βー14
部室に戻ると岩崎がいた。
「どこに行ってたんですか!時間はないんですよ!」
それはそうだが、焦ったってしょうがないだろう。
俺はかばんを適当にその辺に置き、パイプイスに座る。
「なんか新しい情報はあったのか?」
「いえ。あまりいいものはありません」
理解しているつもりだったが、現状は相変わらず厳しい。
「ところで日向さんは?」
「あいつはTCCを辞めるってよ」
岩崎は自分の耳を疑うようなしぐさをした。
「辞める?それってどういうことですか?」
驚きを隠せない様子である。俺は感情を出さず淡々と告げる。
「そのままの意味だろうよ」
「理由は?理由は聞いたんですか?」
「家の都合だと言ってたな」
「そうですか・・・。それは仕方ないですね」
「バカ。信じるな」
社会勉強だといって放り込まれたんだ。それなのに学校生活に支障が出るような家の都合などあるはずがない。ましてや斉藤の事件からまだ一日しか経ってない。家の都合が本当だとしても日向が簡単に了承するはずがない。
「それって日向さんが嘘をついて辞めるってことですか?いったい何のために?」
「辞める本当の理由が言えないんだろ」
それ以上のことは俺にも解らん。
「日向さんはなぜTCCに入って下さったんでしょうか?」
「別に入りたくて入ったわけじゃないだろ」
この部室に来た理由を問われたからとっさに嘘をついたんだろうよ。
「じゃあ成瀬さんはなんで日向さんをここに呼んだんですか?」
「何やら悩んでいたようだから、何となくな」
「でも日向さんは解決したと言っておられたのですが」
「それも嘘だ」
まあこの辺は俺の予想だ。見ている限りではいつも楽しそうで悩んでる様子は皆無だったが、何となく俺たちに隠していることがある気がした。
岩崎は身を乗り出してくる。
「日向さんの悩みを知っているんですか?」
「おそらくいじめだ」
「おそらく、ということは本人から聞いたわけではないんですね?」
確かに。ていうかあいつが認めなかったというのが正解か。
「何か根拠はあるんですか?」
「あいつはほとんど授業に出ていない。これは本人にも確認したことだ。他にも、事件の前日日向と斉藤は教室の掃除なんかしていなかった。あんな時間まで掃除していたわりに黒板もきれいじゃなかったし、それなりにゴミも落ちていた。おそらく日向の所有物を探していたか、あるいは、汚された所有物を清掃していたか、だ」
「何でこんな大事なこと黙ってたんですか・・・」
岩崎はうつむいたまま独り言のように呟いた。気のせいか、岩崎の身体はかすかに震えているように見える。
「あいつは生まれ育った環境からか、プライドが高い。加えて日向の権力。誰かの力など頼る必要がなかったから頼り方が解らなかったん・・・」
バン!
俺のセリフを遮り、岩崎が両手で机をぶっ叩いた。俺がその迫力に驚いていると、岩崎は俺を睨み、
「成瀬さんに言ったんです!何で今までそんな大事なこと黙ってたんですか!」
「い、いや。言おうと思ったんだが・・・」
勢いに押された俺は、どもった。
「そんなとってつけたような言い訳は聞きたくありません!それより日向さんを助ける手段を考えましょう!」
「おい!横山や斉藤の件はどうするんだよ!」
「もちろんそれもやります!全部まとめて解決しましょう。そうと決まればこんなのんびりしてられません!成瀬さん!何をぐずぐずしてるんですか!早く行きますよ!」