【スティーブ=サイナウトは冒険者になりたい】 1
エインズ邸。応接客間にて。
ウォール=エインズはとある男とチェスを指していた。
その男が言う。
「義兄さん、実は話があるんだけど」
「何だ? 金なら貸さんぞ。お前の家にだって余るくらいあるだろう」
「違いますって」
男はウォールの妹の夫……つまりは義理の弟に当たる者だった。
「ならモールのことか? あいつは強かな所があるからな、へそくりでも貯め込まれたのか?」
モールとはウォールの妹のことである。
「それも違います。妻は相変わらず美人で可愛くて、いざという時に頼りになる素敵な女性ですよ」
「のろけるなら帰れ。チェックメイトだ」
「あちょっ、その手待ってくれませんか⁉」
「さっさと本題を話すなら考えんでもない」
「分かりました、話しますよ。実は私の長男のことなんですけどね」
「帰れ」
ウォールは立ち上がった。
義弟は慌てた声を出す。
「あ待ってくださいって。私の長男のスティーブが冒険者になりたいって言い出しまして。どうにかして諦めさせて、家督を継がせたいんですけどね!」
「お前の家の問題だろう。俺には関係ない」
「義兄さんの妹のモールも困ってるんですけどもねっ⁉」
「あいつがそれくらいで困るものか。困ってるのはお前だけだろう」
「ちょっと⁉ 義兄さん⁉ 待ってくださいってば!」
義弟の声を無視して、ウォールは部屋を出ていった。
○
街の冒険者ギルドにて。
受付に剣士の格好をした男が訪ねてきていた。そばには執事の服装をした者もいる。
冒険者ギルドで談笑していた者達は話をやめて、その二人の来訪者を観察していた。
受付嬢が男と執事に笑顔を向けて言った。
「ようこそ、当ギルドへ。本日はどのような」
「結婚してくださいっ!」
「…………、は?」
笑顔がひきつっている受付嬢に、男は身を乗り出すようにして続けた。
「とってもキュートな方だ! 一目惚れしました! 結婚を前提に結婚してくださいっ!」
「…………」
受付嬢は笑顔のまま固まっていた。
「絶対に貴女を幸せにしてみせます! 子供は何人がいいですか⁉ 僕は野球かサッカーが出来るくらいが」
そばにいた執事が男の頭を掴み、床へと思いきり叩き落とした。
「ぐべっ⁉」
さらにその頭を足で踏みつける。
「スティーブ様、何度仰ったら理解なさるのですか? 無闇矢鱈に婦女子をナンパするのはお控えください。殴りますよ」
「もう既に叩き付けられて踏まれてるんですけど⁉」
「まだ殴ってませんから」
「意味不明!」
びっくりしていた受付嬢は、そこで執事のあることに気付いた。
「あ、あれ、貴女、女性の方ですか?」
執事はスティーブを踏みつけたまま、恭しく一礼する。
「はい。私はこのような格好をしておりますが、性別は女性でございます。いわゆる男装執事であり、誤解させてしまい申し訳ありません」
「はあ……」
「名前はネルンと申します。以後お見知りおきを」




