アリア編、その19
『アリアの連れに告ぐ。お小遣いを貰ったので、至急依頼を受けに来なさい』
その日、ギルドに顔を出した和也を見つけ、笑顔でおいでおいでをしてきた受付嬢の下まで行くと、何とも言えない表情になって、こう書かれた依頼書を渡される。
「何時の間にこんなに親しくなったんですか?」
その文面から何かを感じ取ったのか、珍しく、直接は仕事に関係のない事を尋ねてくる。
「いや、別に親しい訳ではないと思うが。
この間頼み事を聞いてもらったお礼に、アリアと会う場を設けてやったから、そのせいだろう」
「ああ、それで。
オリビア様のアリア贔屓はこの町では有名ですからね。
なるべく早く向かってくださいね」
「分かった」
いつもの掲示板には目ぼしい依頼がなかったため、その足で彼女の屋敷に向かう。
例によって門番に睨まれながら、用件を告げる。
「アリアの連れが依頼を受けに来たと伝えてくれ」
返事もせずに確認を取りに行った門番が戻って来て、付いて来いと顎を決られる。
「今日は随分機嫌が悪いな」
「お前のせいだろうが!」
「自分が何かしたか?」
「・・この頃毎日、門から出入りするジョアンナさんの笑顔が凄く素敵なんだ。
それで何気なく理由を尋ねたら、お前のお陰だって・・。
俺達使用人の間では、彼女、ここのメイドで一二を争う人気なんだぞ。
よく気が利くし、優しいし、顔もスタイルも良い。
屋敷にお見えになる貴族のお客様にも、彼女のファンは多いんだ。
わざわざ接客を指名してくる方もいるくらいに。
・・それを、またしてもお前が・・」
「彼女、良い娘だよな」
「畜生!
・・ううう」
「・・泣く程か?」
「うるせえ!」
屋敷の玄関でメイドに迎えられ、応接室に通される。
ジョアンナは今の時間ダンジョンに居るので、別のメイドがお茶を出してくれる。
暫くして、やっとオリビアが顔を見せると、いきなり文句を言われた。
「何でアリアを連れて来ないのよ?
気が利かないわね」
「受付嬢に、前回1人で行けと言われたが?」
「あの時は、貴方を虐めて、できればアリアから遠ざけようと思ってたんだから当たり前でしょ。
でももうそれが無理だと分かったし、アリアと会う機会も作ってくれたから、今後はそれなりの付き合いをしてあげるわよ。
だから、これからここに来る時は、必ず彼女を連れて来るのよ、良い?」
「分かった。
・・で、今回は何をすれば良い?」
「私を地下迷宮に連れて行って。
今回は1泊2日の予定だから、せいぜい2階層までくらいかしらね。
この町を治める貴族の一員として、どんな所かくらいは知っておきたいし。
アリアと2人で護衛をお願いね。
報酬は金貨2枚で良い?」
「よく親が許したな。
そちらから護衛を連れて行くならともかく、自分とアリアの2人だけが護衛なんて、心配じゃないのだろうか?
アリアなんて、強い魔物相手だと、まだ大して戦力にならないぞ?
もしかして、君はあまり親に期待されていないのか?」
「失礼ね!
お父様は私に凄くお優しいわよ。
・・前回の貴方のお陰よ。
あの5人を訳も無く倒した貴方が付くから、お許しが出たの。
だって貴方、あれでかなり手加減していたでしょう?
最後の彼女は相当な使い手よ?
お父様が、一度貴方に会ってみたいと仰っていたわ」
「それは断る」
「断れると思ってるの?
それに、もしお父様に気に入られれば、この町では安泰よ?」
「多分大丈夫だ。
自分にも、この国に友達くらいはいるからな」
「ふ~ん。
やけに自信がありそうね。
まあ良いわ。
それより、何時行けるかしら?
1日も早く、アリアとお泊りしたいの」
「明日でも良いぞ。
ただし、その服装では来るなよ?
できるだけ汚れても良い服で来てくれ」
「分かったわ。
では明日、9時頃に迎えに来て頂戴」
「了解した。
それと、報酬の件だが、金貨1枚で良いから、それを自分にではなく、ここの門番達に回してやってくれ。
金としてだけではなく、食事の際につける、酒なんかにしても良い。
ただ、自分からだという事は、内緒で頼む」
「・・へえ、結構良いとこあるのね。
彼ら、ジョアンナまで貴方に取られて、悄気てたものね。
分かった。
適当な理由を付けて、その分労ってあげるわ」
「君こそちゃんと見てるのだな。
少し意外だった」
「当然でしょ。
彼らが屋敷の門を守ってくれるのだから」
和也はその言葉を聴き、僅かに唇を緩める。
そして、家に帰ると、鍛錬に勤しんでいたアリアを呼び、明日の予定を告げるのであった。
(同時刻、ビストー王宮、ヴィクトリアの部屋)
「あら?
・・ふ~ん、本当に便利よね。
今度、わたくしの仕事も手伝ってもらえないかしら」
転送されてきたメモを読み、執務用の机から腰を上げた彼女は、王宮の廊下を渡り、各大臣達の部屋がある場所まで歩く。
その1つ、財務大臣と書かれた扉をノックすると、声をかける。
「わたくしだけど、今、少し良いかしら?」
「これはヴィクトリア様、どうぞお入りください。
こちらにいらっしゃるとはお珍しい。
何か緊急のご用件でしょうか?」
「ある意味そうね。
ただ、今から話すことは他言無用よ。
まだお父様にも秘密にして頂戴。
良いわね?」
大臣の目をじっと見て、そう念を押す彼女。
その迫力に押され、無言で頷く彼。
「和也さんには手を出さないで。
あの人は、絶対に敵に回してはいけない人。
もし本気で怒らせれば、この国とて直ぐに滅ぶわよ」
「・・一体どなたの事を仰っているのですか?」
「最近、あなたの娘の所に何度か来ているでしょう?
・・彼よ」
「ではあの少年の事なのですか!?
まだ会った事はございませんが、凄い能力の持ち主だと、家の者から報告を受けておりましたが・・」
「そう、その彼。
彼はね、何れはわたくしの夫にするつもりでいるの。
だから、手出しは無用よ」
「!!!」
今まで、どんな縁談にも見向きもしなかった彼女の口から出た言葉に、大臣は絶句する。
それこそ、他国の王の正妃にと、何度乞われたか分からない彼女が、自分の方から夫に欲しいと告げている。
「呉呉も、まだ誰にも話しては駄目よ。
もし振られでもしたら、恥ずかしいから。
・・もっとも、そんな事、許すつもりはないけどね」
大臣の態度に満足したヴィクトリアが部屋から出て行くのを、当の彼は未だ呆然として見送る。
これは偉い事になった。
そう思うと同時に、これなら大丈夫だと喜ぶ自分がいる。
彼女がああまで言うからには、きっと相当な人物なのだろう。
そんな少年が娘を側で守ってくれるなら、地下迷宮でも何の心配も要らない。
男は安心して、再び仕事に取り掛かるのであった。
満月の美しい夜。
深い森の中にある、その家で、窓から差す月の明かりだけを頼りに、同じベットで横になる3人は、話に花を咲かせる。
「あれ以来、あの子達、凄くマラソンを頑張ってますよ?
休み時間も、稼いだお金を何に使うかでとても盛り上がってます。
余程、嬉しかったのでしょうね。
子供といえど、ただお金を貰うより、自らの力で得た事で、自信と誇りが生まれたのかもしれません」
「ごみ捨てだっけ?
それで1人銀貨20枚かあ。
私が店で4~5時間店員やって銀貨5枚くらいだから、子供には破格の仕事よね。
そんなに大変なものなの?」
「今回は最初だから少しサービスしたが、それでも15枚くらいの価値はある。
量が半端ではない上に、見た目も臭いも普通なら挫折してもおかしくない。
幾ら特殊スーツで臭いと汚れを完全に遮断し、目の部分のモニター越しにそれらを見ていたとしても、子供にはきつい事に変わりはない。
地球では、大人だって尻込みしそうな光景だった」
「貴方でも?」
「自分なら、問答無用で焼却し尽くしている。
たとえスーツ越しでも触れたくない」
「貴方って、ちょっと度が過ぎるくらいに奇麗好きだもんね」
「お前はもっと気にした方がいい。
アトリエ代わりに使っている部屋に、時々綿埃が舞ってるぞ」
「たはは。
集中すると、中々他の事に気が回らなくて」
「まあ良い。
エリカの絵の出来が良ければ、全てを許そう」
「プレッシャーかけないでよ。
エリカさんは、ただでさえ描くのが超難しいんだから」
「何故ですか?」
「エリカさん、普通の人はですね、ただ髪を梳っただけで光の精霊が戯れないんですよ。
晒した肌は、まるで水の精霊に贔屓されたような瑞々しさと張り、艶。
こうして薄暗い中でただ横になっていても、貴女が纏う闇の質は、他とは少し違って見えます。
風の精霊が途中で変換しているとしか思えない、心地よい声音。
大地の精霊から貰い過ぎた、その包容力。
火の精霊からは、一体何を受け取られたのでしょうね?
言ってしまうと、もしエリカさんがそのまま道を歩いていたら、恐らくほとんどの人には、貴女が人間には見えませんよ?」
「まあ、魔物にでも見えるのでしょうか、フフフッ」
「・・エリカさん、前の国でよく普通に生活できてましたね?」
「そうですね、慣れもあるのでしょうが、あの頃はまだここまでではなかったと思います。
これ程までになったのは、きっと旦那様のせいです」
「?
この人に何か魔法でも使われたんですか?」
「ええ、勿論。
恋の魔法です」
「・・エリカ、言ってて恥ずかしくないのか?」
「どうしてですか?
あなたに愛を告げる事に、恥じらう以外の恥ずかしさなどありません」
「・・・」
「御免なさいアリアさん、今のは半分冗談ですが、旦那様から頂いているものがあるのは本当です。
わたくし達妻が、旦那様に抱かれる時、本来の子種の代わりに、あるものを得ています。
それは、受けた者の美しさと能力を少しずつ高め続ける、彼の体液です。
わたくし達は愛されても子供ができない代わりに、美と力を貰っているのです」
「・・エッチな事をするだけで、綺麗になって、おまけに強くもなるなんて、世の女性を完全に敵に回しますね。
・・そんなに沢山、この人とエッチしたんですか?」
「さあ、どうでしょう?
・・どのくらいになります?」
エリカがクスクス笑いながら尋ねてくる。
「知らん。
容姿の上昇など何時かは止まるし、お前を抱く時、大切にしなければならぬのは、そんな事ではないはずだ。
・・しかし、やはりアリアは性に興味津々・・痛いぞ」
毛布の下で、アリアに足を蹴られる和也。
「フン、容姿が良いと得よね。
今の言葉、その辺の男が口にしたら、笑しか出ないわよ?」
「お前だってかなり恵まれてるではないか」
「エリカさん見てると、それも自信無くなっちゃった」
「大丈夫だ。
お前はお前にしかない美しさがある」
『なら早く手を出してよ!』
「何故怒る?」
いきなり眼を鋭くしたアリアに、和也が驚く。
「知らない!
お休み」
向こうを向いて、寝に入るアリア。
「?」
『・・あなたったら‥』
エリカも逆側を向いて、瞳を閉じる。
大きなベットの中央で、訳が分からぬという表情をしている和也を、ただ月だけが、まるで苦笑するかのように、細く照らし出していた。
「アリア、会いたかったわ!」
オリビアが満面の笑みで彼女に抱き付く。
傍からは、アリアの豊かな胸の膨らみを圧し潰し、まるでその感覚を楽しんでいるようにも見える。
「・・オリビア様、その格好は?」
「ああこれ?
家の庭師から、新品の服を譲ってもらったの。
あまり目立ち過ぎるのも良くないし、これなら汚れても大丈夫だから」
『いえ、逆に目立つと思いますよ?』
麻製の長袖のシャツに地味なベスト、少し長い丈を詰めた、だぶだぶのズボンに革靴。
奇麗な髪を押し込んだ、布製の帽子を被り、背にはリュックを背負っている。
まるで何処かの田舎に遠足にでも行くみたいだ。
「メイドさん達は、その格好に何も言わなかったんですか?」
「可愛いと言ってくれたわよ?」
『・・遠慮したのね』
「さあ、早く行きましょうよ。
時間が勿体無いわ」
オリビアがアリアの手を引き、迷宮の入り口への道を共に歩いて行く。
因みにアリアの格好は、和也に貰ったバトルスーツの上から、身体のラインを隠すように、地球のバイク乗りが好むような黒い革ジャン(これも和也が与えた)を羽織っている。
和也はいつもの格好で、楽し気に歩く2人の後ろを歩いていた。
町に多数ある迷宮の出入口には、必ず1人以上の兵が常駐していて、朝の開門と夜の閉門に携わる。
夜中に魔物が出てきても差し支えない野外の出入口には、勿論誰もいない。
アリアが中に入ろうとすると、兵が嬉しそうに声をかけ、挨拶してくる。
オリビアの事は、本人だと気付かないようだ。
領主の家族が、まさか庭師の格好をしているとは思わないのだろう。
「へえ、意外と奇麗なのね」
1階層に入り、広い通路をきょろきょろしながらゆっくり歩くオリビア。
その少し前をアリアが歩き、1番後ろを和也が進む。
「君は何か武芸を習っているのか?」
暇潰しに和也がオリビアに話しかける。
「そんな訳ないでしょ。
だからちゃんと守るのよ?
怪我でもさせたら、アリアを1日専属メイドにするからね。
一緒にお風呂に入って、身体を洗ってもらうんだから、ウフフ」
『え~っ、それはちょっと‥』
アリアが前を向きながら、少し微妙な顔をする。
そうこうする内に、3体のゴブリンが姿を現す。
アリアとオリビアを見て、一瞬襲い掛かろうと身構えるが、後ろの和也が一睨みすると、直ぐに逃げて行く。
「倒さなくていいの?」
不思議に思って聴いてくるオリビアに、和也は答える。
「他の者の練習相手を、無理に狩る必要はあるまい」
「何だか意外・・でもないか。
冒険者って、もっとがむしゃらに魔物を倒す人達だと思っていたけど、・・貴方だもんね」
事前のテストで和也の力を知っているオリビアは、納得して歩きを再開する。
「迷宮って、結構平和なのね。
もっと危ない場所だと思ってた」
広い通路を歩いていても、時折戦闘中の人物や下級の魔物に出くわすくらいで、これといった刺激も危険もない。
「2階層に行きましょうか。
これじゃあ、私の出番すら無いしね」
入ってまだ1時間もしない内に、アリアまでそんな事を言い出す。
「どうせなら、少し自然のある場所まで行こう」
退屈なのは和也も同じなので、2人にそう提案して、下へ降りる道を探す。
2階層に降りると、流石に魔物や他の冒険者達に出会う率が増えたが、相変わらず和也が睨むだけで魔物は逃げるし、冒険者達も、アリアに見惚れるか、厭らしい視線を投げかけてくるだけなので、その全てを無視して進む。
そしてさらに2時間後、3階層への階段を下りる。
ここからは、国による監視カメラも存在しない、ある意味無法地帯だ。
出現する魔物もずっと強くなるので、2階層程には、人の姿も見かけなくなる。
「こんな短時間に3階層まで来れるなんてね。
貴方に頼んで正解だったわ。
本当に、地下に緑があるのね」
オリビアは珍しそうに周囲を見回し、和也に告げてくる。
「疲れたし、お腹も空いたから休憩したいわ」
「分かった」
和也は透視で林の中に適当な広場を見つけ、2人をそこに案内する。
そして、徐にトイレとテーブルセットを出す。
「え?
何これ、一体何処から出したの?」
オリビアが驚いて聴いてくる。
「アイテムボックスに決まっているだろう」
「この大きさの物を・・って、貴方だもんね、当たり前か」
「随分和也さんを評価されてるんですね」
アリアが意外そうに口にする。
「そりゃあね、あの光景を見せられたらねえ・・。
これは何?」
初めて携帯トイレを目にした彼女が尋ねてくる。
「トイレだ。
そろそろ行きたいだろうと思ってな」
「・・助かるわ。
今はこんな物まで売ってるのね」
『いやいや、それはないですって』
アリアが何か言いたげに、顔の前で手を振る。
中に入って、間も無く出てきたオリビアは、きっぱりと言い切った。
「これ、私の家でも購入するわ」
2人が用を足している間に、和也は紅茶の用意をし、3㎝くらいの厚切りで脂の少ないベーコンのソテーと、オムレツ、フルーツトマト、香ばしく焼いたパンを皿に盛る。
「何これ?
何でこんな所でこんな豪華な食事が出てくるの?
せいぜいサンドイッチくらいだとばかり思ってたのに」
紅茶も料理も、きちんと上等なカップや皿で供され、しかも熱々で、紅茶には湯気まで立っている。
ナイフにフォーク、おしぼりまで並んでいる。
「君は一応依頼主だし、購買力のある貴族だからな。
ベーコンはお勧めだ。
気に入ったらジョアンナの家が管理する村で購入してやってくれ」
「あの辺にそんな事してる村なんてあったかしら?」
「つい最近始めたばかりだが、施設も豚の品種も折り紙付きだ。
まあ、食べてみてくれ」
和也がトイレを終うと、アリアとオリビアが並んで席に着き、対面で紅茶を飲む和也の前で食べ始める。
「!!
・・美味しい。
こんなベーコン、食べた事ないわ。
脂が少なくて、しかもしつこくない。
それにこの香辛料、初めて食べるけど何だろう?
凄くお肉に合う」
「胡椒はこの国に無いのか?
・・普段アリアが何も言わずに食べてたから、気付かなかったぞ」
和也がアリアに視線を送る。
「だって、(神様の)貴方がする事だから、知らない事や物に、いちいち驚いていられないもの」
2人が醸し出す雰囲気に、オリビアが口を挟む。
「いつも2人で食べてるの?」
「いや、そうとも限らないぞ。
お互い忙しいから、寧ろ最近はあまり機会が無いな」
エリカのことを知らないオリビアは、まだ彼らが2人きりで生活してると思っている。
「じゃあ、・・夜も?」
「何にも無いですよ。
ええ、これっぽっちも・・」
アリアが何故か不機嫌そうに呟く。
「良かった。
じゃあまだ清いままなのね。
・・でも貴方、もしかして不能なの?
アリアと暮らしててこんなに我慢できるなんて、そこだけは素直に褒めてあげる」
「男だからといって、年中盛っている訳ではない」
「ふ~ん、まあ良いわ。
!!!
・・何、このパン。
これ、一体何処のパン!?」
「それは内緒だ。
このパン職人は多忙だから、あまり量産できない」
「家のお抱えにするわよ?」
「そう言ってくる者は多いし、既にとある王宮の御用達になっている」
「・・そっか。
まあ、そうだわね。
でも、これからもこの依頼の時には、このパンをお願いしたいわ。
あと、もし売れ残ったら、家が全部買うから」
「依頼の時くらいは出してやろう」
和也は、アンリと初めて出会った時の事を思い出し、嬉しそうに目を細める。
「貴方でもそんな顔するんだ?
毎回、人を小馬鹿にしたような顔しか見たことなかったから、意外ね。
いつもそういう顔してれば、アリア以外にも女に困らないと思うわよ?
だから、アリアは私に頂戴」
「・・君もぶれないな」
「フフ、当然よ」
地下とはいえ、良い日差しが当たる中、穏やかな食事が進む。
因みに、和也が張った障壁の外では、何度か虫や魔物が侵入を試みては、その度に弾かれていた。