βー2
俺は時計を確認した。あと三十分は平気だろう。そう思い、寝転がり、料理雑誌を広げたとき、屋上のドアが開く音がした。俺の場所からはドアは死角であるため、誰が来たのか解らなかった。が、しかしかなり高確率で岩崎だろう。今日は早かったな。あきらめて雑誌を閉じたが、岩崎どころか人影自体なかなか現れなかった。
俺がその人物の姿を拝めたのはその人物が屋上の端にあるフェンス付近に歩いてきたときだった。相手は俺の存在に気がついていないらしい。その姿は岩崎に見えないが、女子であることを制服が物語っていた。そして上履きの色を確認。俺たちと同じ一年であることが解った。
しかし屋上に何の用があるのか解らなかった。先ほども言ったが、この時間に来るやつはほとんどいない。怪しいな。俺がしばらく様子を見ていると、あにはからんや、突如として、その女子は奇声を上げた。そして次々と電波に乗せることのできないような罵声をはきまくった。中には特定の人物を思わせるものもあった。
一通り悪口を言い終えた女子は、肩で息をしたまま、やおら、フェンスを登り始めた。このあたりで俺は見かねて少女に近づいてその背中に話しかけた。
「飛び降りるつもりか?」
少女は振り向いた。が、返事はない。俺は大人な意見を述べさせてもらう。
「飛び降り自殺はお勧めできない。これは周りの人にかなり迷惑をかけうるからだ。降りたところは敷地内だから、近隣の住民には迷惑かけないが、学校関係者・警察関係者には少なからず迷惑にかけるはずだ。掃除しなきゃいけないし、その前にここまで来なくてはならない。おそらく授業は急行になるだろう。どうしても自殺したいなら薬にしておけ。睡眠薬なら文字通り眠るように死ねるはずだ」
ここまで言い終えてもまだ返事がない。さてどうしよう、と思った矢先、かすかに聞こえる蚊の鳴くような声でこう言った。
「あたしが何したって言うのよ」
そういうとその少女は目から大粒の涙を流し始めた。これにはさすがの俺も慌てたね。とっさに謝ったが何の効力もなく、ダムが崩壊したかのように流れ落ちる涙はどんどん量を増していった。最初はむせび泣いているようだった声も涙とともに大きくなる。結局俺はどうしていいか解らず、その場に立ち尽くしていた。




