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こうして日向の件まで一緒に調査し始めたのだが、どうやら表立って行われているいじめではないようだ。最近のいじめは、上履きに画鋲とか、教科書を汚したりとか、そういった解りやすいものではないのかもしれない。
だがいじめは起こっていると断言して間違いない。その理由の一つは、隣のクラスの連中の何人かにに、遠回しにいじめがないか聞いてみたところ、全員口を濁した。誰一人として、あるともないとも言わなかった。ただ決まり悪そうに誤魔化すだけだった。
いじめが行われているような兆候のもう一つとして、日向に話しかけるやつがいないこと。調査は何回か行ったが、一度たりとも日向に話しかけているやつを見かけなかった。
日向がTCCを辞めた理由が解らない以上、こちらから接触することができないので確かめようもないが、いじめは行われている。これには理屈はない。勘としか言いようがない。
しかし実際こうも解らないことだらけだと何から始めたらいいのか解らん。いったい誰から始まったいじめなのか。単独なのか、複数なのか。狙いは日向だけなのか、他にもいるのか。日向が狙われる理由は何なのか。
解らないのは横山・斉藤事件の方も同じで、目撃者はやはり現れず、ここまで現れないと絶望的で、人間の記憶など曖昧で頼りないものだから、事件の当日かもしくは次の日くらいに現れない時点でもう決まっていたと言っても過言ではない。これ以上俺に何ができるのか。
「成瀬さん、焦っても仕方ありません。少し気分転換でもしましょう。ババ抜きでもしませんか?」
「一人でやってろ」
何が悲しくて岩崎と二人でババ抜きなんかやらにゃならんのか。ババ抜きは二人でやるもんじゃねえだろう。
「なっ!私は成瀬さんを心配して・・・」
「じゃあなんか役に立つものを出せ」
「私は便利屋でも万屋でもありません!」
こんなくだらない会話している間にも横山の事件は刻一刻と終わりに近づいている。正直今日まで伸びていることが信じられない。
日向だっていくら心が強かろうとも、相手の攻撃が弱パンチでも、HPは無限ではないわけであって、いつか尽きてしまうのは火を見るより明らかだ。日向が発狂したらいったい何をしでかすか解ったもんじゃない。 とにかく時間がない。しかもタイムリミットが解らないのだ。
昼休みも部室に出張って生徒会長が持ってきた調書を漁っていたのだが、結局何もいい案が出ず、予鈴によってやむなく撤退を余儀なくされたのだ。
だいたい、いじめに関していえば、俺たちは完全に無関係だ。部外者だ。というか、当事者が誰なのかすら把握していない状況なのだ。あそこのクラスの連中は話しかけたらバカみたいに食いついてくるくせに、本題に入ると面白いくらいどいつもこいつもお茶を濁しやがった。解決しようがない。
「あ、あの!」
クラス直前で後ろから誰かに呼び止められる。俺と岩崎は同時に振り返る。そこには、
「阪中さん!何ですか?」
阪中はしきりに周りを気にしている。そして少し怯えているように見える。さらに声を小さくして、
「二人に話したいことがあります」
この一言で理解した。
「何でしょう?」
岩崎が返答したところでちょうど五限目の本鈴が鳴った。
「いくぞ」
俺は岩崎をせかした。
「え、でも、阪中さんが・・・」
俺は阪中を見た。
「悪いが俺たちは今忙しいんだ」
そう言って俺はきびすを返した。眼の端で阪中が悲しそうに顔を伏せるのを捉えた。
「え?ちょっと成瀬さん!」
岩崎は阪中に、すみません、と侘びの言葉を言い、俺の後に付いてきた。
教室に入るとまだ教師は来ていなかった。
俺が自分の席につくと、岩崎が慌てた様子で寄ってきた。
「どういうつもりですか?せっかく阪中さんがお話をしたいとおっしゃってたのに。確かに忙しいですけど、忙しいなりに何かできたと思います!」
俺は岩崎の質問を全て無視し、質問で返す。
「阪中は日向のクラスだったな」
「そうですけど・・・」
岩崎は顔をしかめた。
「今すぐ生徒会長と連絡を取ってくれ」
「え?いいですけど。何て言えばいいんですか?」
「放課後、校内放送を使って阪中を呼び出せ」
そして放課後。俺は会議室にいる。ここには俺のほかに岩崎がいる。
「成瀬さん、何でここなんですか?しかもわざわざ校内放送まで使って」
「阪中は横山の事件に関係している。そして日向と同じクラスだ。いじめと全く関係がないとは言い切れない。そんなやつが俺たちに話があるそうだ。いったい何の話だと思う?」
俺が岩崎に問いかけると、
「そりゃ、事件かいじめの話だと思いますよ」
と、答えた。
「だが、すでに一回話は聞いている。今さら、しかも向こうから、だ。つまり?」
「前言を撤回するかもしれませんね!」
そういうことだ。話が早くて助かる。
「阪中の言動を拘束していた事件の黒幕、あるいは、いじめの加害者があの状況を見ていたらどう思うだろうか?」
「告げ口をしていると思われるかもしれません!」
そうなると、真実はどうであれ、阪中は何らかの報復を受けるだろう。だからあの場ではああするしかなかったんだ。場所を会議室に選んだのも放送を使ったのも、阪中の所属している図書委員会の名前を使ったのもそのためだ。
「あのとき、阪中はしきりに周りを気にしていた。だからピンと来たんだ。ああ、近くにいるんだなって」
「成瀬さんって見てないようで、いろいろ見てるんですねー」
どうも引っかかる物言いだな。
まあそんなことはどうでもいい。問題は阪中がどのような情報を持ってくるかだな。俺の予想ではプラスになるかは解らないが、少なくてもマイナスにはならないだろう。
「成瀬さん、今回の事件は何だか積極的ですね」
「は?」
自分の世界に入り込んでいて、不意を突かれた。なんだって?
「だから、いつもは面倒ごとが嫌いで人と関わりたがらない、男らしくない成瀬さんが、何で今回に限って積極的なんですかって聞いたんです!」
確かに言っていることは間違いじゃないが、こいつ俺のことをそうやって見ていたのか。
「俺が積極的だと何か不都合か?」
「別に不都合じゃないですけど、でもおかしいです!理由を聞かせて下さい!」
言わんとしていることは解らないでもないが、改めて問う必要はあるのか?理由如何であんたに何か不利益があるのかよ。
もちろん理由はあるし、自分で理解している。だが言いたくないね。はっきり言って自己満足でしかないし、第一俺はまだ何も成し遂げてなどいない。何もしてないやつがこんなこと言ったって、ただの戯言でしかないし、有限実行なんて格好良いこと、俺にはできそうもない。
だから俺はこう言うことにする。
「それは男の子の秘密だ」
直後、俺の顔の真横を何かが通り過ぎた。その通り過ぎた何かは、俺の後ろの壁に当たり、床に転がった。それは先ほど岩崎が飲んでいた缶コーヒーの空き缶である。今度は缶か・・・。
「何で真面目に答えて下さらないんですか!私が真面目に質問してるのに、ちゃんと答えてくれないなんてあんまりです!ひどいです!失礼過ぎます!きっと私に言えない、いやらしい理由なんでしょう!そうです、そうに違いありません!」
なぜこういう発想になるのか。俺には理解不能だ。これを乙女心というのならば、俺には一生理解できないものだと改めて思う。
それ以前に俺だって、言いたくない過去や、答えたくない質問の一つや二つある。いい加減にプライバシーという言葉を調べろ。今どき子供用の辞書にも載ってるはずだ。
「前にも言ったが、あんたに全てを話す必要はない。第一あんたはやる気を出せって言ってたじゃないか」
「確かにそうですけど、何か納得できません。何で理由を教えて下さらないんですか?」
言いたくないものは言いたくないんだ。
俺はだんまりを決め込むことにする。そんな俺を見て岩崎はわざとらしくため息をついて、
「きっとこの事件をきっかけに一ノ瀬さんや日向さんと仲良くなろうとしているに違いありません。きっとほっぺにチューのご褒美を期待しているに違いありません。いやらしい。私は今までどんなお願いにも従ってきたのに、ほっぺにチューのご褒美はおろか、労いの言葉の一つも言って下さらないのに。ああ、私はきっとこのまま、蔑ろにされて、使われて、最終的にポイ捨てされてしまうのです。私がどんなに無償で尽くしても、所詮はコンビニのビニール傘と同じ扱いなのでしょう。でも私は負けません。なぜなら愛は見返りを求めないものなのだから・・・」
いい加減にしろと言いたい。今どき、どこの三流劇団だって、こんな胡散臭い芝居はしないだろう。どっかからBGMまで聞こえてきそうだ。それに何か変な勘違いしているみたいだし。
誤解されても困るから、一応言っておくが、俺だって見返りなど求めてないし、見返りを求めるような働きができるとも思ってない。俺がやっていることはただのおせっかい、大きなお世話だ。俺がやらなくても解決できるだろうし、より良いエンディングを迎えることができるかもしれない。さっきも言ったが、ただの自己満足でしかないんだ。
ちなみにこれも言っておくが、俺はポイ捨てもしないし、物持ちのいい方だ。さらにビニール傘も使ってない。
だいたい俺はどんだけ嫌なやつなんだよ。誰かに聞かれたらどうするんだ!俺から言わせてもらえばこいつの方がよっぽど根性ひねくれているね。うそで評判下げようなんざ、最低だ。
まあ、誰かが聞いていたらの話だが。
俺は、鋭く睨む岩崎から会議室のドアへと、何気なく視線を移す。
少しだけドアが開いている。そしてその隙間から控え目に阪中が顔を覗かせている。
「あ、あの、盗み聞きするつもりはなかったんですけど、声かけるタイミングがなくて、その、すみません」
聞いていたみたいだな。
「こちらこそすみません。全然気が付かなくて。どれくらい前からいらしてたんですか?」
「えっと、じゅ、十五分くらい前から、かな?」
それも結構前から聞いていたみたいだ。ほぼ全て聴いていたことになるな。
「じゃ、さっきの話とか、もしかして聞こえちゃいました?」
岩崎は何やら楽しそうである。
「はい、あの、すみません」
阪中は申し訳なさそうに、うつむきながら答えた。
「別にいいですよ。でもあまり他言しないで下さいね、本当のことなんで」
どうでもいいから、早く本題に移れ!
適当に下らない会話を終わらせると、岩崎はティーセットを用意している。勝手に学校の備品を使っていいのだろうか。まあきっと会長にでも許しを得ているのだろう。
俺は、その辺に置いてあるパイプイスに座り、長机をはさんで阪中が向かい側に座る。
「一応言っておくが、図書委員会じゃないからな」
「あ、はい」
意外にも理解していたようだ。普通なら混乱するだろうが。いや待てよ。実は声をかけるタイミングがなかったのではなく、混乱して状況が把握できなかったから、会議室の外から十五分も覗いていたのかもしれないな。そこまでは配慮が及ばなかったな。
「何難しい顔して黙り込んでるんですか?阪中さんが困ってますよ」
紅茶を入れ終えた岩崎が俺の隣に座った。岩崎の言葉に阪中は苦笑している。
「成瀬さんは変なところで鋭いくせにこういうことには完璧に鈍感ですよね」
つい先ほど反省したばかりだが、こいつに言われるとどこか納得がいかないのは、俺の心に余裕がないせいか?
「昼休みは申し訳ありませんでした。失礼な態度を取ってしまいまして」
「あ、いえいえ。とんでもありません。私のほうこそ突然・・・」
「早速ですが、用件の方をお聞かせ願いますか?」
阪中は困ったような表情を見せて、口ごもった。切り出し方が解らないのか、なかなか話し始めない。こちらから話題を振ってみることにする。
「斉藤の事件から何かクラスで変わったことはあったか?」
俺の質問に阪中の肩がわずかに反応した。小刻みに震えているようにも見える。
「あの事件の話題はうちのクラスでは禁止されています」
「禁止されてるって先生にですか?」
岩崎の言葉に阪中は、ゆっくり首を左右に振った。
「じゃあ誰に?」
「解りません」
阪中はそう言って悲しそうに顔をうつむかせた。岩崎の頭の上には無数の疑問符が点滅しているが、それ以上何も言わずに阪中の言葉を待っている。
阪中は眼を閉じてからゆっくり顔を上げた。その表情は何かを決意したような、そんな表情だった。そして阪中が口を開く。
「お願いします。日向さんを助けてあげて下さい」
いじめが始まったのは今から二ヶ月ほど前。きっかけは解らないが、表には出てこないようなものが多く、それは学校側に申告しても絶対に取り合ってもらえないようなものだった。
狙われたのは一人の少女。始まりは菊の花だった。それからほぼ毎日、机が汚されたり、クラス中からのけ者にされたりしていた。しばらくして彼女は学校にあまり来なくなってしまった。
その少女の名前は日向ゆかり。
彼女は大企業の一人娘で、幼いころから持ち前の才能を遺憾なく発揮していたようで、身体中に自信とプライドを纏っていた。
誰に対しても物事をはっきり言うことができる性格、あらゆるものに発揮する才能、加えて見る者全てを魅了するような艶やかな容姿。そんな彼女は引っ込み思案で、臆病な自分には眩しすぎて、いつしか信仰に近い、憧れの感情を抱いていた。
彼女のために何かしたくて、でも臆病な自分には逆らう勇気がなくて、できたことは彼女の教科書を守ることだけだった。
ある日、久しぶりに学校に来た彼女は、周りに奇異の眼で見られながらも、堂々としていて、逆に周りを戸惑わせていた。
授業が始まると彼女が何かを探し始めた。
それは教科書であることに気付く。勇気を振り絞って、彼女に声をかけた。でも気付いてもらえなかった。机を叩くとようやく彼女が気付き、こちらに振り向いた。思わず顔を背けてしまった。それでも何とか教科書を渡すことができた。それからはもう授業どころではなく、彼女の動きだけが気になって全く集中できなかった。
昼休みになると彼女が小声でお礼を言った。嬉しかった。それだけで世界が一転した。しかし、彼女の世界は何も変わっていなかった。
ところどころつっかえながら、事情を話していた阪中だが、ここで話を切り、口を閉ざした。その眼にはうっすら涙が浮かんでいる。
「その日、私の携帯に一本の非通知の電話がかかってきたんです」
阪中の話によると、その電話は警告の電話だったようだ。痛い目に合いたくなければ、日向に近づくな、という意味の。
「つまり、誰かがクラス全体に圧力をかけていじめを行っていると?」
「はい」
まあ予想通りだな。クラス中の人間に嫌われるようなやつじゃないし、第一そんな状態なら、阪中や斉藤も友達をなくしているはずだ。
「それで阪中さんは、心当たりないんですか?」
「はい。知っている人はごく一部で、ほとんどの人が知らないみたいです」
「一部の人が知っているっていうのはどうやって判明したんですか?」
「それは・・・」
岩崎の質問に、阪中はまた口ごもる。確かにこの質問は重要だ。普通に生活していたのならまずこの事実には辿り着けないだろう。まさか直接聞いたわけではないだろう。
困った顔のまま、口を開こうとしない阪中の代わりに俺が質問に答えることにしよう。
「直接そいつらから脅されているからだ」
「え?」
「どうして・・・」
阪中の表情と言葉のニュアンスから、どうしてそう思うのか?ではなく、どうして知っているんだ?と言いたいようだ。岩崎も驚きを隠せない様子だ。
「言いたいことはそれだけか?他にも言うべきことがあるんじゃないのか?」
阪中は驚いた表情をしていたが、しばらくしてその表情は覚悟を決めたものになって、そして、
「横山さんの事件、私の証言を全て撤回します」
と言った。
話を聞くと、事件のあったその日の放課後、また非通知設定の電話があったのだという。その内容は、午後五時過ぎに通学路のある地点を通れ、というものだった。
「気味が悪かったのですが、言うことを聞かないと何をされるか解らなかったので、とりあえず時間どおりにその場所に行ってみました。そしたら突然知らない制服の男子に声をかけられたのです」
それからは横山の発言どおりで、最後に横山に礼を言ってその場を去ったという。
「警察や私たちに黙っていたのはなぜです?」
「先ほど成瀬さんが言ったとおりで、そのあとにまた非通知の電話がかかってきて郵便受けを見ろ、とだけ言って切られました。郵便受けにはいくつかの指示がかかれていました。家の位置まで知られていると思うと怖くなって従うしかありませんでした」
ずいぶん綿密に下準備がされていたようだ。おそらく阪中の心の動きも計算のうちだろう。
警察に嘘の供述をしたものの、やはり助けてもらった相手を陥れるようなマネはかなりの罪悪感を呼び、その日はとても眠ることができなかった。
「次の日、また電話がかかってきて、事件を調べているやつがいるようだが、その人たちにも
警察で話したとおりに発言しろ、というものでした。私は、もうこんなことしたくないと言ったんですが・・・」
言うことを聞かないと、日向ゆかりのようになるぞ、と言われたらしい。
阪中は今まで黙っていてすみませんでした、と最後にいい、話を終えた。
「あんたの言うことは理解した。だが、なんでここまで来て横山の事件には触れずに、日向のことだけを相談しに来たんだ?何か理由があるのか?」
まさか全てを語らずに協力を仰ぐことができるなんて本気で思っていたわけじゃないだろう。なら、言うのをためらう事実とはいったいなんだ?脅されていた、ということは、その脅しに使われた文句が阪中にとって半端じゃない恐怖になっているということか。
俺たちの無言の圧力に屈したのか、阪中がようやく口を開く。その声は明らかに震えていた。
「私、高校に入るまでずっといじめられてたんです」
思ったとおりだった。阪中は以前受けていたいじめのせいで、いじめという言葉にとても敏感になっていたのだ。もし、今日のことが見つかってしまったら、まず間違いなく自分が標的なってしまうだろう。そう思うと、どこかに保険を作っておきたかったのだ。
「日向さんを助けたい。でも自分が標的になったら、そう思うと、どうしても動けなくなってしまうんです!最低ですよね。結局一番大事なのは自分で、他人のことは二の次になってしまっている・・・」
「そんなことないですよ。阪中さんはとても勇気があります。誰だって自分がいじめの標的になるかもしれないと思うととても怖いです。その証拠に、一ヶ月も前から始まっていたいじめに対して、未だに誰も相談に来て下さっていません。でも阪中さんは来て下さいました。これで日向さんを助けることができます。それは阪中さんの勇気のおかげなのです!」
いつもは意見の全く合わない岩崎だが、この件に関しては同感だった。誰しも一番大事なのは自分自身だ。それに個人主義が進み、他人とのふれあいが減ってきている今日では特に顕著になってきていると言える。他人のために自らが犠牲になるなんて、口では簡単に言えるがそう簡単に実行できることではない。そんなこと言うやつは偽善者と言われてもおかしくない。
だが、阪中は自分にまで害が及ぶかもしれないこの状況で、証言しに来てくれたのだ。もっと早く来てくれたなら、という気持ちはあるが、そんなこと俺が言えた義理じゃない。それに先ほど言ったとおり、この証言が事件解決に大きく近づいたのは、間違いない