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ブサイクの逆襲  作者: 黒田 容子
本編
9/33

気持ちの悪い感覚

仕事中のあたし、基本ヒマじゃない…と思うんだけどな

なんで、一息ついてるときに 来客ってくるんだろ?


…あたしがヒマだと思われるじゃない…



 あれから数日後、加藤さんがまた来た。今度は、一冊の単行本を持って。


「料理絡みのエッセイ本って、好きでよく読むんだ」

 ぱらぱら… 加藤さんの手の中で、文庫本が軽くて、いい音をたてながらページが流れていく。

「面白いんだ、この本。

 なんかこの組み合わせ、ウマそうだなーってのが、サラサラ続いててさ。

 アタマ使わなくても、サクサク読める感じがいいんだよね」


 ページをめくる加藤さんの手が、意外に堅くなってしまった職人さんみたいな肌なことに驚く

 この人、SEさんだよね?…なんか、こっちの物流業界の人みたいな手じゃない、コレじゃ。 

 

 キーボード、いつも叩いてます。…じゃなくって。

 重たいもの、いつも持ってます。…みたいな、この物流業界の現場にいる人の手。


「焼き納豆って、知ってる?」

 加藤さんは、一方的に話し続けるけど、あたしは 硬くてしっかり厚そうなその手のひらに釘付けだった。

 なけなしの義理が、加藤さんの会話に付き合う。

「サラダ油を引いたフライパンで、よく混ぜた納豆を蒸し焼きにするんだけど。

 そのとき タマゴも半熟で蒸し焼くんだって。

 味付けは、醤油と鰹節。醤油だけでもウマいけど、鰹節いれないと、マジで損するくらいウマいって。」

 絶賛大注目中だった加藤さんの手が、鮮やかに動く。

「これ、ヤバそうじゃない?」

 指先が写真を指す。その指先の爪は、小さくて四角くかった。キレイに切り揃えられて、艶のあるピンク色だった。

 …手のひら、温かそうだな…血色いいから 体温も高そう。


「電車の忘れ物だったんだ。読み終えちゃったから」

 あげる。

そう、手が言いたげに動いて、こちらへ向かってきた。

 差し出されたのは、手のひらサイズの文庫本。ちょっとだけ汚れてるだけで、古本屋さんとかなら引き取ってくれそうなくらいの状態だった。


 本が少しだけ暖かい。体温高いってことは、健康体なんだなあ。

 冷え性目立ってきたあたしには、そうとう羨ましい。


 加藤さんは、細かいことでクヨクヨ悩まなそうだから、総じてストレスにも強いんだろうな…気持ちを切り替えるのが早そうだし。


 手のひらから離さないあたし。


 いつからか、あたしは 加藤さんとの会話を楽しみにするようになっている。


 なんか…やだな。

 よく分からない男に、よく分からない期待をしてる自分がヤダ。

 今じゃなくても、いつか バカをみるとかありそう。


それは、ヤダ。


 そこからの会話も曖昧に、加藤さんは 入館受付を書いて、事務所から出て行った。

 机の上には、例の本がずっとある。気持ち悪いくらい、視界から存在感を放ってる。


 もう一度触ったら、あたしの心の中の何かが崩れ去って、何もかも ぐちゃぐちゃに化しちゃいそうな予感がする… 加藤さんのこと、考えるのも アブナいと思っちゃう。



 そんな今のアタシに、「武藤さん」との取り持ちを頼む余裕は無くなってしまっていた…

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