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α―19


 心も身体も重かった。今日ほど学校に行きたくない日はない。


 昨日、山内がいなくなってから、あたしはずっと学校の周りを走り回っていた。だけど結局阪中を見つけることができなかった。それどころか、成瀬も岩崎さんも、山内も見つけることができなかった。あたしは山内の制裁を止めることができなかった。


 今日はやりきれない気持ちで心の中がいっぱいになっていた。行きたくない。そんな残酷な現実見たくなかった。だが、あたしが休むと誰かが犠牲になってしまう。 


 このジレンマに苛まれながら、重たい身体を引きずり、学校に到着した。また地獄のような一日が始まる。そして新たに加わるであろう嬉しくない情報。教室に入ると、


「おはよー」


 本来なら普通である朝の挨拶が、あたしにはまるで関係ない。遠い過去の話のような気がする。


「あの・・・・・・」


 あたしはこのときふさぎこんでいて、全く気付いていなかった。心ここにあらず、って感じだった。


「あの、おはよー、日向さん・・・・・・」


 えっ?あたし?


 あたしは驚きのあまり、すっげー勢いで振り返ってしまった。


「あ、日向さんおはよー・・・」

「・・・おはよ」


 えっ?本当にあたしに言ったの?混乱しまくっていて、全然愛想よくできなかった。何?いったい何が起きてるの?これは何かのドッキリ?


 そのあと、幾度となく挨拶してくれるクラスメートにどんどん混乱の渦に飲み込まれてしまって、ドア付近で立ち尽くしていた。


「あの、日向さん?」


 はっとして、意識を取り戻すと、目の前には阪中がいた。ただの間抜けに成り下がったあたしが最初に言った一言は、


「これ、どうなってんの?」


 今まで全く話しかけてくれなかったクラスメートが、朝の挨拶をしてくれているのだ。本来ならば喜ぶべきところだが、はっきり言ってどうしたらいいのか解らなかったのだ。


「ごめんなさい。今まで、本当に・・・」

「全然!気にしてないよ。あたしこそ・・・。あたしに関わったせいで事件に巻き込まれちゃって。ってあれ?もしかしてこれって・・・」

「全部解決したみたいですよ!」


 あたしは阪中に教えてもらうと、すぐさま、机の中を見に行った。そこには手作りの新聞みたいな、カラーコピーで印刷されたプリントが入っていた。そこにはTCC新聞と書かれていて、一番の大見出しには『いじめ解決!黒幕は山内氏』となっていた。


『二ヶ月も続いていたいじめが、ついに!TCCの手によって見事解決!黒幕である山内氏を反省させることに成功し、謝罪させることにも成功した。もしまた彼の手によっていじめが行われるようなことがあったならばこの新聞を見せつけてやって下さい。それでも効き目がない場合は我々にご一報を!』


 と書いてあり、カラーコピーで貼り付けてある写真は土下座で謝っているところや、恐怖に怯えているものであり、鮮明に表情が見て取れた。そして末尾には注があり、『動画が見たい人はTCCまで』と記載してある。


 これを見て、まずあたしはほっとした。成瀬と岩崎さんは無事だったようだ。制裁を受けなかったようだ。よかった。


 改めて見てみると、山内はとてもひどい格好をしていた。なんだ、こりゃ。涙と鼻水で顔がすごいことになっている。そんなに怖いことがあったのか。でも少しも同情する気にならないね。あんたはそれだけのことをしたってことだ。これで少しは反省してほしいね。                              

 それからクラスのみんなはあたしに代わる代わる謝ってきた。みんな真剣に謝ってくれたから逆に恐縮してしまった。悪いのは山内であって、みんなじゃないんだ。そんなに頭を下げられるとかえって後ろめたくなってくる。


 それにあたしもみんなに迷惑かけた。あたしのせいでみんなを危険な目に合わせてしまった。本当に申し訳ないと思った。


 一つ、山内に感謝したいことがあった。それはクラスメートが本当はいい人だということがはっきりと理解した。みんなは本当にいい人だった。この学校に入りたてのころ、みんなのことをよく知らないにもかかわらず、バカにしていたことを心から詫びたくなった。本当に申し訳ない。


 この事件はとても苦しくつらかったが、学んだことも多かった。日本の高校に学ぶべきことなんて何一つないと思ったが、実際は無限にあった。正直、あたしがどんなに世間知らずで、どんなに無力であるかをまざまざと理解することができた。おじい様の言っていたことは真実だったね。おじい様には悔しいが感謝をしなければならないな。


 今日は久々にいい一日だった。久しぶりにたくさんの人と話した。楽しかった。退屈そのものだった授業も、今日に限ってなかなか悪くないと思えた。本当にいい一日だった。


 あっという間に、過ぎていった一日だった。あっという間に放課後になった。何か今日が永遠に続けばいいと思ってしまうほど、楽しかった。明日もこんな一日になってくれるだろうか?


 でも、あたしにはまだやることが残っている。それは今日楽しく過ごすことができた、一番の要因であり、今回の事件、一番感謝しなければいけない人たちに会いに行くことだった。あたしは、ちょっと前まであたしの居場所だった、あのにぎやかな部室に向かった。


 そういえば、結局山内は来なかったな。いったいどうしたんだろうか?


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