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βー12

 横山の傷害事件の調査を始めてから数日が経過した。調書の裏取りも終了したが残念ながらというかやはりというか、横山に有利な情報は出てこなかった。


「目撃者のほうも被害者の方も調書と同じ証言をしていて矛盾していなかったんですか?」

「ああ」

「八方塞だね」


 現在部室にいるのは、俺・日向に加えて生徒会長が来ていた。で、岩崎はいない。いったいどこへ行ったのやら。


「現在の状況は当初と何ら変わっていない。横山が苦し紛れに嘘をついているという解釈が一番妥当だ」

「確かにそうだね」

「阪中さんが言っていた友人のお話も聞いたんですよね?」

「ああ。阪中と全く同じことを言っていた」

「そうですか」


 会長は息を吐いて肩をおろした。依頼を受けたときよりも弱々しく見えるのは気のせいではないかもしれない。


「で、実際あんたはどう思ってるの?」


 日向は俺に聞いているらしい。


「ほぼ確実に起訴だな」


 問題になっているのは正当性についてで、実際横山は暴力を振るい、けが人が出ている。それについて横山自身も認めているんだ。阪中の存在については先ほど言ったように嘘をついているか、あるいは勾留されたことで頭がいかれたか。そんな解釈で十分だ。


「ほぼっていうことはまだ絶対じゃないんだよね?」


 二人とも何かを期待しているような眼で俺を見ている。二人の立場じゃ、横山を助けたいんだろうが、絶対と言い切らないことに大した理由はない。何にしても自分の考えに絶対だと言えるほど俺は俺自身を信じちゃいない。


「なにか引っかかっていることがあるんですか?」

「あえて言うなら証言が調書に忠実すぎる」


 二人の頭の上に疑問符がともる。


「それって当たり前のことなんじゃないの?」

「当たり前と言えば当たり前だがここまで忠実だと逆に不自然さを感じる」


 どいつもこいつも調書に載っている質問には即答してくる。まるでマニュアルがあるかのように。横山が突然襲ってきた。少女なんていなかった。誰に聞いてもこう答えている。一字一句違わずに。そして調書にないような質問に対しては口ごもり、誤魔化しながら話し、最終的に何が言いたいのか解らないような回答しか得られていない。


「その不自然さを解消しようとすると・・・」

「誰か黒幕がいて、そいつが台本を作っているんだ!」

「つまりあらかじめ聞かれるであろう質問に対して回答を用意していたということですね!」


 俺が言わんとしている内容をいち早く理解してくれたようだ。だが、はっきり言ってこの考えは突飛過ぎる。やはり机上の空論的な感じがする。


 しかし二人はこんな俺の心までは察してくれなかった。先ほどとは打って変わって元気になっている。


「確かにそう考えると横山の言うことも信じられる!」

「そうですね。予期していなかった質問に対して口ごもるのもそう考えると納得できます!」


 この二人は確率論と言うものを知らないのだろうか。はっきり言ってこの説が真実である確率なんて数%でしかない。それがどの程度発生しにくいものなのか理解していればここは喜ぶところではないことなんて容易に解るはずなのだが。どう言ったら現在の状況を理解しくれるだろうか。


 俺が臨時的算数の授業を始めようとしたとき、荒々しく部室のドアが開いた。


「ど、どうしたの?」


 驚いた日向が思わずイスから立ち上がる。会長も日向同様、とても驚いている。俺もだ。


 そいつは岩崎だった。岩崎は肩で息をしていて、手を膝に当てたまま返事はない。何かただならぬ雰囲気である。他の二人も同じ空気を感じているようでどこか緊張した面持ちで岩崎を見つめている。


「何があったんだ?」


 俺が改めて聞くと、息を整えた岩崎が顔を上げ、答える。


「また傷害事件が発生しました」


 部室内が沈黙に包まれる。またか。横山の事件からまだ数日した経過していないのに。


「またうちの生徒か?」

「はい。それが・・・」


 岩崎はつらそうな顔をして、言葉を切った。どうやら知っているやつのようだ。


「誰だ?」

「斉藤一貴さんです」

「えっ!」


 真っ先に反応したのは日向だった。


「それ本当?」

「はい。通学路に血まみれで倒れているところを発見されたそうです」

「病院の場所は?」

「駅前の市立病院です」


 近いな。急げばここからでも五分で行ける。


「成瀬!」


 日向が叫ぶ。ああ、解ってるよ。横山の事件に関係あろうとなかろうとそんなもんはどっちでもいい。後回しだ。


「行こう!」


 俺の言葉に三人はうなずいた。



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