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【王国内屈指の公爵家の令嬢ですが、婚約破棄される前に婚約破棄しました。元婚約者は没落したそうですが、そんなの知りません】  作者: ナロー


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【ロバート=ロジャー警部の来訪】


 エインズ邸の鉄柵の門の前に一人の男がいた。

 よれよれのコート、シワのついた上着、汚れたズボン、無精髭。

 そのコートの胸には一つの記章が付いていた。猛禽類のワシを象った記章……この国の警察のシンボルマークだった。

 男は警部だった。



「お久しぶりですな、ロバート=ロジャー警部。相変わらず寝不足なご様子で、しかし目だけは鋭いままだ」

「お久しぶりです、エインズ卿。本日はお時間を割いて頂き感謝致します」


 エインズ邸の応接客間。

 ソファに座るウォールと、テーブルを挟んだ向かい側に立つロバート警部。

 もちろんソファは用意されているのだが、警部は座ろうとしなかった。


「お座りになっては如何ですか、警部。ここまで疲れたでしょう」

「いえ、私は立ったままで結構です。すぐに帰るつもりですし」

「そうですか」


 本人が遠慮しているので、ウォールはそれ以上勧めようとはしなかった。

 出されたコーヒーと菓子に目を向けることもなく、警部は口を開く。


「私がここに来た理由ですが、先日の事件についてです」

「事件? はて、俺は殺人も恐喝もマネロンもしていないが?」

「ご冗談を」

「いやすまない。こういう身分だからな、心当たりが多すぎて逆に見当がつかないんだ。どこの誰が仕出かした事件で、うちの誰が関わったのかな?」

「エインズ公爵家は自然と敵が湧いてきてしまうようですね」

「全くだ。うんざりする」


 ウォールが肩を竦める。

 警部は述べた。


「先日のひったくり犯の事件です。昼間、道路で女性のバッグがひったくり被害に遭った」

「ひったくり?」

「そのひったくり犯を、貴方の家のメイド二人が捕らえました。本日はそのお礼を申し上げに来たのです」

「ああ、そのことでしたか。報告はそのメイド達から聞いています」


 しかしウォールは不思議そうに尋ねる。


「ですが、わざわざ警部が謝礼しに来る程のことではないと思いますが?」

「そのひったくり犯は先月から度々犯行を繰り返していて、我々も追っていたのです。馬車ですぐに逃げてしまう為、現行犯逮捕が難しくてね」

「なるほど。日々の他の犯罪や、凶悪犯罪などの対処もしなければいけないから、対応がどうしても後手に回ってしまうのですね」

「面目ない次第です」

「いや、私に謝る必要はないでしょう」


 ウォールは続けて言う。


「ご苦労様です。当人達には、後で俺から伝えておきましょう。警部が謝礼に来たと」

「ありがとうございます」

「まあ、あの二人はそんなことは特には気にしないと思いますがね。自分に出来ることをやっただけだと」

「それでもです。この度は犯人逮捕にご協力頂き、誠に感謝致します。では、私はこれで」

「執事に見送らせましょう。屋敷内で迷わない為にも」

「ありがとうございます。以前、大丈夫だと断ってしまった時に、恥ずかしくも迷ってしまいましたから」

「はは、いや広すぎる家というのも考えものですな」


 ウォールは笑ったが、警部は堅物なのか笑みをこぼさなかった。笑顔が苦手なのかもしれない。

 ウォールが執事に言う。


「お見送りしろ」

「は」


 そうして、短い来訪は終わり、警部は屋敷から去っていった。


「相変わらず堅物だが、だからこそ信用できる奴だ」


 ウォールがつぶやいた。



 エインズ邸からの帰途。

 広大な屋敷を背後に、歩きながら警部は考えていた。


(そう、この街には犯罪が多い。捕まえても捕まえても、日々次々と犯罪が起こり続ける)


 王国の首都であることも、もちろん関係しているが。


(犯罪が多すぎる。安息の時がない程に。まるで……)


 そこで警部は小さく頭を振った。


(いや、余計なことを考えるのはよそう。俺は俺に出来ることをするだけだ)


 警察署では、今日も多すぎる犯罪が彼の帰りを待っている。




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