αー8
放課後。部室ではまた昼休みと同じような展開になった。今度はあたしは参戦しなかったけど。
しかし昼休みはびびったね。あいつの弁当が、普通においしいから普通に食べていたら、岩崎さんに突然話を振られたからね。その内容にもびびった。そりゃ自分で美少女と言っているくらいだから、かわいいとは言われ慣れているけど、正直あれはないでしょう。柄にもなく、少し緊張してしまった。顔も少し赤くなっていたかもしれない。だからあいつの発言には余計に腹が立った。しかしあたしはいったいどんな返事を期待していたのだろうか?なぞだ。まあ物投げまくっているうちにだんだん楽しくなっちゃって、そんなことどうでも良くなっちゃったから忘れちゃった。
しかしこの二人は毎日こんな感じだったのだろうか。よく続いているよね。おそらくこれが二人のコミュニケーションの取り方なんだろうね。きっと本当はすごい仲良くて、お互いのこと知っているんだと思う。成瀬はあれだけ物を投げられても全然怒らないし、岩崎さんは、まあすごい怒っているけど結構簡単に許しちゃうし。二人ともすごいいい人だけど、やっぱり成瀬は特にすごいんだと思う。だから普段まじめな岩崎さんも成瀬には気を許して甘えてしまうからあんな態度になっちゃってるんだよ、きっと。とりあえずあたしはこの二人が気に入ってしまったのだ。興味津々なんだ。
とりあえず思考をこの辺でストップして、二人の会話に入りながら部室を後にして下駄箱に向かった。自分の下駄箱を開け、靴を取り出すと中から何か落ちてきた。手紙のように見える。あたしは少し緊張した。瞬間的に連想した手紙の差出人はクラスの連中、特にあの金髪三人組だった。
しかしその予想ははずれ、手紙の裏側には見たこともない名前が書いてあった。ふう。そこに書いてある名前を、あたしは声に出して読んでみた。
「横山大貴」
やっぱりあたしには心当たりがなかった。しかし二人は違ったようだ。
「聞いたことある名前だな。ラブレターか?」
「誰か知ってるの?」
「成瀬さんに聞いても無駄ですよ。半年経った今でも、クラスメートの名前、全員言えないような人ですから」
成瀬の代わりに岩崎さんが答えた。たまにいるよね、そういうやつ。そういうあたしも全然覚えてないけど。
「あんただってそんなに変わらないだろう」
「そんなことないですよ?私は交友関係広いです!一学年だけでも百人は下らないでしょう」
成瀬は全く信じてないようだ。それよりあたしは岩崎さんに聞きたいことがある。
「岩崎さんはこいつのこと知ってるの?」
「知ってますよ。横山さんは生徒会の副会長さんです」
へえー。初めて知ったよ。生徒会とか全く知らないや。全然興味なったからなー。成瀬は今でも興味なさそうだ。
「それでどんなやつなの?」
今のあたしは少し興味がある。なんせ久しぶりだからなあ、こういうのも。少なからずはしゃいでいるのが自分でも解る。
「顔は十人並みなんですけど、人柄の良さが理由で人気みたいですね。性格も明るくて楽しい人みたいですよ!成瀬さんとは正反対ですね」
ふーん、なるほど。よくいるタイプだな。あたしは人当たりがいいやつって何となく受け付けないんだよね。何か裏がありそうで。山内もそんな感じ。
興味なくなったのが顔に出ていたようで、岩崎さんにも伝わってしまった。
「あれ?あまりタイプじゃないですか?」
「うん。ちょっと苦手なタイプかも」
呼び出しには行く気ないし。もしかしたらいたずらかもしれないしね。
「そうなんですか」
岩崎さんは、もったいない、と言いたそうだった。
「じゃあ帰ろうか!」
でもあたしは少し元気になった。いいことなかった最近に比べて、今日はいくらか楽しかった。