【エルザ=エインズは楽しくお遊びをする】 1
「私は趣味でバイオリンをやっていましてね。これが結構面白いのですのよ」
貴族の婦人達が参加する社交パーティーにて、ファリー夫人がそう話していた。
話を聞いていた周りの婦人達が、まぁそうですの?などと口々に言っている。
「よろしければ、いま演奏致しましょう。プロの方から見れば、とても拙いものでしょうけれどね」
ファリー夫人が付き人にバイオリンを用意させて、弾き始める。趣味でやっていることとしては普通に上手く、聴き終えた聴衆は皆拍手をした。
「お上手ですわ」
「流石ファリー夫人ですわね」
口々にそんなことを言って褒め称えていた。
そんななか、のんびりとした微笑みを浮かべて皆と同じように拍手をしていたエルザへと、ファリー夫人が近寄って言った。
「どうですか、エインズ夫人も演奏なさっては? 確か、貴女も趣味でバイオリンを弾いているのでしたわよね」
「あらあら、私は娘の習い事に便乗しているだけですわ。皆様にお聞かせ出来るような腕前ではございませんのよ」
「まぁまぁ、お遊びですから。お気楽にして頂ければ良いですのよ」
「そうですか? それじゃあ、少し遊んでみようかしら?」
エルザはバイオリンを受け取ると、さっきまでファリー夫人がいた壇上へと上がっていく。
エルザ=エインズ。ウォール=エインズの妻であり、アイラやキャロルの母親である。普段からのほほんとした雰囲気の、物腰の柔らかい女性だった。
そんな彼女を笑顔で見つめながら、ファリー夫人は内心でほくそ笑んでいた。
(うふふ、さあ恥をかきなさいな。貴女なんか家と旦那が凄いだけで、何にも出来やしないノロマ女なんだから。せいぜい金切り声のような酷い音色を聴かせて頂戴な)
エルザがバイオリンを弾き始める。その音色はとても素晴らしく、聴衆はうっとりしていた。
プロのような腕前の演奏だった。
(な……ッ⁉)
ファリー夫人は呆気に取られていた。
演奏が終わり、エルザがファリー夫人へとバイオリンを返しにいく。
「皆様の前で演奏するなんて、やっぱりとても恥ずかしいですわね」
そんなエルザの元へと、たくさんの婦人達が寄っていって、目をきらきらさせながら感想を述べ合っていた。
全員が全員、そのたった一回の演奏でエルザのファンになっていた。その前におこなわれたファリー夫人の演奏のことなどまるで忘れているようだった。
(キーッ! 何よッ、たまたま上手く弾けたくらいで良い気にならないでよッ!)
ファリー夫人は内心で地団駄を踏んだ。




