楽しく、ごろごろして過ごしたいだけなのです。

旦那様の隣で・・」


「・・他の妻の方々も皆そうなのですか?」


「詳しいお話はお部屋で。

・・今夜は寝かせませんよ、フフフッ」


次の日、揃って朝寝坊する4人であった。


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