5話
黙ったまま下を向く和也の両親の顔が目に浮かぶ。
屋上から見える景色は明るい光の世界でもなく暗い闇の世界でもない。
どんよりとした鉛色の世界。
-いっそこんなことなら-
私は屋上の手すりに手をかける。
体が少し浮いて手を離せばいつでも落ちることができる・・というところで私は背中に温かさを感じた。
忘れもしない、和也の温もりが。
『かず・・や・・?』
問いかけようと振りかえると少しだけ和也の姿が観えた気が・・・した。
それは私を包むように残像となって消えてしまった。
そして遠くに和也がいる気がした。
私は手すりにかけていた足と手を離して和也を追いかけた。
『行かないで・・!!!』
和也に手を伸ばしても触れそうで触れない距離で消えてしまう。
まるで蒼いバラの花吹雪のように私に降りかかる。
その先には和也が切なくほほ笑んでいて・・・・。
もう一度彼に貰った指輪に触れてみる。
冷たかった指輪は少し温かかった。
まるで和也が傍にいるように感じた。
膝に置いてあった携帯電話が微振動をして”新着メール1件”の文字が画面に映る。
開くとそれは和也からで件名がない ただ
「愛してる」
の一言だった。
私の中の何かが弾けたように目からは涙が零れた。
それは留まることを知らず、溢れては落ちていく。
私は彼を失ってから初めて声を上げて泣いた。
泣かないと決めた決意も涙で流れて消えてしまったらしい。
もう一度
彼に会えるなら・・私を抱きしめてほしい。
fin.