0001 僕とカラス。
なんだか外が騒がしくて目が覚めた。
夏休みのこんな早い時間に僕を起こすなんて、まったくけしからん奴だ。
僕はけしからん奴の声を聞いてやろうと耳を澄ました。
「もー! あっちいきなさいよ! しっ! しっ!」
あの声はうちのアパートの管理人だな。何かが起こらなくても騒がしい人なのに、何かが起こると騒がしさは倍増する。
僕はアパートの小さい窓を開けて外の様子を伺った。
通りの方から声が聞こえてくるけど窓からは通りの様子が見えない。
「仕方ないな」僕は独り言を言いながら着替えをした。
着替えって言ったってパジャマの上下を脱いでジーパンとTシャツを着るだけの簡単仕様だ。
鉄で出来た階段をトントントンと下がると、竹ぼうきを持った管理人のおばさんがこちらを見上げながら言った。
「あー、いい所に来たよショート君。アレをなんとかしてくれない?」
おばさんはただでさえ丸いほっぺたをさらにまるく膨らませていた。
「アレってなんですか?」
階段を降りきって、おばさんがほうきで指す方を見ると、ゴミ収集所の所に一羽のカラスがいた。
「あいつがずっとあそこに居座ってて、追い払おうとしてもびくともしないんだよ。しっ! しっ!」
おばさんはほうきの先をカラスに向けているけど、反撃が怖いのか当ててはいない。
ゴミを漁ってるわけでもないし、なんかかわいそうだな……。
僕はカラスをじっと見た。
するとカラスも僕のことをじっと見返してきた。
あれ? 動物って目が合ったらなんかまずいんじゃなかったっけ?
そう思っていると、瞬間カラスは僕に向かって飛んできた。
僕はビックリして尻餅をついた。尻餅をついた僕の肩にカラスは乗っかってきた。
「ひえぇ〜。ごめんごめん」僕はなぜかカラスに謝った。
するとカラスは僕の目の前に飛び降りた。
「ん? もしかして、人間の言葉がわかるの?」カラスは知らんぷりだ。
そりゃそうだよな。カラスが頭いいっていうのは聞いたことあるけど、人間の言葉がわかるわけがない。
「おばさん。なんかコイツ悪い奴じゃなさそうだし、後は僕がなんとかするよ。」
この調子で町中全員が目を覚ましちゃったら、みんながかわいそうだし。
「ショート君がそう言うなら任せるけど、怖くないの? カラス……」
僕は頷くと、目配せをしておばさんを管理人室に促した。
僕はカラスと二人っきり?になると、今一度話しかけてみようと思った。
「あのさ……」
僕が言いかけると、カラスは翼の奥から何かをくわえて僕に差し出した。
それはキセルだった。
くわえる所と葉っぱを詰める所が銀で、中間の部分は木でできた至って普通のキセルだ。
普通と違うのは首からかける為にあるような革ひものストラップがついている所だ。
「えっと、これをくわえればいいの?」
またカラスに話しかけてしまった。
しかし今度はカァと小さい声でカラスが答えた。
ホントかよ、と思いつつも僕はキセルをくわえた。
「ショート君だったよね? ちょっと人目につかない所に移動しない?」
へ?
どこかから声が聞こえた。
周りには誰もいないのに……このカラスを除いては……
カラスの方に目を向けると頷くような動作をしている?
「君が?」
「うん。そう。」
これはドッキリじゃないかと周りをキョロキョロしたけど、やっぱり誰もいない。
まあ、僕はドッキリを仕掛けられるほど有名人でもないんだけど……
もう一度カラスの方を見ると
「もう! 早くしてよ! そんなんじゃ女の子にモテないよ!」
かなりグサッとくる一言を言われた。
「じゃあ、あっちの方に子供すら近寄らない公園があるから、そこに行こう!」
僕は、急に堂々とした。
「きゃはは!」
カラスに笑われた……
カラスは公園へ向かう僕の頭上を飛びながらついてくる。
しかし、なんだろ。このキセルのお陰でカラスと会話が出来るようになったんだろうか?
ちょっと歩くと目的地の公園に着いた。
木々に覆われているせいで昼でも真っ暗なこの公園は、イチャつきたいカップルぐらいしか近づかない。こんな朝っぱらだとカップルもいないのはわかりきっている。
ちょっと湿っている木でできたベンチに腰掛けると、カラスは僕の目の前に降りてきた。
カラスはカァと言いながら僕の方に飛んできて、手に持っていたキセルを奪って口元に差し出した。
「そっか。これをくわえてないと、君とは喋れないんだよね?」
「私は今までクロウライダーを探してきた。」
「ちょっと! いきなりのドラマティック展開? と、とりあえず自己紹介とかないの?」
「あ、そうね。あたしったらせっかちさん。てへぺろ。」
なんだろう。カラスなのにちょっとかわいい。
「僕の名前は鈴木鳥屯。現在ハタチの現役大学生。」
「え? ショート君じゃないの?」
「ああ、ショートはあだ名。鈴木って結構多いでしょ? で、見ての通り背が小さいから小さい方の鈴木ってことでショート。」
って、カラスになに話してるんだろう。
「なるほどね。じゃあロング君もいるってことね。」
「いや。大きい方の鈴木はグランデ。単位がスタバ的ってことね。」
カラスもスタバ知ってるのか?
「きゃははは!ウケる!」
知ってるようだ……
「あたしは……」
え? カラスにも名前があるの?
「あたしは黒羽漆。女の子だから年齢はナ・イ・ショ。うるしって呼んでね。」
女の子? メスの間違いじゃ……
「うるし……ちゃんは……。か、カラス……なんだよね?」
「そうだよ〜。呪われたカラス。きゃはは。」
呪われたカラス?
僕は唾をゴクリと飲んだ。そして彼女の次の言葉に耳を傾けた。
※作者からの余計なお世話コーナー。
スタバのサイズってグランデ以上もあるんですねw
よく飲んでた頃はグランデが一番大きかったですw
一番大きいのはヴェンティって言うんですか?