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β―17


 昨日、阪中の口から告げられたそいつは、なかなかのいい男だった。中身はまだ何とも言えんが、少なくても俺の知る世界では格好がいいと言える人物だった。


「申し訳ありませんが、少しお時間いただけますか?」


 放課後、突然押しかけてきた俺たちに対して、そいつは快く笑顔で応対してくれた。若干だが、笑顔の表情に警戒心が含まれていると感じられるのは、俺の気のせいではないだろう。なぜなら、


「私たちは、お悩み相談委員会、通称TCCのものですが、」


 と、前置きがあったのだから。俺だったらこんな意味不明な呼称を持つ団体の構成員に話しかけられたら問答無用で断る。この時点で人の好さが感じられる。


 放課後とはいえ、それなりに人の目があり、結構込み入った話をするため、大変申し訳ないのだが、我らが部室に任意同行してもらうことになった。



「そろそろ聞いていいかな?僕に何の用?君たちは何者?」


 もっともな質問だ。


 何も訳を言わずに部室に連れて来られて、紅茶などを目の前に用意されているのだ。聞きたいこともいろいろあるだろうが、この二つが一番の疑問なのかもしれない。


「改めて自己紹介を。私はTCC部長の岩崎です。こちらは成瀬さんです。私たちは先ほど申し上げたとおり、生徒たちの悩み事の相談を受けて、解決するための団体です」

「へえ。知らなかったな、そんな部活があったなんて」

「以後お見知りおきを。もし何かありましたら、伺いますが?」

「残念ながら、今のところ大丈夫だよ」


 質問に答えながら、宣伝をする岩崎に対して、特に感想はないようで、淡々と返事をしている。この辺りにも、人の良さを感じさせるね。俺ならば、ここで変なやつと断定していただろう。


「それで、僕に何の用?」


 ここからやっと本題に入る。俺たちの目的に関わることであり、人の目を気にしなければならないことだ。


「その質問に答える前に、まず私の質問に答えて下さい」


 返事はないが、聞こえているだろうし、表情に変化がないので、岩崎は肯定と判断したようで、質問を開始する。


「あなたのクラスの日向ゆかりさんが不当な扱いを受けているらしい、というのをご存知ですか?」

「・・・それはいったい誰がそんなことを言っていたんだ?」


 一瞬の間があった。その間に関しては人によって解釈が異なりそうだが、少なくとも驚いている様子である。その質問には、いじめの存在については全く知らなかったための質問というニュアンスではないような感じがした。


「私たちの下に、日向ゆかりがクラスメートからよくない対応を受けているから助けてやってくれ、といった内容の依頼がありました。誰かは言うことはできません。高校に所属している団体とはいえ、相談者のプライバシーに関わることですから、TCCには守秘義務がありますので。先ほどの質問に対しての返事ですが、今日あなたの前に参上仕ったのはこのことを聞くためです。それでこのことに関してご存知でしたか?」

「いや・・・。で、なんで僕なんだ?まさかうちのクラス全員にこうやって聞いて回ってるとか?」

「まさか。聞いた内容から推測すると、おそらく黒幕はクラス内の人物です。全員に聞いて回るわけにはいきません。相談者に、協力してくれそうな人を聞いたところ、あなたの名前を教えて下さいました」


 そいつは、なるほど、とうなずいて、しばらく考え込んでいた。そして、


「解ったよ。僕に何ができるか解らないけど、できる限りのことはしよう」

「ありがとうございます」

「で、さっそくだけど何をやればいいかな?」


 今できることなどあまりないが、俺の中に沸いた一つの疑問を早めに解消したいね。

 

 岩崎はそいつの質問を受けて、俺のほうを見る。俺に意見を求めているようだ。


「とりあえず早めに日向に接触しておきたいな。今から教室に行ってみよう」

「今から?もう放課後だし、いない確率のほうが高くないか?なら明日にでも会えば・・・」

「思い立ったが吉日と言うだろ?それにあまり人目がないほうがいい。授業がある間は接触しにくい」


 俺に意見にはどうにも賛成できないらしい。何やら理由があるようにも見える。


「何も今から呼び出そうと言っているわけじゃない。とりあえず教室に行こうと言っているだけなんだ。教室にいなければそれでいい。それとも今教室に行きたくない理由でもあるのか?」

「そんなことはないが・・・」


 挑発的なセリフだが、日も暮れてきたこの時間に水掛け論をするほど暇じゃない。


 この質問に対して、そいつは歯切れの悪い返答をしたが了解してくれたようで、一緒に教室まで同行することになった。そこそこ裏事情を理解している俺は、放課後日向が残っている可能性が高いことを知っていた。



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