アリア編、その24
「ふう、やっと着いた。
結構遠かったわね」
「ああ。
馬車を使わなかったとはいえ、キンダルから約4日の道のり、丁度いい肩慣らしになったんじゃないか?」
3度の野宿を経て、ゆっくり歩いて来たが、途中途中で下級の魔物に数度襲われ、妻も多少は実戦での感を取り戻したであろう。
辿り着いた先は、この辺りの村とは思えない程、活気があった。
家々は何か所も修繕中で、特に宿屋はかなり大規模に改修されていた。
驚いた事に、男女別の大きな浴場まである。
辺境の村ではまず見られない光景に、私と妻は大いに喜んだ。
「すみません、これをお願いします」
宿屋の主人に、例の彼から頂いた書類を提示する。
「いらっしゃいませ。
・・ああ、御剣様のご招待ですね。
お聴き致しております。
奥様とお二人で3か月間のご滞在、お部屋は1部屋でよろしいですね?」
「はい」
「御剣様よりご伝言をお預かり致しております。
『滞在中は、宿で何をしてもその費用は全て自分が払うので、遠慮なく訓練に励むといい。
3か月経ち、もし訓練の継続を希望する場合は、こちらが課す試験に合格すれば認める』、以上です」
「凄い待遇。
あなた、余程気に入られたみたいね」
「この宿のご説明を致します。
食事は1日3食、専用の食堂で食べられます。
時間帯はお部屋にある当宿屋の施設利用時間を参考になさってください。
ご入浴には専用の湯をご利用いただけます。
ただ、こちらは村人も使用しますので、ご了承ください。
洗い物は、専用の袋に入れて、その都度出してください。
翌日に洗った物をお返し致します。
以上ですが、何かご質問はありますか?」
「洗濯までしていただけるのですか!?」
「はい。
御剣様が宿泊者にはそうしろと言われましたので。
幸い、すぐ隣に温泉がありますので、寒い日でもすぐ洗えますから」
「御剣さんは、この村の領主様なんですか?」
「いえ、ご領主様のご息女の雇い主です」
「随分この村に影響力があるようですが・・」
「それはまあ。
あの方のご援助あっての、今のこの村ですから」
都会の宿でも珍しい、外からも鍵をかけられる部屋鍵を受け取り、指定された部屋に入る。
中に入ってまたびっくり。
通常の部屋の倍の広さに、大き目のベットが2つ、テーブルセット、クローゼット、そして地下迷宮で見たトイレが設置されている。
後で聴いた話では、これらの設備は御剣さんから宿が格安で買い受け、その料金を宿代で相殺しているのだそうだ。
この部屋は3つある特別室の1つで、普通に泊まれば1泊銀貨10枚するのだそうだ。
つまり、3か月で金貨9枚かかる。
それだけ食事も良いという事だろう。
妻と2人、待ち受ける訓練に気を引き締めながら、先ずは旅の疲れと汚れを落としに風呂に入る。
温泉というものに入るのは初めてであったが、病み付きになりそうなくらい気持ちいい。
それに、洗い場に置いてあるシャンプーというものは、とても頭がすっきりする。
これも御剣さんから村が購入しているそうだが、もし同じ物を町で売れば、相当な利益になるだろう。
温泉施設の横に、そのお湯を利用した洗い場が設けてあるので、そこで旅の間の汚れ物を洗う。
心身共にさっぱりした後は、今回の旅の目的であるダンジョンへと向かう。
村に隣接した森を進むと程無く見えてくる入り口。
その正面に立ち、書面で指示された通りに扉に手を添える。
すると、扉の上にあるランプが青く輝き、その下にあるパネルに文字が表示される。
『ダンジョンB』
ゴゴゴゴッ。
扉が開き、奥へと通じる道が現れた。
「初めてのお客さんが来た」
ルビーとメイが午前の訓練(専らルビーがメイに稽古をつけてやる)を終え、お茶を飲んでいた所に、侵入者を知らせるアラームが鳴り響く。
2人の傍らで蹲っていたゴーレムがむくりと起き上がり、館内の転移魔法陣まで移動していく。
「慌てなくても大丈夫。
Bだから、訓練生の相手よ。
収入にはならないけど、メイには丁度いい練習相手だから、しっかりね。
頑張れば、ご主人様がまたパンをくれるわよ」
「本当!?
メイ頑張る。
レム君もしっかりね」
既に魔法陣の側で待機していたゴーレムに、声をかけるメイ。
ゴーレムが頷く。
和也がここでルビー達に課した、主な仕事は次の2つ。
ダンジョンAの相手には、真面目に戦い、勝利を収めて利益を得る事。
ここに入るには、そのパーティーの所持金が最低でも金貨1枚以上なくてはならず、それ以下だと入り口の扉が開かない。
規定以上所持していると、支払う金貨の枚数が選択できる。
1、2、3、4枚の何れかで、それぞれが、中で戦える回数を表している。
闘える相手はランダムなので、1枚だと、ルビーに当たった時は、ほぼ何もできずに終わる。
2枚なら、運が良ければメイとゴーレムが相手で、もしかしたら勝って、その分の報酬が得られるかもしれない(メイ金貨1枚、ゴーレム金貨3枚)。
3枚の時は必ず何処かでルビーと当たり、負けるので(もっとも、彼女が和也の眷族だとは知らされないので、普通のサキュバスだと思って、勝てると考える者もいるだろうが)、彼女にどうしても会いたいと願う者以外は選択しないだろう。
では、4枚支払った場合はどうなるか。
これがある意味ここの目玉の1つで、そのパーティーが心の中で最も戦ってみたいと願う、実存する魔獣や魔物を、和也に召喚してもらえる。
上位竜や海竜、クラーケン(水辺の魔獣は、当然その生息地の水と共に召喚されるので、小さな海や湖を伴う)、コカトリス、ミノタウロスや、通常の攻撃では倒せないアンデッド類等だ(召喚される魔物の大きさにより、その都度ダンジョン内の広さが変化する)。
あくまで魔獣や魔物で、人や亜人、魔人の類は、たとえ願ったとしても認められない。
また、和也が魔獣界に保護した存在も対象外だ。
滅多に出会えない魔獣や、これから討伐に向かう予定の魔物と事前に闘えることで、その対策や怖さを知ることができる上、仮に致命傷となる攻撃を受けても、仮想ゲージが消滅し、ダンジョンから強制的に出されるだけで、お互い傷一つ負うことがない。
人や魔物双方に、無暗な殺し合いをさせないための、和也なりの策でもある(魔物も、勝てないと予め分かっている相手なら、逃げることもあるだろうから)。
召喚され、無理やり戦わされた魔物には、元の場所に返される際、その身体の悪い所を治癒されたり、和也が各地で安く仕入れた、消費期限当日の食材の中から、好みの物を3食分相当与えられる。
1度召喚されたら、ストレス緩和のため、最低でも1週間は再召喚されない。
さらに、もう2度と戦いたくないと願う魔物には、場合によっては、魔獣界への道も、選択肢に加えられる。
4枚払った場合には、召喚された魔物が最初の相手として固定されるので、必ず目当ての魔物や魔獣と戦える。
ダンジョンA及びBに、1度に入れる人数は4人まで。
途中でリタイアすることも可能だが、その場合は、たとえ倒した相手がいても、賞金は全て没収される。
ただし、金貨4枚払った際には、途中リタイアでも、パーティーの装備が全て新品同様に修復されるおまけが付く(つまり、ボロボロの装備で入れば、出る時にはピカピカになっているということだ)。
1つのパーティーが入っている間は、その戦闘が全て済むまで、別のパーティーは入れない。
その際は整理券が発行されるので、後から来た者達に順番を抜かされる心配はない。
当初はパーティーの武器も取り上げようと思ったが、犯罪者ではないので、それは止めにした。
ダンジョンBでは、志願者の育成が仕事になる。
ここは和也が認めた者しか入れない。
将来その国の平和に貢献する者、大切な人を守って行く力を欲する者、自分を磨き、純粋に己を高めたい者。
そういった者に、戦闘訓練を施してやり、ついでに、メイやゴーレムに経験や技能を積ませる事が目的となる。
志願者に費用はかからないが、1日1回、4時間までしか入れず、メイ達が出払っている時は、戻るまで、和也が用意した訓練メニューを消化しなくてはならない。
その技量が一定以上に達すると、金貨2枚と免許皆伝の書状が出て、特殊な例外を除き、2度と志願者としては入れなくなる。
ここでは魔力に関係なく魔法が使え、身体に負荷は残るが訓練中は疲労を感じないので、自身の肉体と精神を極限まで酷使することができる。
その分、志願者はダンジョンを出た後はへとへとになり、温泉と食事と睡眠で、ほぼ1日が終わるのだ。
ルビー達には、こうした仕事をこなす代わりに、ここに来る当初に和也と約束したものに加え、業績に応じてボーナスが支給される。
ルビーには、和也と2人きりの時間。
メイにはアンリのパンと、希望する基礎能力の上昇か金貨。
ゴーレムには、失われた主人達との思い出の品々が、当時の映像付きで復元される。
メイ達が持ち場に着くと、早速2人連れがやって来る。
「いらっしゃい。
あなた達が記念すべき最初のお客さん。
訓練内容は、事前にご主人様から知らされているわよね?」
訓練の最初なので、ルビーが代表して彼らに話しかける。
「はい。
3か月間、ここで基礎訓練と戦闘技術を学ばせてもらえる事になっています。
模擬戦中心で、訓練中は魔法が使い放題、身体に負荷を掛け続けながら、疲労は感じない。
たとえ魔法や攻撃を受けても、お互いの身体に傷一つ付かない。
そう知らされております」
「結構です。
では、訓練方針を説明します。
あなた達2人で、これから毎日、この2人と戦ってもらいます。
私は当面は様子見。
あなた達が戦うに値すると判断すれば、その時点から模擬戦に参加します。
頭上に映る仮想ゲージは、あなた達1人1人の生命力。
傷以上になる攻撃を受ける度に減って行き、それがゼロになれば、死亡扱いとして、邪魔にならない後方で型の素振りや筋トレを繰り返してゲージを満タンにしない限り、その日は再度模擬戦に参加できません。
それを良しとして訓練をサボるか、己の未熟を少しでも埋めようと、必死に努力するか、全ては、あなた達次第。
ご主人様に認められたあなた達ですから、私達の時間を無駄にはしないと信じています。
では、早速始めましょう。
装備の差が結果に影響しないよう、ここで使用できる武器は、鉄製の物のみです。
決して折れたり欠けたりはしませんから、その点はご安心を」
彼らの、長くて短い3か月が始まった。
「それは確かですか?」
ミレニーが受付の女性に確認する。
「はい、間違いありません。
ガルベイルの鱗を持って来たのは、アリアを助手として使う、黒服の少年です」
しまった。
やはり最初にギルドで確かめるべきだった。
サリンガ(親が治める町の名)からの移動途中で、丁度良い迷宮への入り口を見つけたので、馬車から降りて腕試しをしていたのが裏目に出た。
もっとも、そのお陰で、あの素晴らしいトイレを手に入れられたのだから、悪い事ばかりではない。
4階層になってからは、流石に魔物の質が高くなり、4人だけでは辛くなったので、あの後早々に探索を切り上げたが、帰り道では3階層で中々上への道が見つからず、予定より1日遅れてキンダルに着いた。
その後、高級宿で旅の疲れと汚れを落とし、このギルドに情報収集にやって来たのだが、お目当ての彼は最近ギルドに顔を見せていないという。
強いとは感じていたが、まさかあんな少年がガルベイルの鱗を持って来れたとは思いもしなかった。
本来なら、こんな所まで来なくても、情報収集くらい訳ないのだが、この件に関してだけは無理だった。
どうも王家が情報統制しているようなのだ。
表立っては何もしていない風を装いながら、この件の情報だけは、記録を抹消し、関係者に口止めしている。
今自分が聴いたギルドの受付嬢も、例の彼と親しい係ではなく、休憩中に外出した所を、任意で路地裏までご同行願って、金貨1枚を握らせて、やっと話してもらえたのだ。
あの時ギルドに居た連中を探して聴いても良かったが、そういう輩は概して口が軽く、信用できない。
こちらが彼と接触したがっている事が、外に漏れると不味いのだ。
受付嬢と別れてから、3人の従者と今後の方針を話し合う。
心配されたが、やはり私が1人で彼と接触することにした。
4人では目立つし、従者と違って私だけは今は普段着なので、同じ普段着の彼と会っていても、周囲に違和感を感じさせずに済む。
それに最悪、1人なら使える手段が増えるし・・。
週に1~2度顔を見せるというギルドの近くで別に宿を取って、機会を待つつもりであったが、幸運にも、その途中で彼に出会えた。
「嬉しいわ、また会えたわね」
何気なさを装って声をかけるが、まるで知らない者を見るかのような目をされる。
「誰だ?」
「え?
覚えてないの?
私よ、ミレニー」
「ああ、鎧姿でないから分からなかった」
まるで、顔なんか見ていなかったというような言い方をされる。
「今少しお時間ある?
貴方に大事なお話があるの」
前轍を踏まないよう、なるべく丁寧な言葉を使う。
「少しくらいなら構わないが」
「有難う。
じゃあ、何処かの店に入りましょう。
他人に聞かれたくないから」
そう言って、彼の手を引いて歩き出す。
直ぐに見つかった店に入ろうとしたら、彼が諦めたような顔をしたが、他に相応しい店がないので、そこに入る。
出迎えた女性は、彼を見てとても気不味そうな表情をしたが、私が個室を頼むと直ぐに案内してくれた。
注文を終え、その女性が退出するのを待っていると、何故か彼だけ呼ばれて、個室の外に連れ出された。
「すまん、少し席を外す」
「お知り合い?」
「ああ、身内の叔母だ」
あまり気乗りしないような顔をする彼を見送り、私はこれからどう話すかをもう1度まとめ直すのだった。
「今まで御免なさい。
あなたには、本当に失礼な事ばかりしたわ」
てっきり、また違う女性を個室に連れ込んだとかで文句を言われるとばかり思っていたが、意外にも、彼女は深く頭を下げて、自分に謝ってきた。
「いきなりどうした?」
「先日、あの2人が店に来て、私の誤解を解いてくれたの。
あなたは彼女らに乱暴したのではなく、むしろ助けてくれたんだって。
あの涙は、嬉し涙だったと。
それに、ベニスまで一緒に来て、彼女も太鼓判を押していったわ。
『あいつはそんな男じゃねえ。滅多にいない、いい男だ』って。
ミーとケイにも確かめたけど、彼女らもあなたを絶賛してた。
・・本当に御免なさい。
アリアと直ぐ仲良くなったから、そういう方面に長けた男なんだと先入観を持ってたのね」
これまでの表情が嘘のように、優しい笑顔を向けられる。
「・・誤解が解けたのなら、それでいい。
この店は料理も美味いし、場所も雰囲気も良い。
できることなら、通い続けたい1軒だからな」
「有難う。
そう言ってもらえると、張り合いが出るわ。
今後ともご贔屓に」
明るくウインクして去って行く。
個室に戻ると、ミレニーが真剣に何かを考えていたが、和也を見て一転、笑顔になる。
「ご用は済んだ?」
「ああ。
・・それで、話とは何だ?」
「・・ガルベイルの鱗をギルドに持参したのは、貴方で間違いないのよね?」
「ああ」
「倒したの?」
「いや、自分が行った時は、既に巣を移った後だったな」
この件に関しては、ヴィクトリアにしか真実を告げない考えの和也は、ここでもギルドにしたような話を繰り返す。
「・・鱗を拾った時、他に何かなかった?」
「奴に挑んで負けた者達の、武器や防具の残骸があった」
「!!
その中に、剣はなかったかしら?
この紋章が柄に刻まれていたのだけれど」
そう言って、同じ紋章らしいものが刻まれた、短剣を見せてくる。
「・・あったな」
「!!!
お願い、それを売ってくれないかしら?
今回は金貨500枚出すわ」
かなり真剣にそう告げてくるので、和也は理由を聴く事にする。
「訳を話せ。
正直、あの剣はそんなに高価な物ではなかった。
新品でも、せいぜい金貨5枚くらいだ。
なのに何故そんなに出す?
以前売ったトイレの方が、よっぽど価値が高いぞ?」
「・・・ここからの話は他言無用でお願い」
和也が頷くと、彼女は静かに話し始めた。
「私には、3人の兄弟がいる。
私は長女だけど、家督の相続権は、父と兄弟に次ぐ、最後の5番目なの。
私の家は未だ古風で、ほとんど男子にしか相続権がない。
でもはっきり言って、今の父と兄弟は皆出来損ないで、浪費と女遊びにばかり現を抜かしている。
彼らの誰が家督を継いでも、我が侯爵家は大きく傾くわ。
・・そんなある日、現当主のおじい様が、亡くなった長男の剣を持って来た者を後継ぎにすると言い出したの。
おじい様が最も可愛がっていたその長男は、武芸に秀で、人望もあった。
でも家督を狙う父に唆されて、ガルベイルの討伐隊に参加してしまったの。
勿論、帰って来なかったわ。
当時のおじい様の悲しみは、それはもう大きくて、ギルドに破格の懸賞金を懸けてまで、奴を倒そうとした。
無理だったけどね。
おじい様は父に家督を譲らず、孫達に期待したみたいだけれど、結果は散々。
私以外は、まともに領地の運営さえできない有様。
かといって、今更女性の私に家督を譲ると言っても、これまでの伝統が邪魔をして、何か周囲を納得させる物がないと難しい。
だから、噂を利用したのね。
ガルベイルの鱗を持って来た者がいるっていう噂を。
それを耳にしたおじい様は、奴の巣まで行って、長男の剣を取り戻した者に家督を譲ると宣言した。
倒されたという報告はないから、まだ生きていて、もしかしたら巣に戻って来るかもしれない。
そんな危険な状況で、剣を取り戻した、勇気ある者を後継者にするとね。
父と兄弟は、何もできなかったわ。
あの伯父でさえ歯が立たないガルベイルに、彼らが敵うはずがないもの。
それに、私さえ何もしなければ、おじい様が亡くなった時、必然的に父か兄弟の何れかに家督がいく。
行動しなければ家督を継げない私は、同じように侯爵家の未来を憂う部下の子供達を連れて、ここまで情報を得に来たという訳」
「奴の巣まで行かずに手に入れた剣でもいいのか?」
「それはしょうがないわ。
既に誰かに持ち去られていれば、巣まで行ったところで、何にもならないもの。
要は剣さえ持って行けばいいの。
それを手に入れる苦労も評価の内よ」
「金で買うだけでもか?」
「持ってる相手を探した事が評価になるわ」
「自分が売らないと言ったらどうする?」
「・・ねえ貴方、私の事、どう思う?
もし剣を譲ってくれたら、貴方を私の夫に迎えてもいいわよ?
領地の経営は私に任せてもらうけど、その他の面では、貴方を立てるわ。
この間の女性、アリアさんと言ったかしら、勿論彼女も、2番目としてなら娶ってもいい」
「・・剣の為だけに結婚すると?」
和也が無表情になる。
「いいえ、第1の理由はそうだけど、貴方の力を認めているからでもあるわ。
それに、とても男前だし・・」
心なしか、熱い目で和也を見つめてくる。
「残念だが、自分にその気は無い。
だが、大きな領地を治める者が無能だと、その民が苦しむ。
だからチャンスをやろう。
この村に滞在し、隣接する森のダンジョンで、金貨3枚コースを選択して戦うのだ。
運よく勝てれば、宝箱から目当ての剣が出るようにしてやる」
そう言って、ミレニーの前に、村の所在地やダンジョンの特徴を記した1枚の紙を出す。
「振られちゃったわね。
・・単純に売ってくれるだけじゃ駄目なの?」
書面の内容を確認した彼女が、呆れたように言う。
まるでお遊びのように感じているらしい。
「言っておくが、これはお前達のためでもある。
ここで真面目に訓練しておけば、その内きっと良い事があるぞ」
「・・分かったわ。
その代わり、必ず宝箱に剣を入れておいてよ?」
「約束しよう」
こうして、ミレニー達もまた、件のダンジョンに向かうのであった。