αー1
どうも。あたし、日向ゆかり。十六歳。世界有数の大企業、日向グループ総裁、日向純一郎の一人孫娘。何を隠そう、このあたし、できないことなど小指の先ほどもないスーパー美少女お嬢様なのだ。何をやらせても常にナンバーワンのこの才能、見る者全てを虜にする美貌に加えて、日向の跡継ぎという肩書きまで持っているあたしはもう天下無敵。向かうところ敵なし。
いや、一人いた。あたしのおじい様。日向純一郎だ。基本的には優しいおじい様であたしの言うことは何でも聞いてくれるんだけど、一方言い出したことは意地でも変えない、頑固者でもあるんだ。この頑固魂を発揮してしまったのは、昨日の事だ。
その内容だけど、九月から高校に通うことだった。理由は社会勉強。あたしは自慢じゃないが、ハーバードの大学の卒業証書を持っている。なぜかというと、答えは簡単。ハーバードの大学を卒業したからだ。向こうには飛び級の制度があるので、一足早く十六にして大学を卒業してしまっている。
だからこのおじい様の発言には断固抗議したよ。今更日本の高校で学ぶことなんか何もないし、社会勉強だって中学までは日本の学校にいたんだから問題ないって。だけどそんなことで前言を覆すようなおじい様ではなかった。ま、解ってたけどね。
ということで仕方なく、高校に通うことになってしまった。向こうの年度は九月から新年度を迎える。だから卒業式は七月。それで編入は九月からということで、今、高校に通っている。年齢的には高校一年だから、そのレベルの授業を受けている。
通ってみて解ったんだけど、これが意外に楽しくて、なんて展開には全くならず、毎日毎日つまらない日々を送っていた。今まで周りは年上ばかりだったせいか、どいつもこいつもガキに見える。てか実際ガキだった。男は特に仲良くする気にならなかった。
あたしの美貌と財力に目がくらんで寄って来る男もたくさんいた。はっきり切り捨ててやっているのに次から次へと害虫のように沸いてくる。中でも最悪だったのは、えーっと、名前なんて言ったかな?確か山内だか山口だかなんかそんなん。そいつが結構な資産家の息子らしく(うちに比べたらまだまだ微々たる物なんだけど)、体中から自信を発しているようなやつだった。実際自信満々でこともあろうに教室で、しかもクラスメート全員の前で告白して来やがったのだ。
「君が好きなんだ。僕と付き合ってくれないかな?僕たちお似合いだと思うよ」
あたしの嫌いなものトップスリーは自信過剰なやつ・空気読めないやつ・相手のこと考えないやつ。そいつは見事に全て当てはまったので、特典として、こう言い返してやった。
「ごめん、あたしあんたみたいなやつが一番嫌いだから」
そしたらそいつは、相当ショックだったらしく、奇声を上げて、あたしに襲い掛かってきた。きっと断られたことなかったんだろうね。あんたの周りの人間見る目なさ過ぎ。でもこういうやつも結構いたから扱いにも慣れていた。あたしはそいつを返り討ちにして病院送りにしてやった。
それからあたしに話しかけてくる女子が少しずつ増えていった。理由を聞いてみると山内を病院送りにしたのがよかったらしい。あれの自信過剰振りに迷惑を被った女子は少なくなかったようなのだ。それからしばらくあたしはクラスの女子と仲良くし始めたのだ。時には遊びに行ったりもしたし、遊びに来たりもした。
そんな生活がだいたい一ヶ月くらい続いた。しかしある日を境に突然あたしに話しかけてくるやつはいなくなった。それはあたしの机の上に花瓶が置かれた日だった。その花瓶には菊の花が添えられていた。なるほど。こう来たか。まああたしは気にしなかった。これも見方を変えれば社会勉強。日本の社会にはこういう輩がいるっていうことが解った。
こんなあたしの態度が気に入らなかったのか、いわゆるいじめは日に日にひどさを増していった。こんな子供の遊び、日向の力を行使すれば、あっという間に犯人を見つけ出して、そいつを家ごと社会的に抹殺することなど赤子の手をひねるようなものだったが、あたしはそうしなかった。本当に子供の遊びだと思っていたし、こんなことする連中にかまっているほど暇人ではない。それにまだ日向の力はあたしの力ではない。あたしはスーパー美少女お嬢様なのだ。この程度のことで他人の手を借りるほどあたしは落ちぶれていない。