0014 決着。
「よし! こうなったら破れかぶれだ! うるしちゃん! なるべくあいつに近づいて! そしたら僕が飛びついて……噛みつく!」
「うん! トリトン、やるしかないよ! あいつを倒さなきゃ、いつまでたってもカラスは悪者だし!」
「うるしちゃん! 僕らならやれる!」
「うん! ホントにトリトンと出会えて、あたし、良かった!」
僕もだよ!
うるしちゃんにぎゅっとつかまった。
「でもその前に……やっぱりちょっと呼吸が苦しくなってきたから、あいつの隙をみて降りるね!」
うるしちゃんは突然猛スピードで悪魔に向かって飛んで行った!
ぶ、ぶつかる!
と思った所で急降下した。
着地するとうるしちゃんが一回小さくなる!
はぁはぁと肩で息をしている。
長い間巨大化してたんだ。疲れてるだろう……
「お前ら……変身ヒーローみたく、変身の間、敵が待ってくれるとでも思ってるのか? いくぞ!」
ものすごい勢いで悪魔が向かってきた!
うるしちゃんはまだ、はぁはぁ言ってて巨大化できなさそうだ。
どうなる?
噛みつかれて、引っ掻かれて、蹴られて、殴られて、ビームで貫かれて、実は翼が刃物で切り裂かれるのか?
頭の中で悲惨な光景が次々と浮かんだ。
「キーーーーーーーーーーーーー!」
うわ!
なんだこのキーキー音は!
不快な音がずっと鳴っている!
「うわー! なんだこりゃ! うるせー! うるせー!」
悪魔はしゃがみ込んで耳を押さえている。
「は? お前ら、なにやってんだ?」
ピッチャーさんは不思議そうに僕らを見た。
うるしちゃんも平気そうだ。
辺りを見回すと、リュックからボロが出てきていた。
ピコ……
電光掲示板が光った。
「CAUTION! これはモスキート音です 18kHzの音を最大ボリュームで出力中です」
モ、モスキート音?
「う、うるしちゃん! 今だ! 巨大化して!」
「うん! 何だかわからないけど、今がチャーンス!」
僕は耳鳴りをこらえながら、巨大化したうるしちゃんにつかまった。
「よし! 体当たりだ!」
思いっきり低空飛行で僕とうるしちゃんは悪魔に向かって行った。
悪魔はまだ耳を押さえている。
体当たりした瞬間、ものすごい衝撃が体中を走った。
そのまま、僕と悪魔とうるしちゃんは、団子状に転がった。
「うおーーーーー! くそ! くそ! くそ! もうこの体はダメだ!」
悪魔はすっくと立ち上がり、大きく息を吐いた。
悪魔が元のグランデに戻って行く……
そしてすっかり元に戻ると、全裸のグランデはぐったりと倒れた。
その瞬間、グランデの口から煙のようなものが出てきた。
煙は空中に浮かんで集まると、大きな一匹のコウモリになった!
コウモリはそのまま飛んで逃げようとした。
そこにイッキが翼を大きく広げて立ちはだかった!
「おい、おい、おい! お前さ! 逃げようとしてんじゃないだろうな! 俺はまた燃えちゃうぞ! うひゃひゃ!」
コウモリはイッキに謝るような素振りをしている。
コウモリの話し声はキセルをくわえてても、聞こえない?
「まず、お前は鳥類じゃないことを、みんなに説明しろ! お前みたいなのが鳥類だったら面汚しになる!」
あ!
このキセル、鳥類としか話せないんだった!
コウモリはこっちに向かって、必死になんか言っている。
でも、全く聞こえない……
「ねぇイッキ。そいつ、なんて言ってるの?」
「んー? ショート聞こえないのか? ごめんなさい。もうしません。僕は鳥類じゃありませんから、鳥類が悪いんじゃないんですよ、と言ってるな。うひゃひゃ!」
その後、イッキを通じて、今回の一連の出来事はどういうことだったのかをコウモリから聞き出した。
コウモリは哺乳類でありながら、進化の過程で人間やその他の哺乳類、そして鳥類に追いやられた。
明るい空には鳥類が飛び、暖かい地上では人間が我が物顔で過ごす……
いつの日にか、人間と鳥類に復讐してやろうと思った。
暗闇の世界から、明るい世界へ戻ることを、淘汰されたその日からずっと願ってきた。
このコウモリは生まれながら大きな体を持ち、人間に乗り移れるという特殊な能力を持っていた。
吸血鬼となって人間界を脅かしたコウモリ以来の、コウモリ界きっての期待の星だった。
頭のいいコウモリは、金持ちの人間に乗り移ろうと計画した。
実家が研究所を所有しているグランデは、うってつけの人材となった。
寝ている時に、そっと乗り移り、グランデの記憶をたどり、グランデになりきった。
なんか出来過ぎた話のようだけど、コウモリはそう言っている……
まず、研究所で鳥類と話せる道具を作らせた。試作機として、キセルが出来上がった。
イッキやうるしちゃんと話せる、このキセル……
手始めに人間と敵対状態にあるカラスたちをたぶらかし、溝を深めることにした。
ブラッディ・ブラックを名乗り、カラスの繁栄を手助けするフリをしたのだ。
ゴミからお宝を集めさせて、人間に迷惑に思われるよう仕向けた。
カラスはグランデの入れ知恵でどんどん賢くなり、それに対抗して人間は対策を練る。
思った通り、カラスと人間の対立は深まった。
このモデルケースを人間VS鳥類へ持って行き、疲弊した所をコウモリが一網打尽にする……
そんなシーンを夢見た。
半ば信じられない話ではあるけど、悪魔の姿を見た僕には十分頷ける。
ある日このコウモリは、人間に乗り移ることによって、さらに特殊な能力を身に付けていたことを発見した。
人間を睨みつけると、あらゆる鳥類に変えてしまう事ができる……
これを利用しない手はない。
多くの人間をカラスに変えてしまえば、弱きものが増え、強きものが減り、つぶし合いのバランスが整ってくるという算段だ。
うるしちゃんも、カラスにされてしまった人の一人なんだよね……
さらに、鳥類を人間に変えることもできるようになった。
この能力は使い道がないかとも思ったが、絶好の機会が訪れた。
あるカラスからブラッディ・ブラックを壊滅させようとする人間がいるという情報を得たのだ。
壊滅なんて冗談だと思ってたけど……
そこで、グランデの家の庭で飼われていた白鳥を人間にし、偵察をさせることにした。
それがましろちゃんだ。
ましろちゃんを僕に近づけさせ、僕とうるしちゃんの仲を裂こうと目論んだ。
まずは目の前の邪魔者を消し、人間カラス化計画をさらに進めるつもりだった。
しかし、全て失敗に終った……
コウモリもかわいそうと言えばかわいそうだけど、進化の過程においての自然淘汰は誰の責任でもない。
むしろ絶滅してしまった種もいると思えば、まだ幸せかもしれない……
そっか……
生きてるだけで幸せなんだよな……
ところで、うるしちゃんは? ましろちゃんは?
うるしちゃんは、カラスの姿に戻って倒れている。
息は……ある!
ましろちゃんは……
ましろちゃんは全裸で倒れているグランデに寄り添っている。
ただの白鳥とただの人間の時に、どんな関係だったかは聞いてないけど、
ボロに優しかったグランデだから、二人の関係も容易に想像できる。
ピコ……
「勝人さん! 大丈夫ですか? Y/N」
ボロもグランデに近づこうと必死に砂の上を歩いている。
僕はボロを抱えて、グランデの隣に置いてあげた。
グランデも、息はしている。
あ!
あーーーーー!
「イッキ! うるしちゃんはずっとこのままなの? そいつに聞いてよ!」
「えー、めんどくさいな~! いいじゃんか! お前らお似合いのコンビだぞ!」
「3袋! いや! 5袋餌を買ってあげるから、お願い!」
「渡すときはゆっくりだからな! うひゃひゃ!」
僕はうるしちゃんを抱き上げた。
小さな体でよく頑張ったね。
うるしちゃんが愛おしい。
「元に戻せるってよ! ただ……。ただな……。こいつが死ぬか、もう一回人間に乗り移らないと無理だって……」
え?
「他に方法はないの?」
「ないってよ。どうすんだよ、ショート。」
「あたしこのまんまでも……カラスのまんまでもいいよ」
うるしちゃんが目を覚ました!
「なにいってんだよ! このままじゃダメだ! 普通の女の子に戻らなきゃ! それに……それに僕だって、大好きなうるしちゃんの人間の姿が見たいんだよ! 一緒にデートだってしたいし食事もしたい!」
「なにそれー! トリトン、あたしに愛の告白?」
僕は真っ赤になった。
「うん! 僕は、うるしちゃんのことが好きだ! あ、そうだ! コウモリを僕に乗り移らせればいいんだよ! それでうるしちゃんを人間にする!」
「ダメ! あたしだって大好きなトリトンが悪魔になっちゃったら嫌だもん!」
両思いだ……
今までだって、女の子と付き合ったことないわけじゃないけど、こんなに誰かのことを愛おしく思ったことはない。
うるしちゃんを人間に戻したい!
今の僕の願いはそれだけだ!
僕はどうなったっていい!
「イッキ! 僕に乗り移るようにコウモリに言って!」
「ショート、お前……」
「イッキ……」
「もう5袋追加な! うひゃひゃ!」
僕はずっこけた。
※作者からの余計なお世話コーナー。
モスキート音はこちらのサイトで確認できます^^
http://genbusai.blog6.fc2.com/blog-entry-56.html
あなたの耳年齢はいくつでしたか?w