追放されたらしいけどシチュが特殊すぎるせいで全然分からない
<狼の月・赤の曜・夜>
「闇の追憶の彼方に貴様の漆黒が穿つ悠久などありはしない!」
何を言われているのか分からなかった。マジで全然分からなかった。
文脈的にたぶん怒ってはいるんだろうけど、何をしてほしいのか全然伝わらない。
「ちょっと待ってカイン、何言ってるのさいきなり」
「畏怖の深奥に閉ざされし煉獄の炎、身を焼く者は明日の己か」
依然として何一つ分からない。ていうか昨日までそんなしゃべり方してなかったよね? 変な呪いでも受けた?
騒然とするギルド。とりあえずスキルを試してみるべきか。
「待ってくださいリーダー。アベルだって頑張ってるじゃないですか」
前に出たのは魔術師ミスティア。後ろには賢者ヘイムダルもいる。
よかった。カインと付き合いの長い二人ならきっと奇行の意味も分かるはず。
「ミスティアの言う通りじゃ。彼の『似顔絵魔法』なしに夜明けの剣は成しえない。カイン、お前をパーティーから追放する」
「え?」
賢者ヘイムダルの一声によってカインがギルドの入り口から飛ばされていく。
「……物理的に飛ばさなくてもよくない?」
僕の口から言葉が出たのはカインが遥か遠くの星屑になった後で、ツッコミどころも全然そこじゃなかった。
こうして夜明けの剣のリーダー・黎明のカインはパーティーを追放された。
もういいや。明日もクエストあるし、今日は早く帰って寝よう。
<蟹の月・青の曜・夜>
「ふぉふぁえふぉふぁーふぃーふぁふぁふいふぉーふう!」
「ヘイムダル・オブ・賢者⁉」
何を言われているのか分からなかった。今日も全然分からなかった。状況的に何かの責を問われているんだろうけど、何の罪の話なのかまるで理解できない。
「ちょっと待ってよ。入れ歯だったの?」
「ふぉふぁえふぉふぁふぁふぃいふぁふぇふぁいふぉふぁふぇふふぁふぇふ。ふぉふぉふぇふぉふぉふぉふ」
「待ってください師匠。アベルはいつも頑張ってます。成果はいまいちですけど」
今日も割って入る魔術師ミスティア。後ろには剣聖イシュタロトもいる。ヘイムダルに師事する二人ならきっとじいさんに入れ歯をはめてくれるはずだ。
「師匠。あなたの横暴は目に余る。アベルの『長い紐が絡まらないスキル』に代わって、ここで俺が斬り伏せる」
「ふざけた口をきくな若造が」
「俺は今、過去を超える!!!」
剣聖イシュタロトの奥義・異界斬がヘイムダルを次元の狭間へと斬閉していく。
「……普通にしゃべれるじゃん」
わけの分からないままに彗星の賢者ヘイムダルは夜明けの剣を追放された。
ダメだ。みんな疲れてるのかな。明日は休みにしよう。
<羊の月・黄の曜・夜>
「それはまた、災難だったな」
「なんというか、びっくりしたよ」
夜明けの剣は新人時代から僕を支えてくれたパーティーだ。さすがに間を置かずに諍いが連続すると不安にもなる。まるで何かの大きな意思に突き動かされているような。それとも、これが噂に聞く魔王の精神干渉なのだろうか。
「否、アベルの『占いが五割で当たるスキル』を危険視する気持ちは理解できる」
「そんなスキルないんだけど」
それ以前にこの人は誰なんだろう。僕は一人で飲んでたつもりなのに。
コトリと。困惑する僕の前に置かれる、カクテルの入ったグラス。
「あちらのお客様からです」
「あの? マスター?」
あちら側、誰もいないんですけど。壁なんですけど。何が起きてるの?
「どうやらここまでのようだな」
ため息一つ、剣を抜く名前も知らない人。
「お前をパーティーから追放する」
「どの?」
「すまない、皆で決めた。必要なことなのだ」
「みんなって誰だよ⁉」
何一つ呑み込めないまま、事象の僕・アベルは何かのパーティーを追放された。
翌日確認したら、夜明けの剣にはちゃんと僕の席が残っていた。本人の承認なしで追放なんてできないからおかしくはないんだけど、結局僕は何から追放されたんだろう。まあいいか。
<猪の月・緑の曜・昼>
「ガガガガーピーガガガ・ピーピー・ゴガギガ」
「今忙しいから後にしてくれない⁉」
連日の追放?騒動。今日も何かあるかと思っていたけど、まさかクエスト中に問題を起こすとは。
それ以前にあんな魔道具買ってたっけ?
「黙ってろポンコツ」
おお、今日は珍しくカインが味方だ。
「カインの言う通りです。アベルの『油分を自在に扱う力』は渡しませんよ」
ミスティアも僕を援護してくれている。この流れだと謎の古代兵器が追放かな?
「……カインって追放されてなかったっけ?」
さすがの僕も分かってきた。これは何かの精神干渉だ。でも攻撃を受けた気配はない。それ以前に、誰から、何のために?
「奈落の底に刃を握れ、アベル」
どこか優しさをにじませるカインの声。その由縁は僕には分からない。伝わらない。けれども応えなければと思った。
「お前をパーティーから追放する」
カイン、ミスティア、ヘイムダル、イシュタロト、それに知らない人。
重なる五人の声が、僕の記憶をどこかへと押し流していく。
<萩の月・黒の曜・遠き昔>
「末枯に、積もるおぼえと、人別れ」
紅葉深まる秋晴れの森、静かに響く大名様の御言葉。
うん。一回冷静になろうか。さっきまでの感じからして、僕は忘れていた自分の過去の罪的なものと向き合う流れだったはず。
例えば実は僕が過去にパーティーメンバーを追放しまくってた過去があるとか、その自分を顧みるために幻影魔法にかけられたとかそういうの。でもこれはないよね。過去っていうけど戻りすぎだよね。古文書の時代じゃん。
「なぜです大名! 彼の者の『牛肉を豚肉に変える技能』がなければここまでの旅はなかった」
これもそろそろ気になってるんだけど、なんでみんな僕のスキルを勘違いしているんだろう。もしかしてこれも幻術を抜けるヒントだったりするのかな。
「あの、僕のスキルは――」
「もはや言葉は無用。大名、その命もらい受ける」
光る刀の切っ先は、三日月を描いて僕の体を薙ぐ。
「この流れで斬られるのが僕って、何なの?」
一切の謎を解かせないまま、この僕・双鳴のアベルの胴は二つに泣き別れ、道祖の一座を追放された。
ああ、どこかで見たと思ったら、僕を切ったのはあの飲み屋で会ったお兄さんじゃないか。久しぶり。
<蝶の月・白の曜・今>
「――ベル、アベル!」
誰かが僕の名前を呼んでいる。ああ、この声はカインかな。
「無事だったんですか」「ふざけやがって」
ミスティアとイシュタロトだ。夜明けの剣、僕の仲間たち。
「答えは得たか、少年」
ヘイムダルはいつも何でもお見通しだ。実に頼もしい。僕は拳を掲げる。
「全部分かったよ」
思い出した。魔王との戦いの中、物理も魔法もまったく効かない相手に窮した僕らは最後の賭けに出たんだ。それは僕の持つ「共感」のスキルによって魔王の記憶と同化し、その綻びを探ること。
「別れだ。魔王は離別の悲しみを力に変えている」
不幸な別れ、追放された冒険者たちの怨念が鎧となって魔王を守っていた。でも僕は彼らと分かり合った。今なら悲しい別れたちは僕らの刃を妨げたりしない。
「否、断じて否だ」
口を挟むのは対面の魔王。その姿は僕を斬ったお兄さんと同じ顔をしていた。
「何が違うんだ。悲しみを力に変える君の宿命を、僕らは超えていく」
「そうではない」
魔王が剣を振るう。黒い魂たちが海より深い悲しみを訴える。
「我が内に集う惜別たちは言っている。『お前の神経が理解できない』と」
「……そうだね」
確かに彼らの悲しみは計り知れない。簡単に理解したなんて言うべきじゃないのかも。
でも僕は、彼らの苦しみをこの身で知った、この魂で感じたんだ。
「普通追放されたらおとなしく次のパーティー探すだろ。なんで居座ってんだ」
「霊体で顔が分からないからって知人を代理出演させるなよ。理解できない」
「人の回想に意味不明な子芝居を仕込むな。人権侵害だ」
「オマエヲ・ぱーてぃーカラ・ついほうスル」
「主君をかばう忠臣を、たへて悟らぬ獣の所業よ。いみじくも愚かなり」
苦悶の息とともに、魔王の口から語られる誰かの言葉。
何を言われているのか分からなかった。脳が理解を拒み、けれども悲しみだけが伝わってくる。
彼らは悲しき生き物だ。行き場をなくした魂を導くのが僕の役目だと、そう思えた。
「ダメだ。話が通じない……」
魔王の目から一筋の雫。大丈夫だ。今解放してあげるから。
「魔王もかわいそうに」
「アベルはもうわたしたちのパーティー二十回は追放されてますからね」
「言葉の通じない生き物っているんだよな」
「魔の者を世の役に立てるのも賢者の務めじゃ。いい加減にせえよ」
カイン、ミスティア、イシュタロト、ヘイムダル。大切な僕のパーティーメンバー。
「……みんな」
熱い言葉に勇気がみなぎる。魔力が爛々と輝きを増す。
いくぞ魔王! 僕の共感を君にぶつけよう!! 世界平和の礎となるがいい!!!




