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βー1


 いつの間にかやってきた秋はいつの間にか過ぎようとしていた。動物たちは季節の移り変わりを匂いで感じることだできるらしいのだが、我々人間にはそれができない。ではどうやって感じるのかというとずばり気温である。今俺は季節を感じることのできる屋上に来ている。俺の体感は冬の訪れを教えてくれた。


 現在午後五時過ぎ。さすがにこの時期になると肌寒さを感じる。そして早くも日は傾き、あたりはうす暗くなってきている。そういえば日の傾きでも季節の移り変わりを感じることができるな。この時間になると残っているやつらは部活動をやっている人間に相違なく、だからこんな時間に屋上に来るやつなど皆無に等しかった。


 笹倉が転校してから二ヶ月の月日が流れた。麻生の落ち込み具合は半端ではなく、十年ぶりくらいに風邪など引いたりして、最終的には赤信号無視して原動機付き自転車と正面衝突して絶賛入院中である。右手と左足を骨折し、全治一ヶ月の大怪我を負ったが、幸い命に別状はない。


 それよりかわいそうなのは加害者となってしまった少年である。彼は何も悪いことはしていないのだ。さらに麻生をよけるため、必死に頑張った結果、原付から大きく吹っ飛ばされ、ガードレールに激突。両手プラス鎖骨を骨折し、全治二ヶ月の重傷を負った。本当に同情をしないではいられない。彼に幸あれ。


 一方岩崎はというと、笹倉の事件を解決し、多大な感謝に気を良くし、あの後すぐ

Trouble Consultation Committee 略してTCCを設立した。直訳すると『お悩み相談委員会』である。


 よくいるよね。社交辞令を真に受けて舞い上がっちまうやつ。しかも生徒会の公認を受け、部室までゲットしている。構成員は岩崎、麻生、そして俺という三人。俺はもちろん麻生も許諾をしていない。麻生はともかく俺は断固反対だった。面倒事が嫌いな俺が何ゆえ面倒事を募集するような団体に加入しなければならないのか。誰か解る奴いたら教えてくれ。その旨をとうとうと岩崎に説いてやったのだが


「まあいいじゃないですか」


 の一言で一蹴された。


 疑問点はまだあり、部の設立には構成員五名、加えて顧問となる教師一名が必須条項として挙げられている。これまでの二ヶ月、俺は顧問なんて一度も見たことないし、構成員も未だ三人のみ。詳しいことは聞いていないが、これからも聞く気はない。泥沼になりそうだし、おそらく違法な手口を使っているに違いない。俺はまだ前科持ちにはなりたくないので共犯になりそうな発言、行動は控えようと思う。


 さて、そんなダークな設立背景は置いといて、めでたく(この場合、誰にとってめでたいのか定かではないが)落成式を迎えたTCCなのだが、案の定全く客が来ず、毎日閑古鳥が鳴いている状態なのだ。


 俺は当然だと思っていた。なぜかというと今のご時世、悩みを抱えている人間がたくさんいるようで、カウンセラーなる職業が存在している。実際うちの高校にも月に二回くらいの割合でカウンセリングルームを占拠し悩み相談を実施している。そんな職業がある昨今、なぜ、よりによってこんな間抜けな名前をした団体に相談を持ちかけなければならないのだろう。しかも高校の最低学年である俺たちに。たかだか十五・六年生きた俺たちに『人生いろいろありますよ』などと言われた日には笑うに笑えない。みんな口をそろえてこういうだろうよ。『お前に何が解る』と。


 と、まあ俺はこの状況をそれなりに理解し、享受していたわけなのだが、享受していない奴がいた。


 岩崎である。


 なぜ相談者が来ないのか、と憤り、最近は輪をかけて機嫌が悪い。それはもう最悪に近い。暇で、何もすることがないにもかかわらず、部室に行かないとキレるし、今日なんてホームルームが終わるや否や、俺のかばんを持って部室に遁走しやがった。


 麻生が入院してからは部室で雑誌すら読ませてもらえない。だから俺は今ここにいる。どうせかばんは取られたままだし、あと三十分もしたら見つかってしまうだろう。しかしこのゆったり過ぎる時間が好きだった。まあこんなことが起きると解っていたならこのゆったり過ぎる時間など投げ出して、裸足で逃げ出していただろうが。


 この直後である。彼女と出会ったのは。俺は今でも、そしてこれからもずっと信じている。あれは偶然であったと。



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