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αー9


 土日をはさんで月曜日。あたしは今日も朝から学校に行ってみた。金曜日にグロテスクになっていたあたしの机はものの見事にきれいになっていた。誰かが掃除しているに違いない。なかなかいい仕事をするね。


 ホームルームを適当に終え、授業が始まった。相変わらずとても暇で、とてもつまらない授業だった。こんなんじゃ絶対理解できないし、身につかないね。


 つまらない授業はやたらと長く感じた。四時間目が終わったときにはもうくたくただった。暇疲れってやつだ。


 昼休み、あたしは部室に向かった。部室には成瀬が一人でいた。めずらしい。


「あんた、今日は逃げないの?」


 挨拶は置いといて、あたしは成瀬に話しかけた。


「かばんを人質に取られてるからな」


 あ、そう。かっこ悪いね。


 雑誌を広げて読み始めた。それはどうやら料理雑誌のようだ。


「今日はあたしたちにお弁当ないの?」


 あたしは思い出したように聞いてみた。あれはなかなかおいしかったな。


「あるわけないだろ。あれが最初で最後だ」


 まあ期待してなかったけどね。今気づいたが、成瀬は自分のお弁当を食べ終えていた。ということで、あたしは成瀬の正面に座り、昼食に取り掛かることにした。


「ところで岩崎さんは?」


 一応聞いとかないとまずいだろ。


「あいつは昼食べ終わった瞬間、どっか行った」

「どこに行ったの?」

「さあな」

「じゃあ何しに行ったの?」

「確かクライアントを探してくるとか言ってたな」


 クライアント。確かにそろそろ相談者がほしいね。このままの暇な団体になってしまったらまずいだろ。一応生徒会下にいるわけだから、部費が出ているのだろうな。つまりこの団体はただの金食い虫に他ならないってわけだ。しかしふと気になったことがある。


「でもクライアントって探すものなの?」

「解らんが、あいつなら見つけてくるかもしれないな」


 確かに。無理矢理連れて来そうだな。それについて学校側に告訴されたら笑い話にもならない。


「しかしいるかなー。こんなところに相談に来る人」

「いるじゃないか。ここに」


 ここにはあたしと成瀬しかいない。つまりあたしのことか。


「このまま相談受ける側にいるつもりか?立場を変えるなら今のうちだぞ」


 確かに相談者が来たらもう立場を変えられないかもしれない。来たら、の話だけど岩崎さんなら連れて来てしまうかもしれない。でもあたしにもプライドがある。いまさら立場を変えるような格好悪いマネ、絶対にできない。


「最初に岩崎さんに言ったけど、あたしの問題はもう解決してるの。だからあたしには相談するようなこと、もうないよ」

「俺にはそうは見えないが」


 成瀬の目はとても深い色をしている。いつものやる気のない眼ではない。あたしはその目に少し圧倒された。


「あんた、ほとんど授業出てないだろ?」


 あたしは思いがけないところを突かれて閉口した。


「あんたはいろんなものに恵まれているから今まですべて自分の力でやってこれたんだろう。人に頼ったことなんてないんだろう。だから頼り方が解らないかもしれない。だったらラッキーじゃないか。こんなおあつらえ向きな団体があって。あいつはきっと喜んで相談に乗ってくれるぞ。喜んで、というのはどうかと思うがな」

「あたしはあんたたちに相談することなんか何もない」


 あたしは自然と声を大きくした。


「あたしは人を頼る必要なんかないんだ。あたしはスーパー美少女お嬢様なんだ!」

「じゃあ何で屋上で叫んでたんだ?どうしてここに来たんだ?」


 成瀬は熱くなっているあたしを差し置いて、いつもより落ち着いているように見える。成瀬はしばらく黙り、あたしの返事を待っている。あたしは黙っていた。言うべき言葉は解っている。自分の行動だ。その理由くらいは理解している。だけど言いたくなかった。言葉に出すと取り返しがつかなくなりそうな気がしたから。


 代わりに成瀬が口を開いた。


「どうしていいか解らなかったからじゃないのか?」

「解ったようなことを言うな!」


 あたしは両手で机をぶっ叩いた。成瀬は黙ってあたしを見つめている。あたしはその深い瞳に耐えられなくなって瞳をそらした。なんだか心を読まれてしまいそうで怖かったからだ。


 あたしはまたいすに座り、途中だったお昼ご飯を急いで食べながら言った。


「とにかくあたしは相談することなんて何もないから」


 それから成瀬は何も聞いてこなかった。あたしも何もしゃべらなかった。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまでの間、あたしは成瀬を見ることができなかった。岩崎さんに早く来てほしかったのだが、彼女は結局部室に来なかった。


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