表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dragon of heartbreak  作者: 有智 心
∞第6章∞ 横顔の肖像
21/31

東條一族

 私は今どんな顔をしているのだろうか?……もし見ることが出来たらきっと指差して笑うんじゃないだろうかと思う。

 ……軽く開けた締まりのない口で見上げる顔は驚きと同時に呆れたような表情をしているはず……そんな不細工な顔をして彼の実家である東條邸の前に立っている。

 ……勿論彼も一緒。

 そして何故ここへ来ているのか。


 それは……


「私がですか?!」

「すみません。宜しくお願いします。」


 がらがら声で時々咳をしながら頭を下げてきた。

 全ては珍しく風邪を引いた丸岡さんのせいだった。


「……でも」

「熱も下がり大分良いのでお供出来ない訳でもないのですが…小さなお子様もいらっしゃいます。うつしてしまっては大変なのでここは薫さんに行って頂くのが一番良いかと……

 宜しくお願いします。」


 困ってしまった……土曜日に彼の兄、東條雅之とうじょうまさゆきの中学二年生になる娘、東條彩香とうじょうあやかの14歳の誕生日でそのパーティーに叔父である彼も呼ばれていて、其れに同行するように頭を下げられているのだ。


「あの……送り届けて私はパーティーが終わるまで何処かで時間を潰すっていうのは駄目ですか?」

「其れはいけません。竜也様お一人置いていくなどと……何かあった時対処出来ません。」

「あっ…そうですよね。」


 ……そうだった…リュウと入れ替わったりしたら大変だわ。

 この事を知っているのは丸岡さんと私だけだもの……

 でも、東條グループ社長宅に行くなんて気が重い……失礼でもあったらどうしょう。


「薫さん。こんな言い方はしたくないのですが……此れも仕事です。」


 少し怖い顔で私に視線を向けている。


 はぁ……仕方ないわね。

 確かに仕事だものお供するしかないか……


「わかりました……」


 丸岡さんは満足そうに微笑みながら頷いていた。


 …………これが一昨日の話し……そして今、洋館の二倍…いいえ三倍近く有りそうな英国風レンガ造りの東條邸の前に立っていた。


 ゆっくりと木製の重厚感のある玄関ドアが開いた。

 ……目線の高さに誰の姿も映らない……ん?

 ドアが勝手に開くわけないわよね……


「たっちゃんだ。」

「うん、たっちゃんだね。」


 下から可愛い声が聞こえ視線を落とすと男の子と女の子が立っていた。


「相変わらず小ちゃいな…海斗かいと波留はる。」


 二人は仔犬が戯れるみたいに飛びつき両側から天使のキスを彼の頬にした。


 ……可愛すぎる。

 一枚の絵になりそう……


 そして車椅子を二人で押し中へ入って行く。


「あっ…私が……」


 振り向いた天使は怪訝そうに見上げお互い顔を見合わせ首をかしげると声を合わせて〝誰?″と言った。


「初めまして松本薫と言います。」

「薫?」

「薫……」

「……僕の世話をしてくれている人だよ。

 今日は丸岡が来れないから彼女にここまで連れてきてもらったんだ。」

「ふ〜ん…じゃあ薫も入っていいよ。」

「いいよ。」

「ありがとうございます。」


 二人の天使に礼を言うと奥から声がしてゆりなさんによく似た女性が現れた。


「……竜也さんいらっしゃい。」




 ◆◆◆◆◆




 リビングに案内されると既に東條一族が集まっていた。


「……僕たちが最後か。」


 どことなく彼も緊張しているのか表情が引き締まって見えた。

 私は引きつっていたけど……


 ……しかし、家具や調度品は勿論だけどそこに集まっているセレブ達の煌びやかと言ったら目がくらむわ。

 付き添いとはいえ自分が同じ空間にいるなんて信じられない。

 ……貴重な体験と言っていいのかしらね…?


「父と母だ……」


 そして彼は一人ひとり紹介し始めた。


 東條範之とうじょうのりゆき氏は人懐こい笑顔を見せ息子の世話をしてくれる事をねぎらう言葉をかけてくれた。私の勝手なイメージでは眼光鋭い社長然とした近寄り難い人物ではないかと想像していたが180度違った。

 彼が母だと言った女性は名前を成美なるみさんといいゆりなさんの母親でよく似ている。……でも、随分と控えめな感じがした。

 後妻という事がそうさせているのだろうか?

 次に紹介してくれたのが長男の東條雅之とうじょうまさゆき氏と妻の雛子ひなこさん。雅之氏も私の前まで来てにこやかな表情で歓迎してくれた。妻の雛子さんはその後ろに控え微笑みながら挨拶をしてくれた。

 ……雅之氏と彼はあまり似ていないように思えた……彼はどちらかと言えば細っそりした輪郭で目が大きく少年のような笑顔をつくる頬はふっくらとしている。しかし兄の方はややエラの張った四角い輪郭で鼻が大きく目はキリッとした切れ長だ……父親の範之氏に似ている。

 ……彼は母親似なのかもしれない。


 次に紹介されたのが雅之氏の長男16歳になるあきらさんだった。

 読んでいた本を開いたまま顔を上げペコリと頭を下げた。……神経質そうな薄い唇に笑みを浮かべ思春期の少年らしいぶっきらぼうな挨拶だ。

 次に彼は奥の方に視線を移し姉の東條香澄とうじょうかすみを紹介してくれた。

 彼女はソファに座わって片手を挙げ〝宜しく″といい、まだパーティーも始まっていないのにワインを飲みながらスマホをいじっていた。

 彼女は父親とも兄とも似ていない……かと言って弟の彼にもあまり似ている所が無いように思う。やや大き過ぎる口に尖った顎…それに似合わないクルリと丸い目……アンバランスな感じがするけどそれが魅力かもしれないわね……

 そして、出迎えてくれた二人の天使は香澄さんの子供で二卵性双生児の海斗君と波留ちゃん7歳だ。

 二人とも色白でクリクリした目がとても可愛い……


 そこへ…今日の主役である雅之氏の娘、東條彩香とうじょうあやかがドレスアップして登場した。


「うわっ!竜也君来てくれたんだ。」


 小走りで駆け寄りはにかむ様な笑顔を見せて彼にハグをする。


「彩香、14歳のお誕生日おめでとう。」

「ありがとう……うれしい。」


 私は驚いた。

 叔父と姪なのだから似ている所があってもおかしくはないが、この一族の中でこの二人が一番顔が似ていた。


「……此方は?」


 まだ穢れを知らないあどけなさが残る美しい顔が不思議そうな表情を見せて私を見た。


「…世話をしてくれている松本薫さんだよ。」


 形の良い唇が蕾の花が咲くように開いた。


「あっ…丸岡さんが来れないって……そう……彩香です。初めましてこんにちは。」

「初めまして…本日はお誕生日おめでとう御座います。」

「ありがとう。薫さんも楽しんでいってね。」


 ……笑った顔をも似ている。


「……全員紹介も終わりましたわね。

 パーティーまでまだ時間があるのでもう少しお待ち下さい。」


 そう雛子さんが言うと義母の成美さんと一緒にリビングを出て行った。


 もう一度集まった面々を見ると私はおかしな事に気付いた……ゆりなさんが居ないのだ。

 家族全員が集まっているのに何故?……初めての人の中で彼以外ゆりなさんが頼りだったのに……

 私は彼の耳元に顔を近づけて聞いてみた。


「あの……今日、ゆりなさんは?」

「ゆりなは……家族全員が集まる場所には来ない。」

「えっ?」


 すぐに理解できない私に少し寂しげな瞳を見せて……


「遠慮……かな。……いつも理由をつけては来ないんだ。」

「遠慮って…ああ……」


 後妻の…しかも連れ子のゆりなさんには血の繋がりの無い兄弟の中に入るのは躊躇いがあるんだ……明るくイタズラ好きの彼女にもそういう部分があるのだと知り何だかせつなくなってしまう。


「まっ、僕も兄や姉とは半分しか血のつながりは無いけどね。」

「はっ?」

「母が違う……」

「えっ……あの…」


 詳しく聞きたかったけど皆んながいる所でこれ以上は憚りがあると思い言葉をのんだ。


 憂いのある横顔。


 ……そして戸惑っている私の顔をジッと見つめ彼はクスクスと可笑しそうに笑い始めた。


 ……えっ…ここで笑う?


「子供の頃は随分気兼ねしてたけど、今はどうでもいい事だから気にして無いよ。」


 そう言うとソファに座っている姉の香澄に近づき何か話し掛けている。そこへ二人の天使がまた仔犬のようにじゃれつき何だか楽しそうだ。


 ……からかわれた…の?

 何時もならこんな風にからかわれたら腹が立つんだけど、内容が繊細なだけに怒る気にはなれなかった。


 ……でも、母親が違うという事は父親の範之氏は三度結婚したって事よね……

 だから上の二人とは歳も離れているし顔も似ていないのか……なんか複雑で益々気を遣いそう。……でもほんの数時間だから乗り切れるわね。




 ◆◆◆◆◆




 パーティーが始まった。

 私は手伝いをしようと申し出たが、今日は誕生パーティーの出席者の一人として一緒に娘を祝って欲しいと雛子さんに言われ戸惑っていると、彼も折角だからと言い、場違いな気もしたがテーブルにつく事にした。


 ダイニングの電気が消され二人のお手伝いさんが、有名パティシエに作らせたという大きなバースデイケーキを運んで来て彩香さんの前に置いた。

 14本のロウソクに灯った火を一気に消そうと思いっきり息を吹きかける。

 祝福の言葉を皆んなから掛けられ彩香さんは頬を染め誇らしそうに一同を見回した。


 最初にプレゼントを渡したのは双子の天使二人だった。其れから次々と渡され嬉しそうに受け取る姿は輝いていて……若いって良いなぁ…なんてね。

 14歳の少女のまだあどけなさが抜けてない…でも幼くはない。

 大人へと変貌する扉の前に立って期待や不安に胸を膨らませている…まだアンバランスであやうい感じが眩しいのかもしれない。


 私にもこんな時があったんだよなぁ……

 遥か昔だわ……


 ……所でこんな風にパーティーに参加するとは思わなかったのでプレゼントを用意していなかった。

 今から買いに行くわけにいかないし……どうしよう。


 悩んでいる私の前に東條家お抱えのコックが腕によりをかけた料理が並べられ、その繊細な盛り付けと味付けに感動し、暫しプレゼントの事を忘れて舌鼓をうった。


 私の隣には成美さんが座っていて気を遣って話しかけてくれた。

 その会話の中にゆりなさんの事も出てきて〝娘がお世話になったそうで、薫さんの事は聞いていました″と、少し声のトーンを落として周りを気にしながら言っているのが印象的だった。

 血の繋がりがないといえ其処まで家族に気を遣わなければいけないのかと、成美さんと此処には来れないゆりなさんが不憫に思えた。


 食事も済みバースデイケーキも食べ終わると全員でリビングへ移動し、大人はワインやウイスキーなどそれぞれ寛ぎながら好みのお酒を飲み始める。

 彼はワイン、私はアルコールは強くないので遠慮し烏龍茶を出してもらった。


 旭さんは存在感たっぷりのグランドピアノの椅子に腰掛け本を読んでいる。

 彩香さんは貰ったプレゼントを開けていてその両脇に海斗君と波留ちゃんが目を輝かせて一緒に中身を確かめている。


 祖父母の範之夫妻からはネックレスだった。

 ダイヤモンドだろうか?……神秘的に光っている。

 ……14歳の少女にダイヤモンド……この年齢の子供に贈る品にしては高級すぎる。私は半ば呆れたようにでもちょっぴり羨ましくもあった。


 父母からはブランド物のバックと靴。

 兄の旭さんからは彩香さんの好きなバンドのコンサートチケット4枚。


「うわぁ!……お兄ちゃんよく手に入ったわね。……ありがとう。」

「……誰か大人と一緒に行くんだぞ。」


 恥ずかしいのか分からないが本で顔を隠したまま兄らしい一言を付け加えている。


 次は叔母の香澄さんからで、日本では手に入らない海外ブランドの香水。

 そして、双子の天使からは抱き枕にもなりそうなクマのぬいぐるみ。


 最後に開けたのが彼からのプレゼントでノートパソコンだった。


「あっ!…最新型のだわ。」

「欲しいって言っていただろ。」

「ありがとう竜也君……大事に使うね。」


 ここで私はプレゼントを用意していなかった事を謝った。


「そんな事気にしないで……まさか参加させられると思わなかったんでしょ。」

「でも……」


 確かにそうで仕方がないのだけど私一人何も無いっていうのは流石に恥ずかしかった。


「……そうだ!

 そう思ってくれるならコンサートに保護者として付き合ってくれる?

 ママはこういうの好きじゃないし……助かるんだけどな……」

「構わないけど……其れでいいのかしら?」


 彩香さんは其れがプレゼントになるからと言いその言葉に甘える事にした。


 と……此処までは良かったが大人達のお酒が進むにつれその場の空気が変化していった。


 パーティー前から飲んでいた香澄さんに双子の天使が〝……ママ、お酒たくさん飲むと頭痛くなるよ″と忠告され、〝子供は大人のする事に口出さないの″と若干舌をもつれさせながらたしなめた。

 それを旭君が軽蔑した様な視線を送ったのが気に入らなかったのか絡みだした。


「旭…あんた高校さぼりがちなんだって。」


 その言葉に敏感に反応したのは本人より母親の雛子さんで、サッと蒼ざめ範之氏を気にしながら引きつった笑みを浮かべた。


「何をおっしゃるの香澄さん。」

「あら、事実でしょ……知り合いの学校関係者から聞いたんだから間違いないわ。」

「……学校関係者って…何だか曖昧で胡散臭い感じがするけど……」


 鼻で笑う兄嫁に自分が胡散臭い人間だと言われている様に感じたのか、目を吊り上げて更に旭さんの事を言い出した。


「……補導された事も何度か有るみたいじゃない。其れに成績の方も……まぁ、そんな乱れた生活してたら落ちるわよね。」


 雛子さんは蒼ざめた顔から赤くなりこめかみの血管か浮き出てヒクヒクしていた。


「いずれは東條グループのトップに立つ身が其れで大丈夫なの?」


 息子を馬鹿にされ悔しそう唇を噛んでいる。そして息子を擁護しようとしない夫雅之氏を恨めしそうに見つめた。


「あなた……」

「ほっとけ。」


 当の本人はというと、たまに本から目をあげ叔母と母の言い合いを冷めた目で見ているだけだった。


 ……自分の事で母親が責められているのに何とも思わないのかしら?


 双子の天使は母親が酔っぱらい喧嘩しているのが恥ずかしいのか怖いのか、ピアノの下に潜り込み、向き合ってお互いの耳を塞いでこの険悪な時間が過ぎるのを待っている様だ。


 彩香さんは、また始まったとでも言いたげに美しい顔を曇らせ溜め息を吐いていた。


 そして彼はというと止める気もない様で二人の喧嘩を冷静に……でも少し面白がっているのか口元が笑っている様に見えた。


 私は口を挟める身でもないので、ただ彼をチラチラ見ては何処までエスカレートするのか心配で仕方なかった。


 ……誰も止めに入らないの?


 そして……雛子さんの反撃が始まった。


「……香澄さん、私の躾がなっていない様におっしゃるけど人の事言えないわよ。

 海斗君と波留ちゃん来るたびに悪戯しては何かしら壊していくけど、一体どういう教育をしているのかしら……」


 酔ってほんのり赤い顔が更に赤くなり兄嫁を睨みつけた。


 雛子さんは続けて今日も自分が大切に育てていた花壇の花を引っこ抜いてメチャクチャにしたと言い、そして親の反対を押し切って勝手に結婚して、その相手とは二年で離婚……そんな母親だから子供がよその家に来て好き放題するのだと言い放った。


 香澄さんは唇を震わせワイングラスを手に取ると雛子さんの顔めがけてかけた。


「きゃっ!…何するの!」

「ふん…その汚い口をアルコールで消毒してあげたのよ。」


 慌ててタオルを持って来た成美さんは蚊の鳴くような声で〝もうやめて下さい。″と言った。

 其れを聞いた香澄さんは〝母親でもないのに口出さないで!″と睨みつけ、成美さんは怯えた小動物みたいに身体を縮ませた。


「香澄姉さん……言い過ぎだ。

 血の繋がりが無くとも成美さんは母親です。」

「庇うのね……財産狙いの女の事を……

 まぁ、竜也の母親も」

「僕の母が何か?」


 冷めた声で次の言葉をさえぎり静かな笑みを見せる弟を不気味そうに見て、そして落ち着きなくソファに座り空のグラスにワインを注ぎ一気に飲み干すと、先に休ませて貰うと言ってリビングを出て行った。


 雛子さんは顔にかかったワインを拭き汚れたブラウスを悔しそうに見て、自分も失礼すると言い後のことを成美さんに頼み出て行った。

 ……リビングに静けさが戻った。

 夢から覚めるみたいに瞬きをして、ホッとした様に身体の力を抜くと成美さんは家政婦を呼び床に溢れたワインを拭かせ、空いたグラスを片付けさせた。


 範之氏は最初に挨拶した時の人懐こい表情が嘘の様に、苦虫を噛み潰した表情をしてウイスキーを飲んでいる。


 ピアノの下に身を潜めている双子の天使に近付いて声を掛けた……目を潤ませていて私が微笑むと抱きついてきた。


 彼は喧嘩の原因だった旭さんに大丈夫かどうか聞くと、読んでいた本を閉じ〝いつもの事だから……″と言い、呆れた様に二人が出て行ったドアを見つめた。


「……彩香の誕生日なのに…困った人たちだ。」

「いいわ……仲の悪さは知っているし、その内……」

「その内……?」


 聞き返した彼を凄く大人びた表情で見つめ、そして微笑んだ。


「……無意味だって事を知るわ…喧嘩する事……」


 何だか誤魔化した様に感じるのは私だけだろうか?

 彼も違和感を感じたのかさっきまで見せていた温かく優しい視線を微かに曇らせていた。


「……全く顔を合わせればこうだ。女って奴は……」


 面倒くさそうに雅之氏が言った。

 自分の妻や息子が妹になじられたのにまるで他人事……この人にとって家族とはどういう位置にあるんだろう?


「……パパは…いつもそうね。」


 感情が伝わってこない冷めた声。


「何が言いたい。」

「別に……」

「言いたい事が有るならはっきり言いなさい。」

「……どうせ理解できないでしょ。」

「何ぃ…」


 瞳に怒りの色が浮かんだ。


「兄さん。」


 彼は激昂しそうな雅之氏へ穏やかに声を掛け首を振った。


「彩香……時間も遅い…海斗と波留連れてベットに入った方がいい。」


 雛子さんと香澄さんのバトルの次は父と娘かとヒヤヒヤしたけど、如何やら此方は燃え上がる前に鎮火した。

 しかし……火種は身体のうちに燻りいつか一気に燃え上がるのではないか……そんな不安が私には拭えなかった。


 彩香さんは彼の言葉に素直に頷き、車椅子の横にしゃがみ〝お休みなさい″と言った。


 雅之氏は並んだ二人をとても不愉快そうに目を細めて見ている。


「……そう並んでいるとお前たちは本当に似ているな、私には似た所など一つもないのに……まるで、」

「雅之。……少し飲み過ぎではないか?」


 範之氏が口を挟んできた事が不快なのか眉を寄せている。

 しかし、鋭い眼光の前で蛇に睨まれたカエルの様に固まり顔をそらした。


 彼は彩香さんに目配せすると彼女は双子の天使を連れてリビングを出て行った。

 その後を旭さんが馬鹿にした様に口を横に曲げ大人たちを見回し出て行った。


 東條家のギクシャクした関係を目の当たりにして私は見守るしかなかったけど、パーティもお開きのようだし時間も遅い……そろそろ私たちも失礼して帰れるだろうと思ったが……甘かった。

 成美さんが離れを泊まれる様に準備していたからと言いだし、彼は一瞬難しい顔をしたが〝では、甘えさせて貰います。″と応え、想定外の事態に私は表面上にこやかにしていたけど、心の中では情けない顔をしてうな垂れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ