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ブサイクの逆襲  作者: 黒田 容子
本編
2/33

オフィスラブなんて、都市伝説

物流業界の朝は早い。

物流業界に派遣している会社もまた、早い


と言いたいんだけどっ!!

今日も、定時15分前になっても誰もいないという事実。

ギリギリにくるか、遅刻してくる。


「そのくせ、勤怠はしっかり定時で計上するのよね。」

独り言も言いたくなるけど、誰もいない空席の風景を睨んでもなにも、何かが変わるはずもなく…あたしは、届いたFAXたちを仕分け、メールのチェックを始めた。


ヒドい奴がいるんだ、コレマタ!

庄内しょうないっていうオンナノコ。

今日も堂々と無断遅刻。遅刻って言ってもだいたい3分とか5分だけど。


「間に合う電車に乗ったのに、電車遅延しちゃいました」 だって。

いやいやいや、違うでしょ。

そもそも、ギリギリで到着する電車に乗るかでしょ?

アンタの通勤路線は、10分に1本走ってる電車なんだから、その電車よりも早い運行に乗ればいいでしょ?


遅刻だけならまだ可愛い

悪びれもなく、遅刻しながらケータイ電話で通話しながら来ることもある。


だが、こんな簡単な一言も、男性陣は何も言わない。

何も言えない事情があるから。


一応、この人には大義名分という名の設定がある。なんかねー、ご実家のお母様がうつ病なんだって。

なもんで、涙ながらのヒステリックなお電話が掛かってきたり、最悪、同居のおねーさんからsosの電話が来ることもある…らしい、っていう家族事情。


…でもね、毎朝の電話は、実家じゃない!というのをこの前知った。


電話の相手、なんと 大概は庄内さんの彼氏!!

しかも、前任の所長だとさ。


さっきの電話も「今日も頑張ろうね」ラブラブ社内恋愛電だっつーんだから、腹が立つ。


男どもは、長い物には巻かれましょうというワケで、誰も注意できない。

前任の栄転してった所長が相手じゃ分が悪い、ってワケ。

…しかも、この女、よく泣いて彼氏にチクるし。彼氏もバカだから、逆ギレ電してくるし。

ますます誰も注意できない。


あーあ。

…男社会は所詮…

そんなもんなんだろうな。


可愛いオンナは大事にされ、役職が高い奴ほど自由が許される。


あーもー

男なんか夢見れない。

恋愛なんか、夢見れない




ある日の事だった。

所長から個室に呼ばれた

「西東京事業部の牧瀬さんがやってる案件って知ってる?」

ああ、あの…クールビューティーなお姉さま。

「品川区内の自社物流センターが本拠地の会社ですよね。原木かなんかに通関絡みで第2物流センターが立ち上がる、なんとか…聞いたことあります。」

所長が「そこまで知ってるなら早いや」と本題を切り出し始めた。


「第2物流センター立ち上げ、ウチの会社に回ってくる話になったんだ。」

所長が社内の内部資料を見ながら話し始めた。

…ふーん。

話だけ聞いてると、全然美味しくない案件だけど…

まあ、こんな新規プロジェクトをアタシに話すって事は…

「立ち上げヘルプっすか?」

要は、アタシをヘルプに出すってことだ。

場所だけ聞いていれば、朝、40分くらい早く出ることになるなあ。

立ち上げだから、休みも思うように取れないだろうし。


「ああ、まあ、うん。」

所長が切り出しにくそうに言う。

「あーそうなんですね」

ウチの会社の怖いところは、ヘルプと称して、殆どの場合が そのまま転勤辞令が下りることが多い。

「…立ち上げが終わったら、全社員を引き上げられる契約なんですか?」

あくまで、おっとりと所長に聞いてみる…どうせ答えは分かってるけど。

「いやまだ…その時になって、向こうの会社の方針が変わるかもしれないし、うんまあ、そんな感じ」

あー、やっぱりね。



予想通りの展開に、あたしは何かがさぁ~っと音を立てて引いていく気がした。

まるで、砂の城が一瞬で崩れ、引き潮のように目の前から遠ざかっていくような感覚。


もーいや。

オフィスワークな女子生活なんて。


どんなに真面目にシゴトしても報われない。

真面目にシゴトするからこそ、面倒シゴトが回ってくる。

トドメはこれか… 


部下をヘルプに出すって事は、「大変な部署を助けてあげる」とか言葉はキレイだけど、ホントのトコは、ダークな事情が大きい。


「居なくても業務が回る」から出せるのであって、

「手元に居て欲しくない」から出す事だってある。


どっちにしろ厄介払いする時の絶好なチャンスとも言われる「ヘルプ」。


あんなに頑張って売上に貢献してきたんだけどなあ。

最後は、こうやって 出されるとはね。


「分かりました。良いですよ。」

あたしは、潔く返事した。

こういうのは、後腐れなく サッパリ言ってしまった方が、お互いのためだ。

「あたしの後任、誰になるんですか?」

目の前のウダツの上がらない男が、取り止めのつかない会話をする。

…あっそ、考えてなかったのね。


サヨナラ、自立できない坊やたち。

もう、あんたたちの面倒は見ないわ。


オフィスラブなんて、都市伝説。

その時、あたしは、そう思った。



世間の「オンナノコ」から外れたあたしに、「女の幸せ」なんか無いって信じていたんだけど。

コレがきっかけで、大きく変わることになるとは、予想も出来なかった。

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