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創造神の嫁探し  作者: 下手の横好き
109/181

アリア編、その18

あれから数日が経った。

あの村も、何とか豚の飼育を軌道に乗せつつあり、ジョアンナも、今まで以上に明るい笑顔を見せてくれる。

村の混乱が直ぐに収まったのは、子供達が一役買っている。

戸惑う大人達に、色々説明してくれたらしい。

エリカ曰く、『浄化の魔法は既に皆が習得済みです』ということなので、近々最初の仕事を与えるつもりでいる。

ジョアンナ専用の部屋は、校舎の職員室があるべき場所に造った。

20畳程度の広さに、大きなベットとテーブルセット、クローゼットに鏡台や本棚などを揃え、窓には上質のカーテンをつける。

部屋を見た彼女に、『こんな部屋、上級クラスの貴族でないと持てませんよ』と少し呆れられた。


 ヴィクトリアに、再度、王立図書館での本の複製許可を貰いに行った時も、結構大変だった。

何しろ今度は、貸出禁止の上級魔法や閲覧禁止の禁呪を含めた本だったから。

いつものように部屋に転移した時、彼女は相変わらず風呂上りではあったが、ちゃんとローブを身に着けていた。

事前に確認し、脱ぎそうもないタイミングで転移したのだから当たり前だ。

なのに、彼女は少しすると和也の前で平然とローブを脱ぎ捨て、下着を付け始めた。

和也が小言を言うと、『貴方にしか見せないし、見られて恥ずかしい身体ではないつもりよ』と、一笑に付した。

和也が用件を切り出すと、流石に真顔になったが、誰にどういう理由で使わせるのかを聴いた後、ある条件と引き換えに許可してくれた。

『禁呪本は自分用にも複製して欲しい』

それが、彼女から出された条件である。

王女といえど、扱いを間違えば大事(おおごと)になる禁呪は、見る機会がないそうだ。

普段は王立図書館の、厳重に封印魔法が施された場所にあるそうで、それを解除しようとしたり、侵入を試みれば、攻撃魔法が飛んでくると共に、魔術士協会でも警報が鳴るそうだ。

『でも、貴方なら訳無いでしょ?』

共犯者の笑みで、事も無げにそう言われた。

複製前に中身を確認した禁呪本は、魔法の術式や解釈が間違っている物がほとんどだった。

大方それで暴走して禁呪になったのだろう。

行使者の意思と思考、その魔力で発動する魔法といえど、化学や物理、生物学的な要素を完全に無視しては、ほぼ実現しない。

それを可能にできるのは、万物の創造主たる和也と、その力を分け与えられた、眷族のみである。

和也はヴィクトリアに、ほとんどの本の内容が不正確である旨を伝え、その中から、内容に間違いのなかった物だけを複製する。

『魔人を生み出す理論とその方法』、『魔物を使役する魔法』、『人工生命体の作り方』の3冊である。

だがどれも、読み物としては面白いが、その実現が相当困難なものばかりで、今では個人で行使できる者はいないだろう。

『魔物を・・』だけは、下級の魔物ならできなくはないだろうが、それに意義があるかは別である(保有する魔力の関係上、できてもせいぜい1体だろうから)。

複製した1冊ずつを受け取ったヴィクトリアも、案の定、和也の説明を聴いて、微妙な顔をしていた。

彼女の部屋に戻り、何気なく机の上の本に目を遣った和也は、その開かれたページの見出しを見て、平静を装い、見なかった振りをする。

だが、目敏くそれに気が付いたヴィクトリアに、『見たわね?』と、妖しい目をして迫られた。

そして、『折角だから、少し練習に付き合って』と、半ば強引に唇を塞がれる。

しかも、前回と異なり、ただ唇を合わせるだけではなく、角度を変えたり、舌を入れてこられたりして、随分長い事そうされた。

その見出しの文字、『夫を妾に奪われないために。実践編』を思い出し、『誰か意中の男ができたのか?』と確認する和也に(もしそうであれば、彼女との付き合い方を、常識的なものに直す必要があるから)、彼女は、『それは自分で考えなさいな』と、ただ笑うだけであった。


 ベニスとも、あの後1度、話をした。

和也からの贈り物に、依頼人の女性が凄く感謝していたことを告げられ、当のベニスからも、再度、お礼を言われた。

そして、定期的に自分を鍛えてくれないかとも頼まれる。

和也との模擬戦や、未然に防げたあの襲撃で色々と考えたらしく、パーティー仲間や依頼人を、今後もきちんと守れるだけの力を、身に着けたいそうだ。

少し考えた和也は、ユイとユエの様子を見に行くついでに、マリーに話をつけ、ベニスも鍛えてもらうことにする。

依頼のない日は、訓練用ダンジョンに入る許可と手段を与え、みっちりと修行させることにした。

あの酒場での夜以来、自分に対して妙にしおらしくなった彼女が、一体どう変わって行くのか、少し楽しみな和也である。




 『逸れハーピーの捕獲』


ギルドで掲示板を見た和也は、新たな依頼に目を留める。

このところ、○○村の付近で、家畜の子供が襲われる被害が出ているとのこと。

どうやら、群れから逸れた1羽のハーピーのせいらしい。

報酬は銀貨50枚。

生け捕りなら、愛好家が金貨1枚で買うと書いてある。

翼である腕を除けば、上半身は人間の女性とあまり変わらないため、一部の者に人気があるようだ。

和也は、早速現地へと向かう。

広範囲を透視して探すと、10㎞程離れた森の木に、1羽のハーピーを見つける。

だがまだ子供だ。

人間で言えば、10歳くらいか。

とりあえずその場に転移すると、それに驚いて逃げようとするその子を、魔法で動けなくする。

隣の枝に座り、話しかけてみる。


「大丈夫だ。

今は何もしない」


万能言語が働き、その子に言葉が通じる。

逃げようとして踠いていたのを止め、じっとこちらを見てくる。


「親達とは逸れたのか?」


その子が首を横に振る。


「ではどうした?」


言葉が喋れず、黙ったままのその子に、和也はジャッジメントを唱える。

その頭の中に、これまでの光景が映し出され、流れて行く。

遠方の森で暮らしていた群れを、突然複数のグリフォンに襲われ、親は殺され、散り散りになって逃げてきたらしい。

まだ狩りを習い立てであったようで、魔物はおろか、大人の動物でさえも満足に捕らえられずに、腹を空かしているようだ。

他の魔物を恐れ、ここでも十分な睡眠を取れていない。


「食べ物に困らなくて、誰にも襲われない場所があれば、行ってみたいか?」


今度は首を大きく縦に振る。

和也は掌に黒い球体を作り、再度その子に話しかける。


「怖がらなくていい。

君を安全な世界へ送るだけだ。

そこには友達もいるし、きっと気に入ると思うぞ?」


和也の目をじっと見つめたその子は、やがて自らその球体の中に吸い込まれて行った。



 『また誰か来たようだな』


ガルベイルが食事から首を上げ、歪んだ空間を見つめる。

ラミアや火狐たちと輪になって、和也から差し入れられた、山のような肉を食べていた最中である。

例によって、火狐の子たちがその場まで駆けて行き、新たな住人を出迎える。

空間から現れたハーピーの子に、円らな瞳を向けて、『怖くないよ』と言っているようだ。

そして、皆の所へと案内する。

山と積まれた肉をじっと見つめるその子に、『食べて食べて』と勧めながら、もう1匹が果物を採りに走る。

周囲の視線を気にしながら、恐る恐る食べ始めたハーピーの子を、他の皆が嬉しそうに眺めていた。

別次元からの、柔らかな眼差しもまた・・。




 「おめでとう諸君。

諸君は皆、浄化魔法の試験に合格し、また、体力テストでも最低限の数字はクリアした。

よって約束通り、最初の仕事を与えることにする。

ただ、諸君に与える仕事はどれも極秘任務だ。

自分と、この学校の教員以外には決して知られてはならないし、実際に仕事をしている姿を他人に目撃されてもならない。

仕事には、専用の装備を身に着け、こちらが指示した物以外、現場に証拠となるものを残してもいけない。

具体的には、足跡、指紋、忘れ物等だ。

声も聞かれては不味いから、極力無駄口を叩かずに、静かに作業すること。

仕事場所は異世界で、現場は毎回異なる。

ここまでで何か質問は?」


校庭でのテストを終え、風呂に入ってきた4人に、和也は告げる。

因みに更衣室には洗濯機と乾燥機があり、風呂に入る際に汚れ物を洗濯機に入れて回せば、その後、自動的に洗い終えた物を乾燥機に転移して乾かしてくれるので、風呂から出た時には、奇麗な衣服を身に着けられる(もっとも、烏の行水なら話は別だが)。

これらの設備は、ウォシュレットのトイレ同様、皆に大好評だった。


「・・あの、御剣様、今何かおかしな言葉をお聴きした気がするのですが・・」


マサオが遠慮がちに言うと、他の皆も頷いてくる。


「ん?

何のことだ?」


「仕事場所は、異世界と・・」


「何か問題でもあるのか?」


「「無いんですか!?」」


皆が口を揃えて突っ込んでくる。


「いや、だってこの世界よりずっと楽だぞ?

魔物もいないし、魔法だって存在しない。

浄化を使えるお前達はヒーローだ。

異次元戦士、フォースイーパーズ。

格好いいじゃないか。

まあ、あの世界は時間に不規則な人間が多いから、どの時間でも仕事がし辛い面はあるが」


「・・フォースイーパーズ」


「何か強そうな響きだ。

俺は気に入ったぞ」


「あたしも。

英雄みたい」


トオルとタエが納得してしまったので、残りの2人は渋々口を噤む。


「中々センスの分かる奴だ。

仕事前に、少しミーティングを行う。

付いて来い」


和也は4人を連れて、用務員室と書かれた部屋に入る。

子供達を床に座らせ、その壁に現地の映像を映しながら説明していく。


「ここが今回、お前達に働いてもらう場所だ」


日本の、とある田舎町の一軒家が映し出される。

その家は、周囲を大量のごみの山に囲まれ、如何にも臭そうだ。

夏場などは、ハエやゴキブリなどが飛んでいそうで、近くに住む人々はさぞ迷惑だろう。


「何ですかこれ?」


そのごみを見て、マサオが質問してくる。

ビニール傘の壊れた物や、大きな空き缶、ペットボトル、古タイヤ、コンビニの袋に包まれた生ごみ等、ありとあらゆるごみが積んであるので、こちらの世界の人間には、ぱっと見それがごみだと分からないらしい。


「ごみだ」


「これ全部ですか!?」


アケミが驚いて声を上げる。


「そうだ。

あちらの世界は、現時点ではここよりずっと豊かだ。

店で売られる商品は既に過剰に包装され、買う時にさらにそれが増えて、ほぼ何をするにもごみが出る。

様々なごみは定期的に業者に回収されるが、それはきちんとその日にごみを指定の場所に出した物だけだ。

ごみの中には、お金を払わないと回収されない物もある。

よって、ごみを出す事すら面倒だと感じる怠け者や、高齢や病気等のためにごみを出しに行けない者、ごみを財産だと言い張って溜め込む者等により、時折こういった悲惨な状況が生み出される。

形式的な事に囚われ過ぎて、身動きできないあの世界の者達に代わり、お前達があのごみを始末するのだ」


「あれを全部ですか!?」


タエが無理ですとでも言いそうな顔で告げてくる。


「大丈夫だ。

お前達に貸し出す専用スーツは特別仕様で、あらゆる菌や臭い、汚れを防ぎ、鋭利な刃物や、高熱、冷気を物ともしない。

痕跡を残さぬよう、地面から常に数㎝足が浮くようにもなっている。

体力と根気次第で、あの程度のごみなら1~2時間で片せるだろう」


「あれを何処に運ぶんですか?」


トオルが尋ねてくる。


「現場のすぐ近くに、極小さなブラックホールを作る。

そこに全て投げ込め。

お前達が吸い込まれないよう、その引力だけは抑えておく」


「それだけですか?

分別とかはしないでいいんですか?」


給食の際、ごみの分別を教えられたようで、重ねてそれも聴いてきた。


「今回はしなくていい。

全部同じ場所に投げ込め」


「分かりました」


「他に質問がなければ、着替えの後、すぐ仕事に取り掛からせるが?」


「「大丈夫です」」


「よし、では今から1人ずつ、そこのロッカーの中に入れ」


和也は、部屋の隅にある、用具入れのようなロッカーを指さす。


「はい」


先ずはトオルが扉を開け、空っぽの狭いロッカーに身体を入れ、扉を閉める。

何の意味があるのか分からない他の子供達の前で、そのロッカーが一瞬輝いて、直ぐに光が収まる。


「出てこい」


和也の声に従い、ロッカーから出てきたトオルは、日本の子供向けの、戦隊ものの番組に出てくるような、全身を青で覆われたボディスーツとヘルメットを身に着けていた。

腕にはデジタル時計、腰の部分はホルダーの付いたベルトが巻かれ、ヘルメットは頭がすっぽり入るタイプで、顔の部分には、目の所にそれと分かるフィルターが付いているだけだ。


「うわあぁ、カッコいい」


タエがうっとりとその姿を眺めている。


『え!?

・・あれが?』


マサオとアケミは大いに反論したかったが、大恩ある和也のセンスに表立って反論できない。


「次、あたし入る」


タエが嬉々としてロッカーに入ると、同様な事象を経て、彼女は全身真っ赤なスーツで出てきた。

目のフィルター越しに己の姿を見て、キャッキャと騒いでいる。

渋々、マサオとアケミも続く。

彼らの色は、緑とピンクであった。


「中々似合っているぞ。

では、出発しよう」


壁の映像の中に、黒い空間の(ひずみ)が生まれる。

和也が率先してそこに入って行き、子供達が恐る恐るそれに続く。

音もなく出た先は、先程見たごみ屋敷の前。

時間は深夜の2時半。


「腕に巻かれた時計を見ろ。

これからカウントダウンが始まる。

その時計の数字がゼロになるまでに作業を終えなければ、この任務は失敗だ。

その時は報酬は無し。

参加賞のお菓子だけだ。

なので、全力で作業に当たること。

この仕事の報酬は1人銀貨20枚。

最初だからサービスして、自分が傍に付いててやる。

頑張れよ」


周囲に防音障壁を張った和也が、子供達にそう声をかける。


「「はい」」


「では、ミッションスタート」


腕時計の数字がどんどん減り始める。

彼らは一斉に作業に取り掛かった。

先ずは直ぐに運べる小さなごみから順にブラックホールに投げ入れていき、それから順に、2人でしか運べない物、4人全員で運ぶ物と、きちんと考えながらやっているようだ。

潰れたペットボトルからは何だか分からない液体が飛び散り、コンビニの袋に包まれた物からは、得体の知れない腐敗物が零れ落ちるが、和也の与えた特殊スーツは、それらの汚れや臭いを完全にシャットアウトし、子供達に極力不快感を与えることなく作業をさせる。

放置された廃車等、どう見ても彼らだけでは無理な物は魔法で手助けしながら、和也はそれをじっと見ている。

世の中には、何も子供達にこんなことをさせず、今時感心な奴らだと、素直にお金を与えろと言う者もいるだろう。

だが和也は、自分が目をかける者達程、それをしない。

和也が気に入る者達は、己の置かれた境遇を物ともせず、自分ができる範囲で頑張れる者、努力を惜しまない者である。

そんな彼らのやる気を削ぎ、スポイルするような真似を、和也がするはずがない。

数十分が経過し、疲れて動きが鈍くなってきた子供達に回復魔法をかけながら、静かに見守る。

1時間、1時間半が経過し、あれだけ山と積まれたごみが、ほとんど無くなってくる。

そしてとうとう2時間後、最後のごみが投げ捨てられる。

積まれたごみのあった地面が、何とも言えない色に濁っていた。


「よし、よくやった!」


和也は比較的汚れの少ない場所に、ある物を置くと、子供達に呼びかける。


「撤収!!」


来た時同様、空間の歪に駆け込んで行く彼ら。

その腕時計のカウントは、残り3分で止まっていた。

ブラックホールを消し、防音障壁を解く和也の目に、2㎞先の、新聞配達のバイクのライトがぼんやりと映る。

それを横目にしながら、彼もまた、静かに闇に消えて行った。


 数時間後、陽が差してきたその場所に、1人の老人の絶叫が響き渡る。


「何じゃこりゃー!!

わしのごみが、十数年かけて溜めたごみがーっ!」


へなへなとその場にへたり込んだ老人の視界に、2段に重ねられた、5つのトイレットペーパーが映る。


「・・わしのごみが、トイレットペーパー5つ分しか価値がないだと?

ふざけるな―っ!

10個分はあっただろうがーっ!」


長年その悪臭に悩まされ、夏に窓も開けられなかった近隣の住民達は、その怒鳴り声を聞きながら、やっと普通に暮らせるかもしれないと安堵するのであった。



 「改めて、ご苦労であった。

これは約束の報酬だ」


用務員室に帰り、ロッカーで装備を解除した子供達は、再度風呂に入り直し、今は食堂で飲み物を飲んでいる。

その彼らの前に、和也は1つずつ、銀貨20枚の入った小袋を置いていく。


「中を確認するがいい」


言われて、嬉しそうに銀貨を数える子供達。

これまでの彼らには、1枚でも大金であった銀貨が、今は20枚も手元にある。

親の贈り物に使っても、まだ十分に余るそのお金の使い道を、あれこれ楽しそうに相談し合う子供達を見ながら、和也は、次は何処にしようかと考えるのであった。


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