α−7
あたしは少し後悔していた。あんな部に入らなきゃ良かったかも。何であいつあんなに鋭いわけ?しくじった。泣いているところを見られたやつに自分から近づくとは。助けてくれって言っているみたいじゃないか。
でも、昨日は普通に楽しかったな。しゃべっていただけだが、あんなにしゃべったのは久しぶりだ。あの二人の漫才みたいなやり取りも面白かった。この学校に来たときはつまらんやつばかりだと思ったけど、あの二人は違う気がする。いい意味で変わった人たちだ。これからも付き合っていきたいと思った。正直あの鋭い質問には驚いたけど、あまりリアクションを起こさなかったし、そのあとの会話も普通だった。話題の変え方が少し不自然だったかも知れないけど、それだけじゃ断定できないだろうし。
そんなことを言いつつも、あたしは教室に来ていた。昨日の今日だし、一応用心して授業には出ておこう。
予想に反してあたしの机はきれいだった。きっともう飽きたのだろう。こういうことをやる奴らは、被害者の反応を見て楽しむんだ。ターゲットがいないと面白くないんだろうよ。
続々と入ってくるクラスメートたちは、あたしがいることに驚きながらも、なるべく眼を合わせないようにしていた。だが、一人だけ話しかけてくるやつがいた。
「おはよう。久しぶりだね」
山内だった。
「最近来てなかったけど、どうかしたの?病気?」
あたしは山内の質問に対して、ああ、とか、うう、とか生返事で答えていた。終始笑顔だったのがとても気持ち悪かった。顔立ちは普通にいいのだが、何を考えているのか解らなくてとても嫌だった。
いつの間にかホームルームが始まって、いつの間にか授業が始まった。
授業が始まってから気付いたのだが、ドロドロベトベトとともに、机の中に入れておいた教科書たちもきれいさっぱり消えていた。何一つない。
あたしがあきらめ半分で探していたら、隣の(あたしの席は窓側の一番後ろだから、つまりあたしの右の)席の女の子があたしの机を叩いた。彼女の名前は確か、阪中みゆきだったと思う。あたしがそっちに顔を向けると、彼女は前を向きながら机の下の教科書をあたしに差し出してきた。受け取ってみると、それはあたしの教科書たちだった。彼女はあたしがいない間、教科書たちを保管していてくれたのか。なんていい娘さんだ。親の顔が見てみたい。久しぶりに人の温かさに触れた。昨日はTCCの二人に触れたが、岩崎さんは温かいを通り越して、もう熱かったし、成瀬は逆に冷たかった。
彼女は相変わらず前を見て板書をしていたのだが、あたしが凝視しているのを、気配で察知したのか、頬がほんのり赤くなっていた。うーん、本当にかわいいな。その素直な反応にあたしは惚れそうになった。
下手すりゃ、自分が標的になってしまうかもしれないのに。今どき人のために行動できる人なんてそうそういない。授業が終わったあと、こっそりお礼を言った。
そして昼休み。山内が何やらうるさかったが、全てトイレットペーパーのごとくさらっと流して、成瀬の手作り弁当が待つであろう、部室に向かった。