アリア編、その28
「お待ちしてました。
・・これを」
ギルドに顔を見せた和也を待ち構えていたように、馴染みの受付嬢が手招きしてくる。
寄って行くと、笑顔の絶えない彼女には珍しく、少し緊張しながらメモを渡される。
『一刻も早く、わたくしの下に顔を見せなさい』
名前は書かれていないが、見覚えのある花押が描かれている。
「どなたかお分かりですね?」
受付嬢に確認される。
「ああ」
「オリビア様といい、貴方は随分と凄い人脈をお持ちなのですね。
アリア効果なのでしょうか。
彼女、大事にしてあげてくださいね?」
「勿論だ」
それだけ言うと、和也は直ぐにヴィクトリアの下に向かうのだった。
「自分に何か用か?」
王宮にある彼女の部屋に行くと、きちんと服を着た彼女が真面目な顔で書類仕事をしている。
ここの所、夜しか訪れていなかったせいか、風呂上がりの彼女ばかりだったので、何だか新鮮に思える。
「貴方、オレア侯爵の孫娘と仲良いの?」
いきなり現れた和也に驚く風でもなく、書類から目を上げて、そう尋ねてくる。
「顔見知り程度だと思うが」
質問の意図が分からず、とりあえずそう答える。
「先日、侯爵が孫の1人を連れて、父に挨拶に来たの。
どうやら晴れて後継ぎが決まった事を伝えに来たみたいね。
あそこは、ミレニー以外はろくな奴がいなかったけど、慣習や何かで女性が家督を継ぐのが難しかった。
だけど、当主の課した試練を無事果たしたとかで、やっと彼女に継がせる事ができて、侯爵、とても喜んでいたわ。
因みに、残りの3人の孫達は、試練を果たせず戦死ですって。
その父親も、領地の最果ての村で静かに余生を送るそうよ」
自分の眼を見つめ、淡々とそう告げてくるが、何故そんな事を言ってくるのか未だに理解できない。
「わざわざ人を呼び出して、伝えたい事はそれなのか?」
少し呆れてそう言った和也に、ヴィクトリアは溜息をつく。
そして、徐に椅子から立ち上がると、ゆっくりとこちらに近づいて来て、その両腕を和也の首に巻き付ける。
至近距離から和也の眼を覗き込み、言葉を紡ぐ。
「ミレニーはね、わたくしの友達なの。
父への挨拶の後、彼女と2人で話をしたら、何故か黒服の少年の話が出てきてね、・・色々、お世話になったそうよ。
結婚を迫って断られたと笑ってたわ」
「そんな事もあったな」
楽しそうに微笑むヴィクトリアに、それだけを口にする。
「他にも面白い事言ってたわよ?
あなた、ヘリ―家に梃入れしてるそうね。
ろくに税収もなかった寒村を、金貨が飛び交うような場所にしたって。
良く調べさせたら、その家出身のメイドにご執心らしいとか」
「彼女は有能で、忠義に厚く、信頼に足る人物だ。
だから重用した。
確かに容姿も綺麗だが、それ以上に心が美しいのだ」
「男女の関係ではないと?」
「・・・」
先日、彼女とあんな事があった身としては、『ない』とは言い切れない。
「ねえ、以前約束したわよね?
わたくしのお願いを1つだけ聴いてくれるって。
・・・結婚して」
「ジョアンナとか?」
「フフフッ、面白い冗談。
2度と聴きたくないけどね」
言葉とは裏腹に、物凄い目で睨まれる。
「・・本当は、もう少し経ってから言うつもりだったのに。
あなたの周りに群がる女が多過ぎて、先に言質だけでも取っておく事にしたわ。
当然、承諾してくれるわよね?」
「断る」
「!!!」
唇で殴るようにキスされる。
散々貪られ、息苦しくなって離された口から、再度尋ねられる。
「結婚して」
「嫌だ」
「!!!
・・何でよ?
約束したじゃない。
誰にも迷惑かけないでしょう!?」
「自分の妻になるという事は、後々人々に多大な影響力を持つ事に繋がる。
それに、君は自分の事が好きな訳ではないだろう?
自分はな、打算や損得で身を任せる女性を好まない。
・・前にも言ったはずだが」
「・・貴方、馬鹿なの?
それとも、以前わたくしがやった事の仕返しのつもり?」
和也の首に巻き付けた両腕の力を弱め、震えながら下を向いた彼女は、やがて物凄い声で怒鳴った。
「わたくしが、好きでもない男に、身体を見せる訳ないでしょう!?
夫に迎えるつもりがない男に、キスなんか絶対にしないわよ!」
余程腹に据えかねているのか、全身から魔力が溢れ出しそうになっている。
コンコン。
誰かが部屋のドアを叩く音がする。
「ヴィクトリア、何かあったのか?
物凄い怒鳴り声が聞こえたが・・」
彼女の身内らしい人物から、ドア越しに声がかかる。
「・・何でもないわ。
ちょっと仕事でいらいらしただけ。
御免なさい」
「それならいいが・・。
あまり根を詰めるなよ?」
男がドアから離れて行く足音がする。
それで少し気分が落ち着いたのか、声量を通常に戻した彼女が告げてくる。
「・・わたくしは、貴方の事が好きよ。
愛してる。
以前貴方を拒絶したのだって、別に嫌いだったからじゃない。
ただ少し時間が欲しかっただけなの。
その証拠に、ここで会うようになってから、1度たりとも貴方を拒絶した事ないでしょう?
あの本(『貴族女性の婚姻』)だって、貴方の為に読んだのよ?
・・わたくしが気が強くて意地っ張りなのは、これまでの付き合いから分かるでしょう?
中々素直に好きと言えないのよ。
貴方の言う打算は、確かにあるわ。
全くないと言ったら嘘になる。
でもそれはほんの僅かでしかないの。
貴方と結婚したいのは、他の誰より貴方が好きだから。
・・それだけは、信じてくれると嬉しいわ」
俯いた彼女が流す涙の雫が、分厚い絨毯の上に落ちて跳ね返る。
和也は彼女の告白を、何とも言えない表情で聴いていた。
友達感覚での付き合いだとばかり思っていたが、彼女がそこまで自分を好いていたとは。
『ジャッジメント』
失礼かとも考えたが、彼女の好意が予想外に大きくて、少し確かめたくなった。
自分と出会った時からの、彼女の心の動き、行いを、ざっと見て行く。
『あら、随分と若くていい男ね。
もっとごつごつした、むさ苦しい奴だとばかり思っていたのに』
『何こいつ。
王族を馬鹿にしてるのかしら。
一体わたくしをどんな女だと思ってるの?』
『どうしよう。
まさかお金や地位より、わたくしの身体を欲しがるなんて・・。
良い人なのは分かったし、容姿も好みではあるけど、まだ会ったばかりだし、もう少し、時間が欲しい。
でも、それでは妹達が・・』
『有難う。
本当に有難う。
早く会ってお礼が言いたい。
・・でも、どんな顔で会えばいいの?
わたくしの事、怒っていないといいけれど』
『恥ずかしい。
もう、何て時に現れるのよ!
わたくしの身体、何処も変じゃないわよね?
自分でも胸が大き過ぎるとは思うけど、・・気に入ってくれるかしら』
『貧しい子供達に本と教育を・・か。
オルレイアでは奪ったお金を全て市民達に返して・・ね。
本当に利益度外視なのね。
助けてくれた事も、純粋にわたくしの為だと自惚れてもいい?』
『え、何これ?
愛し合うって、こんな事までするの?
この本ちょっと過激過ぎない?
浮気されないため?
・・わたくしにできるかしら?』
『今度は孤児院で頑張る夫婦の為・・か。
なのにあんな約束を取り付けたわたくしは、狡い女なのかしら。
だって少し自信が無くなってきたのだもの。
わたくしの事、受け入れてくれるよね?
・・初めてのキスは、夢中だったけど、きっと一生忘れない』
『見られた。
よりによって、あんなページを。
咄嗟にキスで誤魔化したけど、きっと気付いたわよね?
・・そうよ、わたくしは貴方が好きなの。
4人いる奥さんはともかく、他の女に負けるつもりはないわ』
ここで、和也は見るのを止めた。
彼女の心を少しでも疑った己を深く恥じる。
「申し訳ない。
自分が愚かだったせいで、君に恥をかかせてしまった」
俯いていたヴィクトリアの顎に手を添え、上向かせる。
その拍子に、彼女の双眸に溜まっていた涙の雫が、頬を伝って流れ落ちる。
色彩の異なる両の眼が、縋るように和也を見る。
和也は彼女の唇に、ゆっくりと己のそれを重ねていった。
「本当にすまなかった」
暫しの時を経て、落ち着いた彼女に再度詫びを入れる和也。
「・・もういいわ。
最後はちゃんと応えてくれたし」
「ただ、自分はまだ君に告げていない事がある。
それを抜きにして、君を娶ることはできない。
・・君に、多大な迷惑を被らせるかもしれないから」
真面目な表情でそう告げる和也を、調子を取り戻したヴィクトリアがからかう。
「なあに、何処かに莫大な借金でもあるの?
それとも、奥さんの1人1人に許可を取らないといけないとかかしら?」
「今日はこの後、何か大事な用があるか?」
「え?
・・別にないけど、もしかして、結構真面目なお話?」
「そうだな。
聴き終えた後、君の状態が心配なくらいには」
「・・ちょっと待っていてくれる?
今日は帰らないと、メイドに伝えておくわ」
そう告げて何処かに消えた彼女が戻ると、和也はヴィクトリアを、エリカ達の居る自分の家へと連れて行った。
「お帰りなさい」
庭で鍛錬をしていたアリアが、転移してきた和也達に声をかける。
「お客さん?」
黒いバトルスーツ姿の自分を興味深げに眺めているヴィクトリアを見て、そう付け足す。
「ああ、彼女を知らないのか?」
「初めてお会いするわ。
ここへ連れてきたという事は、もしかして、新しい奥さんかな?」
冗談のように笑って言う彼女に、和也は淡々と告げる。
「よく分かったな。
・・もっとも、まだ大事な選択をさせていないが・・」
「ええ!
半分冗談だったのに・・」
アリアは改めてヴィクトリアを見る。
背が高く、胸も大きい。
そして、自分に欠けていると感じる気品がある。
「初めまして。
私、アリア。
和也さんの5番目の妻になる予定です」
ヴィクトリアの目の前に移動し、にこやかにそう挨拶する。
「初めまして。
ビストー王国第一王女、ヴィクトリアよ。
貴女の噂はよく聞いてるわ。
国一番の美人だって。
因みに、わたくしはその次だそうよ?」
ヴィクトリアも笑顔でそう告げる。
「ああ、そんな事言ってる人多いですね。
でも、どうでもいい人から言われても、正直、あまり嬉しくないです。
そう言って欲しいのは、たった1人だけだから」
「フフッ、そうよね」
「ええ、そうです。
これからは同じ仲間として、仲良くしてくれると嬉しいです」
「こちらこそ、同じ国の出身同士、仲良くやりましょう」
互いに握手する2人。
以前の言動から、ヴィクトリアには、アリアに対して含むところがあるのではと心配していた和也だが、どうやらそれは杞憂であったらしい。
「じゃあ、皆でお風呂に入りましょう」
アリアが唐突にそう言ってくる。
「何故そうなる?」
「だって、先ずは汗を流したいし、大事なお話をするなら、お風呂はお勧めですよ?」
「それを着ていれば、汗などかかないだろうが」
「気分の問題なの。
精一杯身体を動かした後は、ゆっくりお湯に浸かる。
貴方だって、お風呂、嫌いじゃないでしょう?」
「・・・」
「あ、もしかして、ヴィクトリアさん、まだなのかな?
だったら恥ずかしいですよね?」
アリアが彼女の方を向いて、そう尋ねる。
「いいえ、もう既に見られているし、何の問題もないわ」
「ふ~ん、この人、ちょっと煮え切らない所があるけど、変な所でついてるからね。
・・じゃあ、行こうか」
彼女の表情から何かを悟ったアリアは、少しほっとしたように、ヴィクトリアを案内する。
主役の1人であるはずの、和也の意思は、彼女達に考慮される事はなかった。
魔力で服を瞬時に剥ぎ、直ぐ湯船へと向かった和也やアリアと異なり、ヴィクトリアは丁寧に服を脱ぎ、畳んでいく。
湯船で身体を伸ばした和也の頭に、エリカからの念話が届く。
『あなた、お風呂ですか?』
『ああ。
丁度良い。
大事な客が来ているから、お前も来い』
『あら、珍しいですね。
あなたがここにお連れになるなんて』
『新しく妻になるかもしれん相手だ』
『まあ、・・直ぐに向かいますね』
ヴィクトリアが、最後の1枚を脱ぎ終えた時、脱衣所にエリカが入って来る。
「え?」
エリカを初めて見て、それしか口にできずに固まる彼女。
その美しさに、まるで有り得ないものでも見たかのように、呆然と立ち尽くす。
「初めまして。
貴方が新しいお仲間の方ですね?
わたくし、エリカと申します」
そう告げると、やはり魔力で瞬時に全裸になった彼女は、ゆったりとした足取りで、浴室へと入って行く。
その扉を閉める音で我に返ったヴィクトリアは、自身も慌てて中に入る。
エリカを真似て、湯桶でかけ湯をし、大きな湯船の、和也と対面になる位置に腰を下ろす。
和也の両隣は、それぞれエリカとアリアが占めているからだ。
「先程は失礼致しました。
わたくし、ビストー王国第一王女、ヴィクトリアと申します」
エリカに向けて、湯の中で丁寧にお辞儀をする彼女。
一目見て、直ぐに和也の妻の1人だと察したようだ。
「ご丁寧に有難うございます。
ですが、もっと気楽になさってくださいな。
ここはお風呂、一切の柵を脱ぎ捨て、寛ぐ場所なのですから」
たおやかに微笑み、リングから出した手ぬぐいを、何も持っていない彼女に渡す。
「すみません」
受け取った手ぬぐいで、顔に浮かんだ汗を軽く拭いたヴィクトリアは、和也に向け、徐に口を開いた。
「大切な話とやらを聴かせてもらえる?」
姿勢を楽にした際、頭上で急いで束ねた長い銀髪から、ほんの一房、髪が零れる。
「自分の妻になりたいと言う者には、予めその素性を伝え、そこで改めて選択してもらっている。
・・自分は人ではない。
全ての世界を創造した神だ」
それだけ言って、ヴィクトリアの反応を見る。
聴いた瞬間、僅かに目を見開いた彼女だが、和也の両隣に侍る2人が平然としているので、そのまま次の言葉を待つ。
「自分の仲間、妻になるという事は、その者も人でなくなる事を意味する。
自分と共に永遠の時を彷徨い、仲良くなった者達と幾度となく別れを繰り返し、その孤独や悲しみを乗り越えなくてはならない。
たとえその力があっても、無暗に人の世界に干渉しない、強い自制心が必要になる。
・・そんな立場になってでも、君は自分の側に居たいと願うだろうか?」
ヴィクトリアが言うべき言葉をまとめている、その僅かな時間を埋めるように、湯船の底から湧き出し、常時少しずつ溢れ出る温泉が、御影石の床を静かに磨いていく。
「それが、貴方の側に居られる事と、釣り合うとはとても思えないわ。
だってそうでしょう?
大切な人達との別れは、何も寿命だけじゃない。
戦や病、他にも様々な理由で突然にやって来る。
その苦しみや悲しみを乗り越え、或いはそれを死ぬまで抱えて行く事は、限りある命の人にだってあるのよ?
無暗に力を使わない事だってそう。
大きな力ほど、その行使にはより大きな自制を伴う。
王族として、それは日々痛いほど感じている事よ。
程度の差は勿論あるのでしょうけれど、それくらいで貴方の妻になれるというなら、わたくしは喜んでなる。
だからお願い、お願いします。
わたくしを、貴方の妻に加えて」
淡々と、穏やかにそう告げる彼女からは、何の気負いも感じられない。
己の気持ちに無理をせず、その紡がれる言葉の信憑性を高めている。
「少し体験させてやろう」
和也は、自らの経験の内から、そのほんの1億年分を彼女の脳内に送り込む。
当然、その脳は一時的に保護してある。
「くっ、・・ううっ」
両拳を固く握り、少し身体を震わせながら、懸命に苦痛と闘う彼女。
その瞳から涙が溢れた所で、エリカが彼女を抱き締め、和也に向けて言葉を発する。
「もう良いではありませんか。
あなたは少し、心配し過ぎなのです。
こんな事をして試さなくても、あなたの妻達は、誰一人としてあなたから離れてゆきません」
エリカの言葉で力を止めた和也によって、激しい疲労から解放され、大きく息をするヴィクトリア。
「あなたは最近贅沢ですよ?
この世界に降りて来た時の事を考えてみてください。
誰かと言葉を交わしたくて、1人でいいから自分を愛して欲しくて、降りてこられたのでしょう?
それを何ですか!
あなたを愛して、ずっと側に居てくれるとまで言ってくれる方に、こんな仕打ちをするなんて」
エリカが口を僅かに尖らせて、不満を訴えてくる。
「いや、だって、後になってから、やっぱり無理とか言われて、さよならされたら悲しいだろう?
だから・・」
「そんな事は有り得ないと言っております」
「何故そう言える?」
「わたくしの勘です!」
「・・・」
「何ですか?
何か文句でもお有りなのですか?」
「・・いえ、無いです」
有ると言ったら、暫く口を利いてあげませんとばかりの彼女の態度に、それ以上の反論ができない和也。
自分だって本当は、ヴィクトリアが傍に居るなら嬉しい。
ただ、中々ネガティブな思考が抜けきらないだけなのだ。
「すまなかったな、ヴィクトリア。
これはそのお詫びと約束の印だ」
和也が湯から右手を出し、その掌にリングを生じさせ、そしてそれを、彼女の左の薬指にはめる。
「今は何の模様もないが、時が来ればリングの素材と模様が変化する。
これからの果てなき時間、よろしくな」
エリカが彼の態度に納得して、その抱擁を解いたヴィクトリアに向け、怖ず怖ずと笑いかける。
「・・有難う」
目から涙を一筋流した彼女は、とても嬉しそうに、それしか言わなかった。
その後、暫くゆったりとした時を過ごして風呂から出る。
女性陣は和也を1人湯船に残し、3人で互いの背を流しながら、おしゃべりに興じていた。
エリカがアリアに何か耳打ちしていたが、元気を取り戻したヴィクトリアの方を見ていて、和也はそれに気付かない。
この家のキッチン設備に驚くヴィクトリアを囲んで、皆で食事を取りながら、更に談笑する。
会話の9割は女性陣だ。
途中でアリアが少し席を外す。
ヴィクトリアに己の事を聴かれていた最中の和也は、それを気に留めない。
やがて食事が済むと、エリカが今日はヴィクトリアと2人だけで寝たいと言い出した。
そしてアリアが、和也の耳元で囁く。
「エリカさんの絵、完成したの。
貴方にあげるから、願い事を聴いてくれる?」
「そうか!
何がいいんだ?」
「えっと・・」
言い淀む彼女に代わって、エリカが念話で告げてくる。
『あなた、順番はちゃんと守ってあげてくださいね。
いつまでもアリアさんを放っておいては駄目ですよ?』
アリアの顔を見る和也に、彼女は告げる。
「お部屋の掃除はちゃんとしてあるから・・」
自分の袖を抓んでそう告げる彼女に、和也は苦笑して呟いた。
「それは約束した願い事とは別だ。
今まで待たせて悪かった」
下を向いて照れるアリアを連れて、彼女の部屋に行く和也。
それを見送った2人は、連れだってエリカの部屋に行く。
「あの2人、まだだったのですか?」
「ええ。
旦那様は、一旦始めると逞しいのですが、普段は少しヘタレなのです」
「ヘタレ?」
「フフフッ、異世界用語で『軟弱者』くらいの意味でしょうか。
とにかく、可愛らしいくらい、純情なのです」
「・・彼がですか?」
「ええ。
きっと貴女も、彼に抱かれたら分かります。
でも今日は、それはアリアさんにお譲りして、わたくしと沢山お話致しましょうね。
内緒ですけど、この星は、旦那様がわたくしにプレゼントしてくれた星ですから、色々教えてください」
「え!?
それ本当ですか?」
国どころか星を丸ごと?
つまりビストー王国も?
「はい。
ですがご安心ください。
わたくしは、何も干渉するつもりはありません。
ただ日々を楽しく、ごろごろして過ごしたいだけなのです。
旦那様の隣で・・」
「・・他の妻の方々も皆そうなのですか?」
「詳しいお話はお部屋で。
・・今夜は寝かせませんよ、フフフッ」
次の日、揃って朝寝坊する4人であった。