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第一節:雨の中で

「……お前、こんなところで何やってんだ?」


スコールの如く、激しく雨が降りしきる街。

疎らにしか見えない人の姿。

そんな中俺の目に映ったのは、この豪雨に頭からズブズブに濡れ、マンションの前に、まるで子猫のように小さく縮こまる、ヒトリの女の姿だった。


〜〜〜


朝飯にバタートーストをかじりながら、目線の先のお姉さんを見る。

「……ただ今入った新しい情報によりますと、午後は関東地方を中心に激しい雨が降る。との事です。ご注意ください。それでは交通情報……」

そこまで聞いてテレビを消す。

今日は日曜日。特に用も無く、外に出る事の無い俺には交通情報はいらない。

ならば何故天気予報は必要なのか。それは俺がマンションで1人暮らしをしていてる関係で、洗濯を自らが行っているからである。

「さて、どうしたものかな。……何もすることねーし、早めに洗濯機回して二度寝二度寝」

そうして俺は、昼過ぎまで惰眠を貪る事にした。

虚ろいゆく意識下である事がふと頭に浮かんだ。

―そういや、食材切れてんだったなぁ……―と。

しかし、3大欲求には勝てるわけも無く、結局買いに行かず仕舞いで午後が訪れる。

乾燥機は既に止まっており、蓋を開け、洗濯物を手に取ると、ふわっとしていてほんのり暖かく、そのまま顔をうずめたくなる衝動に駆られた。

「あーっと、そーいや買い物行かないと明日食べる物が無いんだった」

洗濯物をたたみ終え、ふと思い出した事だった。

基本的に俺は出前を取らない。なぜならば、自分で作ったほうが安いし、作るのも楽しいし、何より美味しいからだ。

だからと言って別に出前が不味い訳ではない。それはやはり人様に出すものなのだから万人に受け入れられる味であり、美味しくもある。しかし、やはり自分で作ったほうがより美味しく感じられるのだ。

「……まだ雨も降ってきてないし、急いで行けば大丈夫だろう」

財布にカバン、もしもの時の為の折りたたみ傘を持つと、急ぎ足でスーパーへと向かった。



「ありがとうございましたー」

必要最低限の物を買い揃えてから店外へ出る。その際、何度も練習したであろう良く響く声と、満面の笑顔で見送られた。

外は少し風が出てきて湿っぽくなっていた。まだ少しは大丈夫だろうが急がなければ降られてしまう。

俺は卵を潰さないよう、袋が揺れすぎない程度の速さで歩いた。



―ザーザー

何時からだろうか、空から水滴が落ちてきだしたのは。

初め途切れ途切れのデジタルだったものが、今では絶えず連続したアナログへと姿を変えていた。

ある程度予想はしていたものの、やはり降られると腹が立つ。

しかし事前に入れておいた折りたたみ傘が役に立ち、最悪のずぶ濡れ状態は回避する事が出来た。

「それにしても酷い雨だよな。まるでスコールだ」

暫くは、この雨の中に身を置かなければならなかった。


尚もとめどなく降りしきる雨の中を歩き続け、ようやくマンションへと舞い戻る事が出来た。

俺の住むマンションは小さく、郊外に位置している。

なので意外と人はやってこない。

人ごみの苦手な俺にとって、まさにうってつけな物件だ。

さあ、帰ろう。そう思ったときだった。

俺の視界にふと、何かが映った。それは一瞬の事であり、錯覚かとも思えたが、惹かれるようにその場所へ歩く。ふと見渡すと、放置自転車の陰に何かがあった。

当然のようにそれに近づいていく俺。そこで見た物に、我が目を疑った。それは物ではなく人。それも、この雨に打たれたのかずぶ濡れで、猫の様に丸まって座っていた。

しかし、一番驚いたのは、その人が同じクラスの奴だったのだ。


「おい!大丈夫か?」

咄嗟な事に、少し動揺しながらも近づき、体を揺らしてみる。すると、彼女が口を開いた。

「……あなたは…」

微かな声量であまり聞き取れなかったが、確かに彼女はそう口にした。

「お前…何でこんなとこに?…って今はそれ所じゃ無いな。とりあえず、歩けるか?」

「……いいから、ほっといて」

いつもの明るく元気な彼女とは打って変わって、いかにも元気が無く衰弱しきった声だった。

「そんなこと言ってる場合か!こんなとこにいたら死ぬぞ!!」

「……いいの、もう…疲れたの……」

彼女のその一言で、俺の中の何かがハジけた。

俺は、持っていた荷物を置くと、無言のまま彼女を背負い、そのままエレベーターへ向かった。背負った彼女の体は、氷のように冷たかった。

「ちょ、ちょっと!おろしてよ」

彼女は当然の如く拒む。

「やだね。マンションの前で死なれるのは困る」

「アンタには関係ないでしょ!」

「そうだな。関係ない。けどお前、死のうと思っていたんだろ?全てを捨てたお前を俺がどうしようとお前には関係ない」

「そんな屁理屈………」

「良いから黙ってろ」


それから無言が続いた。しん、と静まり返ったエレベーター内に到着音が鳴り響く。

自宅の前に着くと、鍵を開け中へ入る。

そしてそのまま浴室へ行く。あらかじめタイマーをセットいた為、浴槽には既にお湯が張っていた。それを確認すると、脱衣所に彼女をおろし、バスタオル等を用意する。

「おい、早く風呂へ入れ。風邪はともかく肺炎なんか罹るのは嫌だろ?」

「……どうして?なんで私なんか……」

「いいから早くしろ。話はその後だ。……何なら直で風呂に放るぞ?」

そう言うと、彼女はあきらめたように頷いた。

「服の事は気にするな。姉貴のを貸すから。今着てる奴は洗濯機に入れておいてくれ。それとそこにあるのは自由に使え。あとは、出たらダイニングのテーブルへ来てくれ」

それだけ言うと、俺は脱衣所を出た。




着替えのための服を用意してから、彼女を背負った時に外へ置きっぱなしにしていた明日のおかずを持ちに行って来た。

もしかしたらどっかの誰かさんに持ってかれたかな、と思っていたが幸い元の場所にそのままの状態で残っていた。これで、飯に困らずに済んだ。

部屋へ戻り、適当にテレビをつけて台所へ向かう。

我ながら殺風景な冷蔵庫に、必要最低限の要冷蔵品を入れ、その中から今夜の料理のための材料を用意する。

栄養があって、温まる料理。明日も引き続き食べられる優れもの、皆大好きカレーライスだ。

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