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β―18


 調査とは言ってもできることなどほとんどない。せいぜい日向に張り付いて怪しい行動をとるやつがいないか見張るくらいしかない。クラスの連中は何も答えてくれない。協力者は知らないという。がっかりだ。


 だが、全く使えないというわけでもなさそうだ。おそらく無意識的だろうが、俺にとって有益な情報がいくつか入ってきた。まだはっきりしたことは言えないんだけど。


 正直な話、証拠なんてものは出てきやしないだろう。そりゃ事件自体は簡単なものだし、首謀者は所詮高校生。決定的な証拠を完全に処分できているはずなど、ありはしない。ただ、それは警察が動いているときの話である。事実、現在警察は動いていない。当たり前だ。殺人事件や強盗などが起きたわけではない。


 かと言って、俺たちだけで証拠を探せるかというと、それは愚問である。確実に無理だ。まあ世間的に言えば、この程度の事件、警察の手を煩わせるほどのことではないのだろう。この事件の本質に関係してるのは、一人の少女と、まだ限度を知らないわがままな子供が一人。死者も出ていない。到底重犯罪だということができない。


 斉藤のことは事件と言えるし、軽い犯罪であるはずがないのだが、このいじめと関係が証明できない以上、警察に訴えてもスルーされること請け合いなのだ。


 そうなると我々に残された手段はおのずと限られてくる。この手は前回も使ったな。


「成瀬さんは今何を考えてるんですか?」


 相も変わらず、現在TCCの部室で、放課後である。そして岩崎と二人。


「俺が今考えなきゃいけないことはあまりないな」

「そんなの解ってます!日向さんを救う手段についてどういう考えをもっているか聞いているんです!」


 悪いが俺はマインドスキャンは心得ていないから、お前の言いたいことを逐一把握してやれないんだよ。このセリフは前にも言ったな。言った相手は違ったが。


「実際どうなんですか?黒幕の正体はおおよそでも掴めているんですか?」


 ぶっちゃけると、俺たちは日向のクラスの連中全員の話を聞き終えていた。協力してくれた者がほとんどだったが、協力してくれなかった者もいたな。はっきり言ってトラウマに近いものを感じる。将来、警察や探偵にはなりたくないな。


「まあだいたいはな。全然証拠はないが」


 岩崎は、証拠はない、というところで少し顔をしかめた。


「それはなかなかいい感じですが、それって勝てるんですか?」


 先ほども言ったが、勝つ方法もある。


「その方法を今考えてる。なかなかいい方法がないからな」


 いくつか方法はあるのだが、実際へまをやるわけにはいかないから、なるべく勝率が高いものを選びたい。


「なあ、聞きたいんだが」

「何ですか?」

「斉藤や横山みたいに実力行使に出るとしたら、黒幕は現場にいると思うか?」

「黒幕のタイプによると思います。肉体派だったら出てくるんじゃないですかね」


 それならばいいんだが、これも可能性の話になってしまう。こっちの場合、失敗は許されないのだから運頼みみたいな方法はできるだけ避けたい。まあ下っ端を問い詰めればいいのだが、そんな拷問じみたマネもできるだけ避けたい。というか面倒だ。どうせだったら一網打尽にしたい。そっちのほうが一発で終わって楽だ。何とかして黒幕を引っ張り出したいのだ。


「つまり成瀬さんは現行犯を狙って罠を張りたいとお考えなわけですね」

「そういうことだ」


 岩崎は、そうですねぇ、と言って黙り込んでしまった。相手もこれだけ事件を起こしながら、決定的な証拠を未だ残していない。多少なりとも頭が切れるやつだということが窺い知れる。それを上回るような罠を張らなければ意味がない。というか、俺たちの存在を露呈してしまうから、簡単に言えば俺たちの負けである。


「だいたい狙われる人のタイプが解ってるわけですから、何とか予想したらいいんじゃないですか?」


 それであらかじめターゲットになりうると予想したやつを尾行して、現行犯で抑えるってか?もちろん冗談だよな?そんなむちゃくちゃな提案受けるわけがない。たとえそいつが絶対襲われると解っていても日時が解っていなきゃ、ただただ時間を浪費するだけだ。却下だ。


「じゃあ襲撃時刻も相手もこっちで作っちゃえばいいんじゃないですか?」


 ん?それは、なかなか名案だな。つまりこっちからある人物を日向に近づけてしまえばいいわけだ。そしてその事実を例の黒幕に教える。そうすれば次の日、少なからず近日中に処刑を決行するというわけか。岩崎にしては、悪くない発言だ。むしろいい。しかし、


「あんたもなかなかあくどいこと考えるな。要はおとりってことだろ?」

「悪いほうに捉えないで下さい。あくまで協力者を募るんです。それに何かを得ようとするには、それ相応の犠牲はつきものですよ」


 自己犠牲という言葉を瞬時に思い浮かべたが、そんなこと口が裂けても言うことができないので余計な発言は自重することにする。


「だが、それでは黒幕が来るかどうか解らないな」

「う・・・。確かにそうですね・・・」


 どうしましょう、とうなって、また黙り込んでしまった。


 しばらく考えていたが、どれもパッとしない。面倒だからさっさと終わらせてしまいたいのだが。もうすぐ師走だ。定期テストも待っている。こんな面倒なことにかまけている暇はないんだ。そろそろ切り上げたい。


「思ったんですけど・・・」

「何だ?」

「成瀬さんは黒幕が誰だか、大体検討が付いているんですよね?」

「まあな」

「じゃあこんなまどるっこしいこと考えてないで、直接呼び出してしまったらいいじゃないですか」

「さっきも言ったが、しらばっくれられたらどうするんだ?」

「だから――――すればいいんですよ」


 岩崎はまたしても名案を説いた。何だ、こいつ。今日はおかしいほど冴えてるな。喜ぶべきところなのかもしれないが、ちょっと不安になるのは俺の気のせいか?もしかして、


「実はあんたが黒幕なんじゃないだろうな?」

「・・・成瀬さん。それはもちろん冗談ですよね?」

 口は笑っているが、目は全く笑っていない。それどころか俺の目が正常ならば全く逆の感情がまざまざと浮かんでいる。


「もちろん冗談だ。我ながらつまらなかったな」

「本当です!全く笑えないです!この期に及んでまだそんな冗談言うなんて成瀬さんは頼もしいですねえ。私の助言なんて要らなかったんじゃないですか?」


 これ以上機嫌を損ねるとこの語の計画に支障が出るんじゃないかというくらい、恐ろしい表情で俺を威圧する岩崎。どうやら怒っているらしい。


「あんたにはいつも助けられてる。これからもそうだろうよ」

「本気に聞こえませんね」

「ついでと言っちゃ何だが、頼みごとを聞いてもらえるか?」


 俺のこの発言に、岩崎は少し驚いたような表情をしている。今まで俺がこんな改まって他の見事をしたことなどないからだろう。声を出さずに首を縦に振って肯定の意を表した。


「この計画を実行するに当たって、あんたの自慢の交友関係が必要になる」

「はい?」


 岩崎は理解できなかったようだが、時が来ればいずれ理解できるだろう。率先してそうしてくれるかもしれない。まあ何というか、長かったがたぶん、おそらく、明日で事件を解決することができるだろう。簡単にいくかはそのときの運しだいだろうが、うまくいくように手を尽くすしかないね。これでうまくいかなければツイていなかったと思うだけだ。


 もしうまくいっても、たまたまラッキーだったと思うだけ。俺たちの努力の成果とか実力とか、ましてや奇跡であるはずなど小指の先ほどもない。ただの偶然に過ぎないんだよ。



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