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β―16

 授業が終わってから、三時間が経過していた。そろそろ部活動に勤しんでいた連中も仕上げに入り、グラウンドからは活気のいい声が聞こえなくなってきている。


 阪中が知っていること全て話したあと、俺たちはいじめの黒幕、並びに例の非通知の電話の主について考察をしていた。


 こんな時間まで残っていることから察しが付くだろうが、全く特定できていない。それどころか絞れてすらいない。阪中の証言により、少しは解決の方向に進み始めたはずなのだが、如何せん、俺たちには知らないことが多すぎた。


「それにしても不運でしたねー。教科書がきっかけで少し仲良くなれたのに、事件に巻き込まれてしまって。それは横山さんもですが。何か違ったきっかけだったら間違いなく今頃、良いお友達になれていたのですが」


 確かに。今考えてみると少し気になる。何か重要なことを忘れているような気がする。どうしてこういうときに何も閃かないんだろうか。自分の頭の悪さを呪いたくなる。


「いえ。近づいたなんてそんな。たぶん私が勝手に思ってるだけで、日向さんは私なんかと仲良くしようとなんて思ってないですよ。もしかしたら神様が近づくなと言っているのかもしれません」

「そんなことないですよ!日向さんはあれでなかなか、熱い人です。助けてくれた、親切にしてくれた、そういった恩は忘れない人です。だからきっと阪中さんとももっと仲良くしたいと思っているはずです。間違いありません!」

「そうだといいんだけど・・・。ところで日向さんとは知り合いなんですか?」

「はい。実はつい先日まで日向さんはTCCの会計を勤めていたんです。ですが、突然辞めてしまったんです。理由はよく解っていないんですけど・・・」


 いじめが何らかの理由にはなっていると思うのだが、原因であるかどうかは不明である。なぜ今までここに普通に来ていた日向が、突然辞めたのだろう。


 逃げ出したときもあったが、ちゃんと戻ってきたし、それどころか俺よりもやる気になって帰ってきた。さらに前日には、斉藤が巻き込まれた傷害事件が起こっている。どう考えても辞める時期に適しているとは思えない。むしろ率先して間違っていると言いたい。いったい何なんだ?似たような事件に、自分の知り合い、それもそこそこ深く関わっている人物が三人も巻き込まれているんだ。なぜここで手を引く?そりゃ、三人とも関わるようになってから日は浅いが・・・。


「そうか。そういうことか」


 ここに来て、ようやく理解した。疑問を突き詰めていけば簡単に解るものだった。


「何か解ったんですか?成瀬さん」


 俺の独り言に岩崎が反応する。阪中も首をかしげて俺を見ている。


「この事件は日向が中心になっている」


 俺のこの発言に二人は頭の上に疑問符を浮かべた。


「よく解りませんね。日向さんは事件に巻き込まれていないんですよ?それなのに中心ってどういうことですか?」


 俺は解りやすいように順序よく説明していくことにする。


「じゃあ横山と阪中が巻き込まれた事件の前日に何があった?」


 俺は二人に問いかけた。


「えーっと、事件の日は土曜日なので前日は金曜日ですね。その日は確か、部室で日向さんと三人で成瀬さんの手作り弁当を食べた日です」

「そうだ。放課後に何があった?」

「放課後ですか?」


 岩崎はうーん、とうなって、考え始めた。その日一日を振り返っているようで、ぶつぶつ口の中で呟いている。そして、あっ!、と胸の前で手を叩いた。


「そういえば、横山さんのラブレターを発見したのもその日でしたね!確か、日向さんは横山さんのことをご存じなかったようで、軽く特徴を話したら興味なさそうな顔をしていたのを覚えています!」


 あまり記憶しなくてもいいところを覚えているな。まあ、そんなことはどうでもいい。話を進めよう。


「あんたはその日何があった?」


 俺は阪中に話を振った。


「えっと、日向さんに教科書を渡したことしか・・・」 


 だんだんとパズルのピースが埋まっていく。俺は最後のピースを埋めるべく、もう一つ、岩崎に質問を投げかけた。


「じゃあ斉藤の事件の前日に何があった?」


 俺の質問にまた岩崎は思案顔になる。だが、さっきより時間的にずいぶんと最近の話だからか、早々に正解にたどり着いたようで、回答を口にした。


「そういえば斉藤さんと日向さんが放課後、教室の掃除をしていましたね!」


 掃除をしていたかどうかは怪しいが、二人で教室にいたのは事実だ。


「偶然だと思うか?」

「偶然じゃ、ないですよね・・・」


 ここまで説明すれば二人とももう理解できただろうが、俺はこれらのパズルの最後の一ピースに該当する言葉を口にすることにする。


「日向と、直接にしろ間接にしろ、接触したやつが事件に巻き込まれている。つまり日向に近づいたやつが事件のターゲットになっている」


 この事件の発端は全て日向にあったというわけだ。おそらくこの事件の黒幕はいじめの黒幕と同一人物で間違いない。この事件はいじめの延長線上にあったのだ 


「でも私たちはどうなんですか?こういうのもなんですが、時間だけ見ても、私たちのほうがお三方より圧倒的に日向さんと関わっていると思うのですが」

「確かにこれだけ速やかに関わった連中を狙っているにもかかわらず、俺たちには何のアプローチもないのは不自然だ。つまり俺たちと日向との関係はまだ知られていないってことだろう。だから日向はTCCを辞めていったんだ」

「どういうことですか?」

「日向も何らかの形で自分がこの事件の発端であることに気付いたんだろう。そこで俺たち同様、この不自然さに疑問を持った。そして、まだ俺たちとの関係を知らないに違いない、と推測し、ならば気付かれる前に関係を絶ってしまおうとした」


 日向の性格から、おそらく気付いたのは辞職宣言をした日の前日。つまり斉藤が事件に巻き込まれた日の解散後だろう。


 まだ謎は多いが、これで俺たちが進むべき道は決まった。やらねばならないことも結局元をたどれば一つだったようだ。


「この事件を解決するにはいじめを推し進めているやつを探し出して、そいつをどうにかするしかないな」

「ですが、いじめについて私たちはほとんど何も情報を得ていません」


 だが、いじめは確実に日向のクラスがメインで発生している。つまり日向のクラスに重点を置き、探りを入れれば何らかの情報は手に入れることができるはずだ。


「的が絞れれば情報を得ることはそんなに難しいことじゃない。情報が手に入れば、運がよければ犯人が解るかもしれないし、犯人が解らないまでも、それに通ずる手がかりが手に入る。少なくとも今までよりは数段調査しやすい状況にはなったな」


 俺自身はあのクラスの人間にあまり詳しくはないが、岩崎は、自称だが、人脈はあるようだ。その辺の情報の獲得は岩崎に任せるとして、他に新たな問題が浮かび上がる。


「相手は実力行使を辞さない。実際の数は解らないが、結構な数の人間を動かせるようでもある。これ以上被害を増やさないように行動しなければならない」


 二人はこの考えに異議はないようだ。


「とりあえずあんたはこれから事件が解決するまで俺たちと日向に近づくな。つらいかもしれないが、これ以上無茶をしても意味がないし、自ら遠のいた日向の意思を無駄にする」

「はい・・・」


 俺がこう言うと、阪中は少し考えるような顔をしたが、うなずいてくれた。いろいろ言いたいことはあるようだが、一応納得してくれたようだ。


 それで俺たちだが、


「一応聞いておくが、俺たちはどうする?結構危険な仕事も出てくるかもしれないぞ?」

「決まっています!事件解決以外に私たちに選ぶ道はありません!」


 岩崎からは予想どおり、男らしい返事が返ってきた。今回に限り、その男らしさは頼もしいね。まあ、時と場合によってはかなり厄介だが。


「すみません。私がこんな相談持ち込んでしまったために危険なことに巻き込んで・・・」


 今更だな。まあ実際、この事件に巻き込まれたのはもっと前からだったし、あの時ああすべきだった、と悩む時間があるなら、これからどうするか、悩んだ方がよっぽど有益だろう。さっさと解決したほうが教育上もいいだろうしな。おお!我ながら前向きだ。


「そんなことないですよ!私たちはお悩み相談委員会です!相談に乗るのが仕事なんです。それに阪中さんも巻き込まれた側の人じゃないですか!謝る必要はありません。あとは私たちに任せて下さい!必ずや解決して、日向さんを悪の組織から救い出してみせます!」


 無駄に力の入った演説だな。そういえば元を辿ると俺を巻き込んだのはこいつじゃないのか?やはり俺がツイていないのはこいつのせいなのではないか。


 まあそれは置いといて、時間がないので、さっさと話を進めることにしよう。忘れていたが、この話し合いは一応、図書委員の会議ということになっているので、あまり長いこと粘っていると少し怪しまれるかもしない。それ以前に教師か事務員に怒られるかもしれない。


 俺は阪中に話しかける。


「それで、実際日向を嫌っているようなやつは解るか?逆に仲良さそうなやつでもいい」


 俺の質問に阪中は首を横に振った。


「日向さん、あまりクラスにいないから、よく解らない」


 そうだろうな。まあそんなに当てにしてはいなかったさ。だが、予想に反して、阪中は直後に、あっ、と言い、


「日向さんによく話しかけている人なら・・・」


 と言った。阪中の様子からだと、いまいち当てにならなそうだが、どっちにしろクラスに近づく必要があったので、そいつの名前を聞いておいた。そいつのことは岩崎が知っているようで、早速明日から接触してみることになった。


 そこでとりあえず今日の話し合いは終了にして、先に阪中だけでも帰すことにした。一人で帰すのはいささか不安ではあったがこの時間ならちょうど下校時刻だし、通学路にはたくさんの生徒がいるだろう。目撃者を巻き込んでの事件ではあるが、さすがに十人二十人となると相手も犯行を思いとどまるだろう。


「今日は思ったより真相に近づけてよかったですね!」


 荷物を取るために会議室から部室に向かうまでの廊下で、隣を歩く岩崎がこう言った。これが、今日の会合を終えての岩崎の感想なのだろう。俺とは違う意見だった。


「よかったかどうかは知らんが、これで事件は解決に向かうだろうよ」


 確かに今まで堂々巡りのような調査に比べたら、この展開は解決の方向に向かっていると言える。ただ相変わらずその道のりは面倒極まりない。ため息も自然と出てくる。


「すぐにため息を吐くのは止めて下さい!負のオーラを出してちゃ、解決できるものも解決できませんよ!誰に無理だと言われても我々だけはできると信じなきゃいけないんです!成功の秘訣はまず信じることなんです」


 信じたからって犯人は見つからないし、証拠だって出てきやしない。精神論に意味があるかどうかは置いといて、どっちにしたって証拠探しは走り回らにゃならんのだ。さらに派手に動き回ることができないのである。あまり眼につくような動きをすると、俺たちがターゲットになってしまう。ある程度動かなくてはならないのだが、動きすぎるのはまずい。かなり面倒である。最悪と言ってもいい。


 はあ。



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