【ウォール=エインズは静かにコーヒーを飲む】 2
「助けてくれ! エインズ卿!」
ザンド伯爵がエインズ邸に飛び込んできた。
幸いそのときウォール=エインズ以外のエインズ一家は出払っていた。
ソファに座るウォールはコーヒーを持ちながら尋ねた。
「如何致しましたかな、伯爵?」
「私の会社が倒産の危機なんだ! このままでは爵位も剥奪されて路頭に迷ってしまう!」
「それは大変ですな」
「だから助けてくれ! エインズ卿だけが頼りなんだ! 何でもするから!」
「……俺に隠し事をしていませんか?」
「……ッ⁉」
絶望に震えながらザンド伯爵は言った。
「実は多くの不正に手を染めていたんだ! だって仕方ないだろう! 金を集めて増やして登り詰めるにはそうするしかなかったんだから!」
「…………」
「それが警察にバレてしまったんだ! きっと馬鹿な社員共が給料に不満を持ってリークしたに違いない! このままでは私は破滅だ! 貴方だけしか私を助けられないんだ!」
「貴方に一つ良いことをお教えしよう。貴方の会社を調べさせたのは俺だし、警察に通報するよう指示したのも俺だ」
「なッ⁉」
ウォールが指をぱちんと鳴らした。
「連れていけ」
「は」
執事がザンド伯爵の身体を羽交い締めにしながらドアの外に連行していこうとする。
ザンド伯爵が叫んだ。
「大金なら積む! 言った額を用意する! だから」
「貴方から金を受け取ったら、貴方に弱味を握らせることになるではないか。不正で得た金を受け取った共犯者だとな」
「助けてくれ! 何でもするか」
「さらばだ伯爵。永遠に」
バタンとドアが閉められた。
カップを持ちながらウォールが言った。
「何でもすると簡単に言える奴ほど、何にもしないものだ」
○
「あなた、ザンド伯爵が逮捕されたそうですね」
「ああ」
ディナーの席。妻がウォールに言っていた。
「もしかして、あなたが何かしたんじゃないですか?」
「俺は何もしていない。この屋敷でコーヒーを飲んでいただけだ」
「そうですか? ……でも、あなたならお金をふんだくると思いましたよ。何かと屁理屈をつけて」
「最初はそうしようかと思っていたが、気が変わった。奴から金を取ったら弱味になると気付いたからな」
「そんなこと言って。警察にも検察にも裁判所にも知り合いがいるくせに。『この世界が資本主義なら、俺はそれを最大限に利用する』と豪語していたじゃありませんか」
「…………。アイラ」
妻の話を無視して、ウォールが娘に声をかけた。
妻は溜め息をついていた。
「何ですか、お父様」
「お前の婚約破棄で金が吹き飛んだんだ。その分稼いでもらうからな」
「またいつもの商品アイデアの提供ですか?」
「他もだ。絵画、音楽、その他各種の芸術芸能。せっかく習わせたんだから稼いでもらうぞ」
「はいはい、分かってますよ」
「はいは一回だ」
「はいはい」
……まったく、反抗期を迎えやがって。
妹のキャロルがにこにこしながらハンバーグを食べていた。
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