第1話「仲間を作ると、お金がかかる」
世界を救う勇者は、誰よりも強かった。
だから仲間はいらなかった。
・・・いや本当の理由はもっと現実的だった。
「1人分の方が安くないですか?」
これは、世界最強なのに世界一節約家な女勇者フェルミノが、財布と相談しながら魔王討伐を目指す。ちょっとズレた冒険ファンタジー。笑って、ときどき少しだけ心が温かくなる物語です。
ルーメリア王国。
王城の大広間には、重苦しい空気が漂っていた。
世界の北には、冥王ヴァルドが築いた黒い城。
魔物は年々勢力を増し、各地の街は怯えながら暮らしている。
その脅威を止められるのは、勇者だけ。
王座に座る国王レオネルは、目の前に立つ少女を見つめた。
「勇者フェルミノよ。」
「はい。」
「世界の命運を、お前に託す。」
「はい。」
「冥王ヴァルドを討ち、人々、そしてこの世界に平和を取り戻してほしい。」
「はい。」
王様は満足そうに頷いた。
ここまでは、歴史書に載るようなやりとりだった。
「そして、旅立つ前に。」
「はい。」
「旅人登録所へ向かい、信頼できる仲間を集めるのだ。」
「・・・仲間ですか。」
「そうだ。」
「・・・必要ですか?」
「何を言っておる。当然必要だろう。」
「・・・1人で倒せます。」
「倒せるかどうかの話では・・・」
「倒せます。」
「そこは疑っておらん。」
「ありがとうございます。」
「褒めておらん。」
王様は咳払いをした。
「昔から、勇者に限らず、ここを旅立つものたちは仲間と共に旅立っていった。」
「そうなんですね。」
「戦士が前線を支え、僧侶が傷を癒やし、魔法使いが敵を焼き払う。」
「はい。」
「だから仲間を集めるのだ。」
フェルミノは真剣な顔で聞いていた。
そして、静かに言った。
「宿代が増えます。」
「・・・うん?」
「4人なら4人分払いますよね。」
「まぁ、パーティだからな。」
「1人なら・・・1人分ですよね。」
「そうだな。」
「私だけが疲弊していても、他の3人も泊まりますよね。」
「そうだな。」
「高いです。」
王様は黙った。
その隣で元冒険者であった大臣が、何やら呟いている。
「・・・確かに、みんなが疲弊している時って・・・何回あっただろうか」
「大臣、数えるでない。」
王様は大臣を制した。
「フェルミノ。」
「はい。」
「旅は宿代だけではない。」
「はい。食事もです。」
「食いつくな。」
「4人で食べると4人分です。」
「当たり前だ」
兵士たちの肩が小刻みに震え始めている。
王様はまだ諦めない。
「もう良い。一応これを渡しておこう。」
そう言って、大臣が何やら袋を持ってきた。
「戦士の武器だ。」
「はい。」
「僧侶の杖。」
「はい。」
「魔法使いの杖。」
「はい。」
「これらをフェルミノに・・・」
「だから私は1人です。」
「結論が早い。」
「これを売って、剣を買えということですね。」
「初期装備を売るでない。」
「防具も1人分です。」
「そうだが。。。」
「財布に優しいです。」
「武器屋には優しくないな。」
王様は額を押さえた。
「仲間とは、金で考えるものではない。」
フェルミノは少し考えた。
「・・・では、無料ですか?」
「違う。」
「日当制ですか?」
「違う。」
「成功報酬?」
「求人じゃない。」
「歩合制?」
「どこの商会だ。」
兵士の1人が吹き出した。
「ププッ」
「笑うでない!」
王様は立ち上がった。
「フェルミノ!」
「はい。」
「仲間には、お金で買えない価値がある。」
「例えば?」
「苦しい時に励まし合える!」
「私は、あまり落ち込みません。」
「怪我をしたら助けてもらえる!」
「怪我をしません。」
「道に迷ったら相談できる!」
「地図を見ます。」
「魔物に囲まれたら!」
「倒します。」
「橋が壊れていたら!」
「泳ぎます。」
「毒になったら!」
「薬草を飲みます。」
「薬草が無かったら!」
「帰ります。」
「帰るのか。」
「無理はしません。」
王様は、ため息をついた。
「お前は慎重なのか、大胆なのかわからん。」
「節約家です。」
「そこだけは一貫しているな。」
しばらく沈黙が流れた。
やがて王様は、小さな革袋を差し出す。
「旅の資金だ。」
フェルミノは受け取ると、中をのぞいた。
「ありがとうございます。」
王様の耳には今までの中で1番はっきりと聞こえた言葉だった。
「大切に使え。」
「はい。」
「・・・では、まず旅人登録所へ・・・」
「鍛治工房へ行きます。」
「登録所。」
「工房です。」
「登録・・・」
「工房です。」
2人は見つめあった。
先に折れたのは王様だった。
「・・・好きにするがいい。」
「ありがとうございます。」
フェルミノは深々と礼をし、大広間をあとにした。
王城を出ると、広場には木製の看板が立っていた。
【旅人登録所 新しい仲間との出会いはこちら!】
フェルミノは立ち止まり、その看板をじっと見つめる。
「・・・・」
数秒後。
「宿代・・・」
その一言だけ残して、くるりと反対を向いた。
向かった先は、鍛治工房だった。
カン、カン、と金属を打つ音が響く店内。
髭もじゃの鍛治職人が笑顔を向ける。
「おう、勇者様。今日は仲間の装備でも見に来たか?」
「私のだけです。」
「何人分・・・え?」
「1人分です。」
「仲間は?」
「作りません。」
職人はしばらく黙った。
「・・・喧嘩でもしたのか?」
「最初からいません。」
「看板見たのか?」
「見ました。」
「募集は?」
「しません。」
「・・・・・。」
職人は天井を見上げた。
「最近の若い勇者は、ずいぶん個性的だな。」
フェルミノは真顔で答える。
「個性的ではありません。」
「じゃあ何だ?」
「節約です。」
「そこまで言い切られると、もう何も言えねぇなぁ。」
職人は苦笑いしながら、一振りの剣を差し出した。
「これなら、長く使える。少々高いが、丈夫だ。」
フェルミノは値札を見た。
じっと見た。
もう1度見た。
「・・・・」
「どうした?」
「仲間を3人作るより安いですね。」
「比較対象がおかしい。」
こうして、勇者フェルミノの旅は始まったのであった。
世界を救うために。
・・・いや。
世界を救いながら、できるだけ出費を抑えるために。
そんな勇者は、きっと歴史上初めでであろう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「勇者なら仲間を集める。」
RPGでは当たり前のことを、フェルミノは毎回真面目に疑います。
これからも「宿代」「装備代」「経験値」など、勇者なら誰も気にしないようなことを、本気で考えていきます。
次はフェルミノが、どんな節約理論を披露するのか。
また読みに来ていただけると嬉しいです。




