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0008 ましろちゃんとうるしちゃんとボロ。

「私、このへんに住んでるんだけど、最近引っ越してきたばかりだから、近所のことよくわからなくて……。トリトン君、どこかおススメの所ってある?」

「えーと。駅前のショッピングモールは行きました? あ、行った? ダメだな……女の子とタメ口で話すの緊張するなぁ」

「うふふ。緊張なんて……。トリトン君も私も同じ人間じゃない。ライオンやワニと話してるんじゃないんだから……。そう思うと、気が楽にならない? 私は最近、そう思うことに決めたの」

ライオンやワニ……

想像するだけでもゾッとする。

「そ、そうだね。そう考えると気が楽になってきた。で、駅前のモールへは?」

「行ったことあるわよー。メジャーな所はだいたい知ってるの。もっとロコなスポットっていうか、あー、地元にこんな所があって良かった! 的な?」

 ましろちゃんって、勝手にお嬢様っぽいのかと思ってたけど、こうやって喋ると普通の女の子だな……


「じゃあさ、あのしらす丼屋は? あそこは美味しくて、僕は好きだなぁ」

「またメジャーな所を……うふふ。もっとマニアックというか……。あ、ごめんなさい。初対面なのに、私なれなれしいね」

「いや! もっとなれなれしくして欲しい! ましろちゃん! その調子で!」

「あははは! なれなれしくして欲しいって初めて聞いたわ。じゃあさ、今度この近所を案内してよ。トリトン君がバイトお休みの時にでも」

「いいけどそれって……」

「デートと思ってもいいよ! その方がワクワクできるよね?」

デート!?

この僕がデート?

たぶん今、僕の顔は真っ赤だろう。


 ましろちゃんはバッグからボールペンを取り出してコースターに携帯のアドレスを書いた。

女の子らしいかわいい文字だ。

「はい。これが私のメルアド」

「う、うん。」

僕はもじもじしながら受け取った。

「トリトン君のメルアドも知りたいなー」

え? あ、そうか……


 書こうとすると緊張で手が震える。

「あの、僕って今、からかわれてないよね?」

「大丈夫! 出会い系にアドレス売ったりしないから。うふふふ。」

震えてるのがばれない様にいったん後ろを向いてコースターにアドレスを書いた。

女の子とアドレス交換なんて、普通の男みたいだ。

いや、いたって普通の男なんだけど……

「じゃあ約束ね!」

ましろちゃんは小指を立てて僕の方に差し出してきた。

僕はましろちゃんと小指を絡めた。

「ゆーびきりげんまん……」

同じ人間なんだ。同じ人間なんだ。


 カランカラン。

マスターが帰ってきた。

「いやー、今日は全然ダメだわ。波の奴、やる気がないっていうかさ……あ、いらっしゃいませ! ショート君、お客様がいるなら早く言ってくれないと!」

有無を言わせず喋ってきたのによく言うな……

「すみません! お客様、いらっしゃいます」

ましろちゃんはクスクス笑っている。

「あれ? ショート君の知り合いかな?」

「いえ……」

「はい! そうです! お友達なんです! ねー? トリトン君!」

僕は小さく中途半端に頷いた。

「あー、そうでしたか! じゃあ、俺も友達みたいなもんだね! ごゆっくりしていってね!」

マスターの態度が途端にフレンドリーになった。

ましろちゃんは僕に小さくウインクをした。


「じゃあ私、そろそろ帰ります。じゃあトリトン君、メール待ってるね!」

 僕は頷いて小さく手を振った。

「ショート君! 彼女連れてくるなんて、やるじゃん!」

 ましろちゃんが出てドアが閉まるか閉まらないかの所でマスターが言った。

「しーっ! 違いますって! 聞こえちゃうじゃないですか!」

「あれぇ? 聞こえたらなんかまずい~?」

完全にからかわれてる……


 その後、客は一組も来ないで夕方になった。

「じゃあ、そろそろ上がっていいよ。明日はどう? 俺はどっちでもいいけど……」

どっちでもいいって……

「でも、僕が来なかったら店を閉めちゃうんですよね?」

「うーん。この調子だと明日もいい波は期待できなさそうなんだよね。だったら暇つぶしに店番してもいいかなぁって」

暇つぶし……

「じゃあ、明日昼前までに電話します。それでいいですか?」

マスターは親指を一本立てて、歯をキラリとさせた。


 僕は今日起こったことを整理したくて自転車を押しながら帰ることにした。

 整理しようとしても、ましろちゃんの笑顔ばかりが思い浮かぶ。

 そして、笑顔を思い出すたびにニヤニヤしてしまう。

 今メールしようかな。

 でもいきなりメールされても困るよな……

 そんなことを考えながらのんびりと家に帰った。


 家に着いて部屋の電気をつけると、窓の方からコンコンと音がした。

あ、うるしちゃん!

僕は慌てて窓を開けた。

「ごめん、ごめん! 今日はどうだった? ブラブラ団のこと、何かわかった?」

うるしちゃんは僕の胸元に飛んできて、キセルをくわえて口元に差し出した。

あ、忘れてた……

「もう! キセルをくわえてくれないと話せないじゃん!」

「ご、ごめん……。で、どうだった?」

「うーんとね。とりあえず工具と電池を拾ってきた! 新品だよー!」

へ? 工具? 電池?

「今度はそれで何をするつもり?」

「ロボット! トリトンもうボケちゃったの? その年で! きゃははは!」

ああ、例のおもちゃのロボットのことか……


 スーツケースからロボットを取り出すと、電池が入る所があるか探した。

一通り見まわしても、見つからなかった。

「これ、電池とか単純なもので動くんじゃないんじゃないかな」

うるしちゃんと話せるこのキセルだって、簡単な作りじゃないと思うし……

「トリトン、ここは?」

うるしちゃんがロボットの足の裏をつんつんしてる。

あ、両足の裏に電池をいれるっぽい所がある。

「あたしの方が、センスあるんじゃない? きゃはは!」


 ドライバーで足の裏のネジを緩めると、ふたがパカッと開いた。

ええと、

足の裏一つにつき単一の電池が一本だな。

 うるしちゃんが拾ってきた電池は、単一~単四はもちろん、ボタン電池や四角い電池まである。

 電池を入れるとピコという音と共にロボットが動き出した。

「やった! トリトン、動いたよ!」

ただの電池切れ?

ただの電池切れで捨てたのか……


「ねぇ、トリトン。こっち向いて~。ほら、ここの所を見て!」

胸の所にある、プラスティック製の窓の所に文字が流れている。

「ワタシノナマエハ ボロ デンチヲイレテクレテ アリガトウ」

お! 電池を入れてもらったことを自覚してるのか!

ってそんなわけないよね……


 ボロはゆっくり歩き出した。

そしてうるしちゃんの前で立ち止まった。

「アリガトウ ゴミバコカラタスケテクレテ カンシャカンゲキ アメアラレ ナノデス」

胸にはそんな文字が流れていた。

え?

ゴミ箱?

「ねぇ、トリトン! この子、わかってる? もしかして、会話できるとか!」

まさか……

「ホントに僕たちの言葉がわかるの?」

ロボットに話しかけてる自分がいる……

 するとボロはゆっくり僕の方を向いた。

「ワカリマストモ アナタガ ワタシニ デンチヲ イレテクレタンデスヨネ」

ホントかよ!

僕はうるしちゃんと目を合わせた。

「ボロはさー、なんでゴミ箱に入れられてたの?」

うるしちゃんが聞いた。

「デンチガナクナッタノト アキラレタノトデ ステラレタヨウデス」

なんかかわいそうだな。


「ボロ、こんな家で良ければ一緒に住まない?電池も無くなりそうになったら変えてあげるし」

「エッ? イインデスカ? デモワタシハ ウラワカキ オトメデス ワカイトノガタト ドウセイシテモ イイノカシラ?」

え? うら若き乙女? 同棲?

なんか急に恥ずかしくなった……

「ホンノ ジョークデス」

……。

「ワタシハ アクマデ ロボットデスノデ セイベツハ アリマセン」

ロボットにまでからかわれた……

うるしちゃんはきゃははと笑っている。


「トコロデウルシサン ワタシハアナタガ ナゼカラスニナッタノカヲ シッテイマス」

え?

ええ~~~~~~??

「ちょっと! ボロ! どういうこと? あたしも何でカラスになったのか知らないのに!」

「ワタシハ シッテイマス キキマスカ? Y/N」

 よく見ると電光掲示板の下に、すごく小さなYESボタンとNOボタンがある。


 僕はドキドキしながらうるしちゃんの方を見た。

 うるしちゃんは迷うことなく、くちばしでYESのボタンを押した。

「デハ ハナシマス トイウカ ヒョウジシマス」


 ゆっくり流れる文字に軽くイラッとしながらも、僕とうるしちゃんは目を皿のようにして、電光掲示板を見つめた。

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