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αー12


 あたしは成瀬の指示を受けてからすぐ動き、今警察にいる。なかなか面会の許可が下りなかったが、奥の手として自己紹介をしてやった。そのあとはスムーズに事が運び、今は横山を待っている状態である。


 成瀬の話を聞いただけだが、あたしの直感は横山の無実を主張している。


 いくら通学路とはいえ、目撃者が全員うちの生徒というのはおかしい。あと例の女子生徒の証言もおかしい。根拠としては弱いわけだが、そこまで考えたところでガラスの向こうのドアが開き、警官に両脇抱えられた横山が登場した。あたしは立ち上がり、軽く頭を下げた。横山は驚きを隠せないようである。


「驚いた?」


 あたしはそう言って、また椅子に座りなおした。あたしの言葉に正気を取り戻した横山はため息をつき、ガラス越しにあたしの正面に座った。


「かなり驚いたよ。まさか君が来てくれるとはね」

「嬉しいでしょ?最愛の人が来てくれて」

「正直微妙な心境だね。来てくれたのはとても嬉しいが、君には知られたくなかった」


 そう言って、横山は悲しそうに眼を伏せた。この人は本当にあたしのことを好いてくれているのかもしれない。


「ラブレターの件だが、もう忘れてくれていい」

「どうして?」


 理由は聞くまでもないだろう。


「無実ではあるが、こんなところに入っているんだ。君を好きだという資格すらない」


 相当律儀な男のようだ。こんな男が理由なく暴力を振るうとはとても思えない。


「それはあたしが決めることだよ。何があったのか教えてくれない?噂でしか知らないんだ」


 もちろん話の概要はかなりディープなところまで理解している。だが、今日いったい何の用で来ているのかは言わないほうがいい気がした。


「あたしには知る権利があると思うんだけど」

「そうだね。君には誤解されていたくない」


 そういって話し出した。


 横山は家が道場なのだが、部活も空手部に所属している。横山はその日、部活を休み、生徒会の仕事をしていたという。六時から道場の会合があったため、部活は早退しようと考えていたらしいのだが、どうせなら、ということで、休みを取り、普段顔を出せていない生徒会のほうに赴いたようだ。仕事を終えたのが、午後五時前後。問題なく会合に間に合う時間だったのだが、駅までの道のりで遭遇した。


 三人の男が一人の女子を囲んでいた。四人とも高校生らしく、制服を着込んでいた。男三人は知らない制服だったが、女子は自分と同じ高校の制服だった。


「僕だってバカじゃない。ただのナンパならただ前を通り過ぎただけだっただろう。だけど彼らは実力行使に出たんだ」


 そこまで見ていた横山は止めに入った。突然邪魔された男たちは激昂した。だが、横山は殴りかかってくる男たちをあっさり片付けたようだ。

そのあと、女子生徒は礼を言い、帰っていったという。 


「その直後、誰かが通報していたようで、警察がやってきて今に至る」


 横山は深くため息をついた。横山の行動は間違いなく暴力行為であり、三人とも軽傷とはいえ、怪我を負ったのはまぎれもない事実。しかし三人から手を出してきたのだったら正当防衛が十分成り立つはずだ。


「助けた女の子のことはどうしたの?言わなかったの?」

「もちろん言ったさ。彼女の身元も解り、すぐに証言も取りに行ったはず」

「じゃあ何で?」

「彼女は事実を否定したんだ。自分はそのときそこにいない。絡まれてもいないし、助けられてもいない、とね。目撃者も三人いるのだが、なぜか三人とも僕から仕掛けたと証言しているんだ」


 圧倒的に不利な立場だ。どう考えても横山が嘘をついているとしか思えない。


「正直な話、信じてもらえないかもしれないが、僕は嘘をついていない。今自分がなぜここにいるのか、一番解っていないのは僕自身だ。誰かにハメられているとしか思えない」


 それだ。この流れ、誰かが横山を罠に嵌めているとしか考えられない。今のところ、それを行うことができる最たる人は例の女生徒か。


「助けた女の子とは面識あったの?」

「いや。まるで知らなかった」

「じゃあなんで身元が解ったの?」

「似顔絵を描いてもらった。そこから身元が判明したんだ」

「なるほどね。あんたが知らないうちに恨みを買うようなことしたんじゃないの?」

「全くないとは言えないけどね」


 あたしは冗談で言ったんだけど。まあ全くないと言えるやつがいたら、そいつはナルシストでかなり高確率で人に迷惑かけながら生きているね。


「事情は解った。とりあえずあんたの言うこと信じるから」

「ありがとう」


 あたしは部屋を出ようとしたが、不意に思い出したことがあって、振り返った。


「ラブレターのことだけど、本当に忘れていいの?」

「ああ、忘れてくれ。今の僕は君に相応しくない」

「あんたが忘れてくれって言うなら忘れるけど、それって少しおかしいと思うよ」


 横山は、あたしの言っていることが理解できないというような顔をした。あたしは気にせず続ける。


「あんたはあたしにどういうところを好きになってほしいの?格好つけてるところ?そうやって偽っているところ?勾留された人は告白しちゃいけないの?あたしはそうは思わない。冤罪ならなおさらだ。あんたは胸張って何度でも言うべきなんだ。自分は無実だと。あたしは相手の立場とか身分とか肩書きとか気にしない。それは相手にあたしの身分とか立場とか肩書きとか気にしてほしくないから。今の状況、格好悪いとか思ってるなら、お生憎様。そういうプライドも大事だと思うけど本当に大事なものは何なのか、もう一度考え直したほうがいいよ。忘れてくれって言ってたけど、こっちから願い下げだね。今のあんたは最低だよ」


 一気に言ってやった。言い過ぎたなんて思わない。あたしはそういう性格だし、本当にそう思ったからだ。でも本当にどうでもいいやつにはこんなこと言わない。


 あたしがドアを開けると、横山があたしの背中に話しかけてきた。


「今の僕は忘れてくれていい。もう一度告白するから。もちろん、不起訴でここを出てからね」


 あたしは振り返り、微笑みだけで答え、ここを出た。


 それから岩崎さんからのメールを見てから直帰した。


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