【悪役を演じる覚悟】 3
テックはニヤニヤしながら言う。
「女ってのは話を聞いて、適当に相槌打って適当に頷いておくんだよ。そんで時々可愛いだの綺麗だの頭が良いだのって褒めとけばイチコロよ」
「さっすがモテモテで百戦錬磨のテック様だぜ、言うことが全然違げーや」
「お前も少しは頭使えっての。その女の本性を見抜いて、承認欲求とか、してほしいことを満たしてやんだよ」
「うへぇ、そーですかい」
悪友はうんざりしたような顔をした。
「んで、俺なんかのことより、カトリーナ様の方はどーなのよ? この前言ってたとーり、やれそーなん?」
「ばっちりよ。あいつ頭お花畑だからな。俺に夢中過ぎて、ちょっと可愛いって言っただけで簡単になびいてくれたぜ。動物園から出たらお楽しみタイムだな」
「へぇー。やっぱやるだけやったら捨てちまうの?」
「当然。俺ってさ飽き性なんだよ。一人の女ばっかなんてツマンネーだろ。ま、捨てる前に色々と貢がせるつもりだけどな、金とか物とか。他の女も紹介させて、そうだな、あの馬鹿、エインズのお嬢様とも知り合いみたいだから、今度はそいつを」
そのとき、べちゃっと物が落ちる音がした。
そして、声。
「……テック君……?」
テックが振り返る。カトリーナがいた。地面にはクレープが落ちていた。
テックはしまったという顔をした。
「あ、か、カトリーナさん、いまのは違くて」
「さよならっ!」
カトリーナは走り去っていった。泣いていた。
テックは呆然とした顔になっていた。
悪友が口を開いた。
「やっちゃいましたね、テックさん。本音をべらべら喋るから」
「テメエッ! 奴が来てたんなら言」
テックが悪友の首元に掴み掛かろうとしたとき、近くの茂みからなにかが飛び出してきて、その手を即座に掴んだ。
ボギリと音がした。テックが叫んだ。
「アアアアアアアアッ⁉ て、手がァッ⁉」
地面に膝をついてうずくまるテックに、その人物が声を降らす。
メイドの姿をしていた。キャロルの専属メイドだった。
「手首の関節を外しただけです。大袈裟に叫ばないでください」
「お、おま、おれに、こんなことしてゆ」
涙目でグシャグシャになった顔を上げるテックに、今度は悪友が言う。
「テックさん、貴方は彼女を傷付けようとしました。それくらいは仕方のない報いなんじゃないですか?」
声は悪友のものではなくなっていた。
「お、おま、だれ」
悪友が顔の端に手を触れて、びりびりとその皮を剥いでいく。精巧に作られたマスクだった。
その下から現れたのは、真剣な顔をしたキャロルだった。
「私はキャロル=エインズです。テック=トリアッタ、貴方のことは調べさせて頂きました。カトリーナには二度と近付かないと約束してくれるなら、私もこれ以上のことはしません」
「てめ、ぜったいにゆるさ」
ドゴンッ!
メイドがテックの鼻先をかすめるように拳を振り下ろしていた。地面に大きな亀裂ができていた。
「キャロル様とエインズ家に仇なす者は、何者であろうと私が許しません」
虹彩が紅い光を帯びているかのように、本気の殺意に満ちた瞳でメイドがそう言った。
「あ……あ……」
テックのズボンに大きな染みが広がっていった。
○
動物園から出て、その帰路。
「キャロル様にお怪我がなくて良かったです」
「……カトリーナは、やっぱり傷付いちゃったけどね……」
「最小限の火傷で済んだと思います。テック=トリアッタも懲りたでしょう。キャロル様はご充分にご活躍なされました」
「どちらかというと暗躍っぽいけどね」
「…………。先程のキャロル様は、まるでアイラ様のようでした」
「……そう……」
「凛々しいお姿でございました」
「ありがと」
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