記念すべき最初の星にて、その9
和也の話す内容を、一言も聞き漏らすまいと集中していたエリカは、障壁の件は流石にショックだったが、そんな事を何処かに吹き飛ばしてしまうくらい、エリカにとってかなり嬉しい言葉があったせいで、他の事はどうでも良くなっていた。
和也が別世界の住人だとか、自分が国を代表して話をしているとかの、本来ならかなり留意すべき事柄を意識の片隅に追いやってしまう程、嫁を探しに来たという、和也の漏らした一言が嬉しかったのだ。
初めて会った時から、何処か自分の琴線に触れてくるものがあると思っていたが、僅かな間に和也に対する好意は自分でも不思議なくらいどんどん膨れ上がり、今では自分が彼の嫁に立候補しようと真剣に考えていた。
先程も、自分の身体を凝視するように眺めていた和也の事だから、確率の高い賭けだと思う。
未だ嘗て男性と付き合った事すらないが、和也の方も女性との付き合いは恐らくないはずだから、押しまくれば何とかなるだろう(だって彼、凄く真面目そうだし)。
母である女王が自分を如何に可愛がっているかとか、自分はこの国の王女で一人娘であるなどの、本来大きな障害となり得る要素は、初恋に浮かれたエリカの思考の中にはなかった。
「あなたに悪意がないのは分ります。
今度は多分、真実を仰っているという事も。
ただ、別の世界からこちらに来る方法や、あなたが我が国の障壁をものともしない程にお強い理由など、分らない事も多いのが現状です。
如何でしょう?
当初の予定通り、王宮にお部屋をご用意致しますので、そこに滞在なさってこの国をご覧になられては。
お金が必要でしたらお仕事をお頼み致しますし、お嫁さんなら心行くまでお探しになって結構です。
その間に、わたくし達にあなたの事をもっと色々と教えて下さい」
自分の話の何処がそうさせたのかは分らないが、エリカはとても上機嫌で話しかけてくる。
エリカの気分を害したかもしれないと恐れていた和也は、一先ず安心すると共に、提示された条件に即座に頷いた。
「分った」
「では、お部屋にご案内致しますわ」
早速行動に移そうとしたエリカに、隣から声がかかる。
「少し待ちなさい。
一体彼を、どの部屋に案内する積りだい?」
それまで一言も言葉を発せず、じっと和也を観察していた宰相の男が口を開いた。
エリカの事は信頼しているが、いささか暴走ぎみのように思えたのだ。
「勿論、わたくしの隣のお部屋ですわ。
色々と分らない事も多いでしょうから、わたくしが直に教えて差し上げたいと思います」
案の定、男が想定した通りの答えが返ってくる。
普段は態度にこそ出さないが、妻である女王に劣らぬくらい、エリカの事を大切に思っている彼は、釘を刺すのを忘れなかった。
「王女としての業務に差し障りが出ない範囲で、節度を持って接するように」
「国賓である和也さんのお世話をするのは王女としての立派な業務ですし、わたくしももう大人です。
自分の行動に責任は持ちますわ」
初恋に浮かれた今のエリカには、何を言っても無駄であった。