0002 うるしちゃんの秘密。
「私は秘密結社シャドルーから送り出された刺客なのだ。ベガ様の為にあいつを倒すのが私の使命……」
なんかどこかで聞いたことある話だな……あっ!
「それってスト2のキャミィじゃん! 危うく騙される所だったよ! っていうかキャミィは鳥じゃないし!」
「きゃはは。バレた?」
「せっかく覚悟を決めて聞こうとしたのに…… もしかして呪いも嘘?」
「呪いはホント! じゃあさ、じゃあさ。私は……」
またさっきと同じ口調になった……
「あのさ、うるしちゃん!」
「え? 何? 怒った?」
「怒ってはいないけどさ、僕だって暇じゃないんだよ。夏休みだけど、今日はバイトもないけど、えーとえーと。とにかく、冗談を聞いてる暇はないの!」
「ご、ごめん。あたしったら調子に乗っちゃった。この数年誰とも話ができなくて、話したくてもカラスの私のことなんか誰も相手にしてくれないし、相手にしてくれる人って言ったら、石を投げてくる人とか追い払おうとする人とかで……。だからあたしの話を聞いてくれる人が見つかって嬉しくて嬉しくてつい……。ごめんね、トリトン。」
!!
初めて女の子から「トリトン」って呼ばれた!
女の子? 女子カラス?
……。
とにかく、空気が、重い。なんだこの痴話げんかみたいな空気……
「いや! 僕の方こそキツく言ってごめん。辛い思いをしたんだね。ごめんね、うるしちゃん。でも真剣に聞こうとしてた僕の気持ちも考えて欲しいんだ。」
なんか、普通の男女だな。
普通の女の子が相手だったら、こんなに饒舌になれないけど……
「で、呪われたってくだりは本当なの?」
「うん。話してもいい?」
なんか、しおらしくなった。かわいいな。
僕はゆっくり頷いた。
「うんとね。あたしホントは人間だったの。それで、ある日目覚めたらカラスになってたの。それで、こりゃイカンって思って文字通り家を飛び出して今に至るってわけ。」
物語を端折り過ぎだろ!
っていうか……
「え? うるしちゃんて人間だったの? っていうか人間なの?」
「今はカラスだけどなー!」
なんか声が悲しげな気がする。表情がずっと同じだからよく分からないけど……
「そっか……」
「そうなの」
僕らはしばらく黙ってしまった。
朝だっていうのに蝉が鳴いている。
二人の沈黙を埋めるかのようにジージーと一生懸命鳴いてくれている。
「あ!そうだ! おじさんに会いにゆこう!いま、会いにゆきませんか?」
なんで敬語?
「おじさんって?」
「あのね〜、鳥好きなおじさん」
鳥好きな?
「どこにいるの? その人」
「うんとね。そんなに遠くないよ。あたしについてきてくれる?」
「わかった。でもうるしちゃんと同じスピードで走る自信がないから、自転車で追いかけてもいい?」
「うん。じゃあ先にトリトンのアパートの屋根の上に行ってるね」
そう言うと彼女は、バサバサと音を立てて僕が住むアパートの方へ飛んでいった。
少し早歩きをしながら僕はアパートに向かった。
これは夢じゃないよな。
試しに肘の皮の部分をつねってみた。
痛くなかった。
ここはいくらつねっても痛くないんだけどね。
なんて一人でコントをしているとアパートに着いた。
アパートの屋根の上にうるしちゃんはいた。
ちょっと自転車、みたいなアクションを彼女にして、僕は自転車置き場へ行った。
自転車置き場には管理人のおばさんがいた。
「あらショートくん! さっきのカラスは? うまくおっぱらってくれた? もうほんっとに最近のカラスは、ふてぶてしくて困るわねぇ。なにその首からぶら下げてるの? キセル?」
返事をする間も与えてくれず喋り続ける。
「はい。あ、はい。じゃあちょっと出かけてきます」
適当に返事をして自転車を出した。
悪い人じゃないんだけどね……。
管理人のおばさんは、今まで何人の人からそう思われただろう。
僕は屋根の上のうるしちゃんに向かって、行こうというふうに親指を立てた。
するとうるしちゃんが飛び立った。
僕が走りやすいように道路に沿って飛んでくれている。
これは駅に向かう方向だな。
途中うるしちゃんは、信号が赤になったら信号の上に止まり、青になったら僕の方を一回確認して飛び立つ。
ギャルっぽい子だと思ってたけど、意外と気が利くんだな。
黒ギャル……。
しばらくして、うるしちゃんはここだよと言わんばかりに赤い屋根の家の上に止まった。
ここが、鳥好きなおじさんの家? こんな町中に住んでるの?
イメージとしては人里離れた山奥にひっそりと鳥と会話しながら住んでる感じだったんだけど……
僕はもう一度家を眺めてみた。
っていうか!!!
「はい、この人が鳥好きなおじさん」
そう言いながらうるしちゃんは白いおじさんの頭の上に乗っかった。
「カーネルサンダースじゃん!」
ケンタッキーフライドチキンの店舗だよ……
「てへへ、冗談。トリトンがちょっと休憩したいかなと思って」
「そ、そうだね。でもチキンは遠慮しておくよ。じゃあお言葉に甘えてアイスコーヒー買ってくる」
うるしちゃんは、どこからどこまで本気なんだろう。
ま、いいや。どうせ夏休みで暇だし……
僕は買う予定のなかったアイスコーヒーを買う為に店に入った。
※作者からの余計なお世話コーナー。
キャミィのことをホントはよく知らないっていう…w
ググりましたw