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季節巡り

作者: ぽん太

春。

あたたかな日差しの下で、芽が起きる。

日の光を浴びようと、花々が咲き誇って、寵を競う。


太陽光があらゆる隙間からさしこんで、僕にも朝を告げる。

ああ、君はなんて残酷なのか。

やわらかな光は僕を外へと誘い出す。

いつまでも、外から閉じこもっていたいのに。


巣の中にこもって外界から目を閉ざそうとしているのに。

両手で耳を塞ごうとしているのに。

光は目蓋を越えて、僕の視界に届くのだ。

光に誘われた小鳥たちの囀りが、手のひらを越えて、僕の聴覚を刺激するのだ。

外へと。


僕はここにいたいのに、ここはもはや、僕の巣の中ではない。

春が来て、日が差し込み、植物が芽吹き、小鳥たちは歌い出して、

僕の、

薄暗くて、何もない、静かな巣は、

なくなってしまった。



ああ、春の日よ、

春陽よ。

君はとても残酷だ。


外へと。

君は、僕を、強制する。





夏。

青空のもと、成鳥が空を舞う。

春を寝過ごしたセミたちが合唱を繰り広げる。


新緑が僕の目を覆う。

ああ、君は、なんて容赦がないのか。

それでも突き刺さる夏の日差しは、勇気をふりしぼって踏み出した僕を、巣の中へと追い立てる。

それなのに、君は僕に、再び眠ることを許さない。


針が降ってくるかのように照りつける光から逃げようと思うのに。

夏の暑さから逃れて、巣へと戻ろうと思うのに。

覆いかぶさる新緑は、眩しすぎる日差しを遮って、優しく光を届けようとするのだ。

巣の中にあっても暑さは和らがず、涼やかな風の吹く場所へと、僕を誘うのだ。

外へと。


僕の居場所は、外にはないというのに、巣に戻ることさえ許してくれない。

夏の中、日差しが照りつけて、新緑が視界を埋め、鳥が空を舞い、

僕は、

光に傷めつけられることのない、

穏やかな居場所を求めてさすらう。


ああ、夏の日よ、

夏陽よ。

君は本当に容赦がない。


外へと。

君は、僕が、逃げることさえ許さない。




秋。

木々が色づいたかと思えば、葉を落としてぽっかりとした穴を覗かせる。

雁渡が吹いて、枯葉が舞い、空一面を色で染める。


さすらう僕の心をさらうように、空高く舞い上げる。

ああ、君はなんて移り気なのか。

秋風が僕を、秋の爽やかな日差しのもとに運んだと思えば、あっという間に追い立てる。

愚かな僕は、君が居場所に導いてくれたのだと、思ってしまったのだ。


ここを新たな住処にしようと思ったのに。

心地のいい居場所をつくろうと思ったのに。

秋の日差しは僕を迎え入れようとはしないのだ。

野分は心地よさもろとも吹き飛ばして、他の場所に行けと、迫るのだ。

外へ、外へ。


連れて行かれたそこに、新しい巣を築こうと思うのに、そこは僕の場所ではないと、さざめきながら僕を飛ばす。

秋が過ぎ去ろうと、風が木の葉の絨毯を織りあげて、いたずらに陽が差しては遮られ、枝葉の継ぎ接ぎに穴があいていって、

僕は、

日の光が心地よくそそぐその場所に、安住の地を求めても、あちらへ、こちらへと、追い立てられる。


ああ、秋の日よ、

秋陽よ。

君はたいそう移り気だ。



外へ、外へ。

君は、僕を連れ出すのに、一処に落ち着くことを認めない。




冬。

木枯しが吹いて、何かきりりとした青空が広がる。

あたたかな陽だまりに、ほんのひととき霜が残る。


凍るような雨が降りそそぎ、時には雪に姿を変えて、僕の体を芯から冷やす。

ああ、君はなんて優しいのか。

しんとした空気の中、僕をそこに留めようと、手足をかじかませて、天然の檻に閉じ込める。

ここがお前の場所なのだと、僕を雪の中に埋めるのだ。


体は動かないから、自分で巣をつくることはできないけれど。

自分の居場所のはずなのに、自分では選べなかった、その場所だけれど。

それでも降り積もった雪は黙して語らず、日光は遮られて届かない。

寒風からも守られて、冷たさで足が地に縛られた僕の上に雪が積もるから、僕は深く深く沈んでいく。

内へと。


引き入れられたそこは、予想外にあたたかい。僕を歓待するかのように。

冬を迎え、雨に濡れて、木枯らしにさらされ、踏まれた霜柱が健気に小さな声を上げ、日差しが雪を美しく煌めかせているけれど、

僕は、

暗い雪の中、池にはった氷が割れる音を聞くことも、澄んだ青空を見ることもなく、閉じこもってうずくまる。


ああ、冬の日よ、

冬陽よ。

君は途方もなく優しい。


家へと。

君は、僕に、居場所を与え、外界から隔ててくれた。




























なのに、なぜだろう。

僕の心に大きなく空洞が広がって、存在と存在の境界がわからない。




















































ああ、そうか。

君たちは、僕に、『孤独』を伝えたのだ。



太陽光は、もう、僕を照らさない。









再び春が、来るまでは。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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