0011 本当に僕でいいんだろうか。
木々に囲まれた遊歩道にあるベンチへ僕らは移動した。
「日陰はやっぱり涼しいね。はいトリトン君どうぞ」
夏に日陰でソフトクリームなんて、なんて贅沢なんだろう。
それに……
ベンチの隣にはかわいい女の子。
数日前の僕だったら全く考えられないことが起こっている。
「ねぇ、トリトン君って、彼女とかいたりするの?」
いきなりのロマンティック展開!?
なんて答えよう。
ここは素直にいないと答えた方が?
僕に興味なかったらこんなこと聞かないよな……
ただ、彼女がいないか聞かれただけなのに、顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。
ふと、うるしちゃんのことが心をよぎった。
「トリトン君、優しいからモテそうだよなぁ……」
「そ、そんなこと……ないです……ないよ」
「おかしいなぁ……私が好きになる人はモテる人が多いんだけど……あっ……」
え?
好きな……人?
ましろちゃんの顔も真っ赤になった。
二人してうつむいて真っ赤な顔をしてる。
ソフトクリームがどんどん溶けて、手の方までたれてきた。
「あ、あの……。溶けちゃうから先に食べちゃおうか……」
思わず“先に”と言ってしまった。
じゃあ、食べ終わったらどうするんだよ! 僕!
僕らは黙々とソフトクリームを食べた。
そしてあっという間に食べ終わってしまった。
「手までたれてきちゃったね。ちょっと手を……」
「トリトン君! 好きです!」
そう言うとましろちゃんが僕に抱きついてきた!
そして、そっとキスされた。
僕は目をつぶった。
ましろちゃんの唇は柔らかく、少しソフトクリームの甘い味がした。
「トリトン君の唇……甘い。」
ましろちゃんは照れながら言った。
「あの……僕は……」
ましろちゃんは首を横に振った。
「トリトン君は何も言わなくていいよ」
こんな口べたな僕のことを、好きになってくれる女の子がいるなんて不思議な気分だ。
「手、洗いに行こうか?」
やっと出せた言葉がこれだった。
ましろちゃんは僕の腕にしがみついてきた。
「あ、腕にベタベタがついちゃうね。でもいっか! どうせ洗うし! あははは」
屈託のない笑いが本当にかわいい。
本当にいいんだろうか……
本当に僕でいいんだろうか……
楽しい時間はあっという間とよく言うけど、本当にあっという間に夕方になった。
「家まで送ろうか?」
「まだ明るいし、そんなに遠くないから大丈夫! それよりトリトン君。またデートしてくれる?」
僕は頷いた。
そして小さく手を振ってましろちゃんと別れた。
その後こっそりと池に戻って、イッキを呼んだ。
「さっきの話だけど……」
「お前さ、タイミング悪いよ! 彼女にもよく言われるだろ? 俺は今から晩飯だからもう無理! どうしても知りたいっていうなら夜中にこっそりここに来いよ。来なかったら知らないよ、餌は返さないからな! うひゃひゃ!」
僕は頷いて公園を出た。
僕は帰りながら、今日起こったことを思い返した。
ましろちゃんのこと、無理矢理にでも送った方がよかったかな。
ましろちゃんのこと、なんにも知らないんだよな……今日で会うの2回目だし。
でも今日は本当に楽しかった。
うるしちゃんにも報告した方がいいかな……
あ! うるしちゃん!
グランデのことを調べてくるって言ってたよな。
慌てて自転車をこいだ。
家に着くとすぐ窓を開けて外を見た。バサバサと何かが飛んで行く音がした。
「うるしちゃん?」
僕はキセルをくわえてうるしちゃんを小さな声で呼んでみた。
すると遠くからカラスがすごい勢いでこちらに向かってきた。
うるしちゃんだ。
うるしちゃんは入るなり「窓を閉めて」と小声で言った。
いつになくシリアスなうるしちゃんにビックリして、慌てて窓を閉めた。
「どうしたの?」
僕は小声で聞いた。
「なんでもない……ちょっとスパイっぽいことしたかっただけ! きゃはは!」
なんだよ、またからかわれたのか……
ん?
うるしちゃん、胸の所を怪我して血が出てるじゃないか!!!!
「その怪我! どうしたの?」
「ありゃ。バレちゃった……。トリトン、怒らないでね……」
「怒らないよ! 心配してるの! 誰にやられたの? 大丈夫なの?」
「怪我は大丈夫! カラスやってりゃ、こんなのザラよー! 襲ってきたのは……。ブラブラ団よ」
ブラブラ団?
「グランデのことを調べてたんじゃないの?」
「調べてたよー。あの洋館の周りをね。何かわからないなぁと思って、くまなく何周もぐるぐる調べたの。そしたらさアイツ……グランデが出てきてさ、あたし慌てて隠れたの。でも気づかれちゃったんだよね、あたしの羽音でさ。で、アイツがすっと右手を高々と挙げたの。そしたらさ……そしたらさ……えーーーん……」
「うるしちゃん」
僕はうるしちゃんを抱きしめた。
「怖かったよー、トリトン。ホントに怖かったんだから……」
うるしちゃん……
うるしちゃんが怖い目に遭ってた時に、僕は何をしてたんだ!
自分自身に、ものすごく腹が立った。
「うるしちゃん……一緒に行かなくてゴメンね。やっぱり一緒に行くべきだった」
「いいの! トリトンはバイトでしょ! よーく考えようー、お金は大事だよー」
違うんだ。
違うんだうるしちゃん。
ホントにゴメン!
心の中でしか言えなかった。
僕は卑怯な奴だ。
「それでね……アイツが手を挙げたら、どこに隠れてたのかしらないけど、そこら中からカラスが集まってきたの。あれは絶対ブラブラ団よ。だってみんな悪そうな顔してたし、斜に構えてたもん」
カラスはみんな悪そうに見える気もするけど……
「それで、アイツがブラブラ団に向かって何か言うと、全員で一斉にあたしの方に向かってきたの。あたし、びっくりしちゃって一瞬固まっちゃったんだけど、飛んで逃げたわ……それはもう本気のスピードでね。一回海の方に向かって逃げたんだけど、海の上じゃ隠れる物が何もないことに気づいて奴らをおびき寄せてから急転回したの。その時、すれ違い様にちょっと攻撃されちゃったんだけど、木がいっぱいある公園の中に飛んで行って、見事奴らをまいたってわけ。それで、念のため暗くなるまで隠れてたの。どう? あたしの大冒険、きゃはは!」
「怖かったよね……。どれ、傷を見せてごらん……」
そんなに深くはなさそうだけど、血が出てる。
傷口を消毒をして軟膏を塗った。
しかし……。
グランデとブラッディ・ブラックの関係は?
うるしちゃんの話を聞く限り、グランデがブラブラ団に指示を出してたっぽいけど……
ピコ……
ボロが電光掲示板で話し始めた。
「いまの勝人(グランデ)さんは、勝人さんではありません。何かに取り憑かれているような気がします。悪魔のような何かに……」
取り憑かれている、か……
「あれ? ボロ、漢字で表示できるんだ! だったら早く言ってよ! 昨日のカタカナは見づらかったよー! きゃはは!」
「スミマセン カタカナノホウガ ロボットッポイ カト オモイマシテ」
「なに演出しちゃってんのよ! きゃはは!」
あ、そういえば。
「うるしちゃん。今日の夜中、一緒に公園に行って欲しいんだけど、いい?」
「えぇー? 夜中は眠いよー! 寝ない子は育たないってよく言うでしょ!」
寝る子は育つの逆か……
「ちょっと早いけど、今から寝て夜中に起きよう。どうしても気になることがあるんだ」
「うーん。トリトンがそこまで寂しがるんだったら、一緒に行ってやっても構わないぞよ」
ピコ……
「私も連れて行ってください。勝人さんのことを救いたいですし……」
グランデの事はあまり関係ないんだけどね……
「よし! じゃあ僕とうるしちゃんとボロの3人で1チームとする! 諸君! まずは夜中に備えて寝てくれたまへ!」
「らじゃ!」
「アイアイサー!」
適当なチームでも、返事ぐらいは決めておいた方が良さそうだ……
まだ外では車が走っている時間だ。
でも、夜中に備えて、今は寝よう。
寝られないかと思ったけど、僕は案外すんなりと眠りについた。
※作者からの余計なお世話コーナー。
恋愛シーンを書くと、一気に厨二臭がしてきますw
中の人はただのスケベじじいなんですけどねw