αー14
あたしたちが病院に着いたとき、斉藤はICUに入っていた。病院にはすでに何人かの生徒、教師が来ていた。しばらくして斉藤の両親らしき人も来た。岩崎さんと一ノ瀬さんはあわただしく動き回り、発見当時の状況や斉藤の様子などを聞いていて、警察関係者が到着したころにはすっかり情報収集を終えていた。
あたしははっきり言ってそれどころではなかった。ICUの前をずっとうろうろしているだけだった。頭の中がごっちゃごちゃになってパニクッてたけど、それでも成瀬があたしの近くにいたおかげでまだ落ち着けていたと思う。
いったい誰が?何のために?何で斉藤が?この三つの疑問があたしの頭の上をぐるぐる旋回していた。だけどあたしの頭は現在まるっきり役立たずで何一つ有益な答えが出てこない。成瀬はいったい何を考えているんだろうか。成瀬を見るとさっきからほとんど動きがない。何やら考えているようなのだが、口を開く気配がない。
「ねえ、いったい誰がこんなことを?何で斉藤が?」
「俺が知るわけないだろう」
その答えにあたしはキレた。
「なんであんたはそんなに冷静なんだ!」
大声を出すとさらに頭にきた。表情を全く変えない成瀬に。斉藤のことより犯人探しを優先した岩崎さんと一ノ瀬さんに。事件を未然に防げなかった警察と学校に。
何もできないあたしに。
「あんたは心配じゃないのか!悔しくないのか!腹が立たないのか!」
「少し黙れ」
成瀬は低い声で言い放った。あたしは成瀬の迫力に圧倒された。いつものこいつとは違う。あんた、もしかして怒っているのか?
成瀬は少し考え込むような顔をしてから静かに口を開いた。
「俺が高校に入学してからこんな事件は一度もない。にもかかわらず、この数日間で二件も続き、事件に関わった生徒は十人弱にも上る。どう考えてもこの二つの事件は何か関係があるはずだ」
成瀬の口調は誰に言うわけでもなく、自分の考えをまとめているように感じる。
「おおよそタイプの違う二人がなぜ狙われたのか、絶対に何か理由があるはずだ」
何でこいつはこんなに必死になっているんだろうか。あたしにはそれなりに理由がある。斉藤には世話になったし、それなりに仲良くもなった。横山はあまりよく知らないし、親しくもないが、真面目に告白してくれたし、いいやつだということも解った。
だが成瀬は?成瀬にはこのどちらとも接点がないはずだ。表情はいつもと変わらないし、声色も多少低いくらいでさして変わりはない。ただ、何というか、成瀬の身体からプレッシャーにも似たオーラが放たれていた。
「あんた何か知らないか?」
成瀬はあたしに問いかけた。あたしは声を発することができず、ただ首を左右に振ることしかできなかった。
成瀬は、そうか、というとまだ黙り込み、一人思考の旅へと出かけてしまった。
このとき、あたしは知っていたのだ。横山と斉藤の共通点を。二人が狙われた原因を。ただ、知っていたというだけで、それが共通点であり、原因であるという自覚をしていなかったのだ。あるいは無意識に気付くことを拒んでいたのかもしれない。
これは成瀬が知らないことで、あたしが黙っていたことで、あたしが意地など張らず最初から話していたら、もっと早く気付いていたら、こんな事件発生しなかった。そのことが発覚したのはもう少しあとのことだった。
二時間くらいしたらICUのドアが開き、斉藤とともに担当の医師が出てきた。命に別状はないがしばらくは危険な状態であり、面会謝絶が解けるのは当分先になるということを聞いたあたしたちは、これからの予定を軽く話し、病院をあとにした。