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ブサイクの逆襲  作者: 黒田 容子
本編
7/33

都合のいい幻想

 いうなれば、沈黙のキーマンというべきか


 今回、一番最初に客先から話を持ってきた御方 西東京事業部の優等生OL 牧瀬詩織お姉様。その張本人から、使えそうな資料を貰った。

 それは、あの客先に出入りする業者一覧。


 …これ、内部も内部、超極秘書類じゃない? 下手な公表をしたら、首が飛びかねない。でも、活用しない手はないよね? バリバリな社内秘のリストを見ながらあたしが取った行動は。


「昔、品川のセンターに武藤さんって方、居ましたよね?面識あります? 出来たら、紹介してもらえませんか?」

 リストに載っていた全部の会社に電話を掛けまくる事だった。


 勿論、正攻法で攻めたところで「武藤さん」を知ってる人物といきなり会える訳がない。ここは、社内中のコネと自分の客先のネットワークが役に立った。これでも、伊達に物流業界長いワケじゃないからさ。

 「えげつなくも、ガツガツと稼ぐ権田さん」「金の亡者」社内からは、そんなことも言われたりするけど、その分 色んな事業部を助けてきた時に培ったネットワークがある。この際、何でも使ってやる。


 だが、残念ながら、肝心な連絡先はまだわからない。それでも、次第に確実に「武藤さん」の人物像だけは見えてきた。


 実家は、隅田川と荒川の間あたり、今の家もそのあたり

 生粋の江戸っ子で、6月から夏の終わりまで 東京都内中の神輿を担ぎに回るのが、趣味

 義理堅くて、付き合いを大事にする人情派

 声が大きくて、カラスや野良猫を追い払えるくらい

 奥さんとは恋愛結婚で、奥さんの前ではニコニコの照れ屋になる

 

 着々と、漠然とした存在を絞り込めるような情報が揃ってきた。多分、いきなり会っても驚かないくらいの前情報は、もう持ってるかもしれない。


 おぼろげに、テレビで見るような下町育ちの元気なおっちゃんが浮かんできた。聞けば聞くほど、会ってみたいと思う。きっと、高度経済成長期を見て歩んできたような…典型的な昭和の男の人なんだろうな…


 でも、同時に、知れば知るほど不安もまた込み上げてきた。

 もし、だよ?

 人材的に戦力になってくれたとして…


 この身勝手揃いなウチの会社で続けてくれるだろうか。


 ウチの社内は、利害とか売上でギスギス。余裕のないウチの人間模様は、いるだけで疲れる。だから、あたしは… 身勝手な幻想を作ってるんじゃないだろうか?


 現実逃避のように、まだ見ぬ「武藤さん」へ勝手に期待しちまっている気がする。


 …こんな、ゲスト頼みなあたしが… 次にある勝負へ手を進められるのか…?


 人は、弱気なときこそ、言葉と顔色が弱ってくる。

 こんな時こそ、悩んではいけないのに。



 あたしは、自分を叱咤しながら、ウチの本社の営業管理課の課長へメッセを打ち始めた。


「取り敢えず、なんか動いていよう」


 この人とは、ツイッター仲間。確か神輿を稼ぐ趣味があった筈だ… 深川水掛とか、巣鴨の棘抜きにも行っていたはず。明治神宮にも出入りしてると聞いたから、聞くだけ聞いてみよう


 怯まない自分の姿を必死に演出しつつ、緊張に固まる脳味噌を何とか操り、文章を作り上げた。


 頑張れ、あたし。

…この際、願掛けに神輿担ぎもいいかもしれない。こんなカイシャで頑張り抜けるなら、半纏着てでも、神様に会いに行ったろか。


 アタシは念を込めて、送信ボタンを押した。


 明日は、大量出荷だとかで一日現場に呼ばれているスケジュールだ。明日は、「武藤さん探し」が出来ない。漠然とこみ上げる得体の知れない焦りが膨らむ中、あたしは目を瞑った。


「これで明日、あたしが誤出荷起こしたら、本末転倒よね」

 おどけて、不安から自分を引き締める。

「果報は寝て待てって言うし。」

 ふざけて、緊張から自分を緩ませる。


 悩むな自分。あたしは、最後にそう呟いた。


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